
企業のWebコミュニケーションをコンサルティングとテクノロジーの両面で、トータル支援する株式会社インフォネット。同社を率いるのは、代表取締役社長の古宿智氏である。同氏は異業種からITの世界に飛び込み、数々の挑戦と失敗を経て独自の経営哲学を築き上げた。入社当時、プロダクトへの評価や新規顧客の順調な獲得により、業績は堅調に拡大している中で、既存顧客への継続的なフォローアップが次の重要な課題であった。、そこからいかにして、企業をさらなる成長軌道に乗せたのか。その原動力と未来への展望に迫る。
未知の世界で自信を打ち砕かれた悔しさをバネにした自己変革
ーーまず、これまでのキャリアについてお聞かせください。
古宿智:
大学卒業後の3年間はインテリア商社で、営業とプロジェクトマネジメントを担当しました。そこでの経験は非常に貴重でしたが、業務を一通りやり遂げたと感じたとき、自身のキャリアを次のステージへ進めたいという思いが芽生えたのです。
当時、世の中はITの成長が著しく、その将来性を強く感じていました。社会に与えるインパクトも大きいと考え、自分の力をよりダイナミックな環境で試し、社会の役に立ちたいと思い、未経験のIT業界へ飛び込むことを決めました。
ーーIT業界に飛び込まれた当初は、いかがでしたか。
古宿智:
これまでの経験が全く通用しないことを痛感しました。ITベンチャー特有のスピード感や、論理的思考を突き詰める文化に圧倒されたのです。何より周囲の実力は高く、自分の未熟さを突きつけられる毎日でした。自信はすぐに打ち砕かれ、悔しさにもがきながらも、必死に食らいついていくしかありませんでした。厳しいご指導のもと、一つひとつ吸収していく繰り返し。一人前として認められるようになったと感じるまでに、5年の歳月が必要でした。
哲学を形成した成功と失敗 二つの経験から得た大きな学び

ーーご自身の今の行動指標や判断基準を確立した、転機となる経験はありますか。
古宿智:
インテリア商社時代に、3日間寝ずにプロジェクトを完遂させた経験があります。精神的にも肉体的にも厳しい状況でしたが、この経験を通じて、どんな困難でも「やりきる」という強い意志が確立されました。また、できない理由ではなく「どうすればできるのか」を考える姿勢も身についたと感じます。
以前の会社で、公的機関が使う画像解析アプリを開発したときのことも大きな学びです。当時は担当者の要求に応えることばかりに終始していました。現場でアプリを使う方々のITリテラシーや業務フローを、全く考慮していなかったのです。結果、そのアプリはほとんど使われない状況になりました。この失敗から、ものづくりは常に「最終的に使う人の視点」で設計すべきだと痛感しました。この教訓は現在のWebサイト構築にも深く生かされています。
ーーその他、ご自身の視野を広げるきっかけとなった経験はありますか。
古宿智:
海外マーケットの案件に携わった経験は、視野を大きく広げてくれました。ビジネスの規模感や意思決定のスピード、顧客が求める価値観は日本と大きく異なります。日本の常識を前提とした対応がいかに通用しないかを、痛感させられたのです。国内だけを見ていて分からなかった市場の力学に触れました。さらに、多様なビジネスモデルを知り、物事を多角的に捉え、戦略を立てる重要性を学んだのです。
「守り」と「攻め」の施策で実現した奇跡のV字回復
ーー貴社へ入社された経緯を教えてください。
古宿智:
前職で経験を積み、次のステップを模索していました。自分の裁量で事業を大きく動かせる、より挑戦的な環境を求めていたのです。そのタイミングで、弊社からお声がけいただいたのがきっかけでした。しかし入社当時、主力プロダクトは国内トップシェアを獲得し続けていましたし、新規顧客からの引き合いは一定の成長を遂げている中で、新たな顧客獲得に注力するあまり、既存顧客への継続的なサポートやフォロアップには課題が残る状況でした。お客様からのお申し出も少なくなく、契約中のお客様との信頼を強化していくところからがスタートでした。
この状況に対し、私はこれまでの自身の経験を生かせると感じました。そんな私に託されたのは、カスタマーサクセス部門の立ち上げと、新たな事業企画の推進です。「足元の信頼を取り戻さなければ、未来は描けない」。そう強く思い、着任したことを覚えています。
ーーどのようにして、その状況を乗り越えたのですか。
古宿智:
まず着手したのは、いただいたお申し出に迅速に対応する「守りの施策」でした。それに加え、Webサイトのログアクセス記録(ログ)を分析しました。そしてアクセス過多などの予兆を事前に察知する「攻めの施策」を徹底したのです。お客様から指摘をいただく前に、通信回線の容量を増やす(帯域拡張)提案などを先回りして行いました。こうして、潜在的な問題を未然に防いでいったのです。
こうした取り組みを徹底し、約2年をかけて信頼回復に努めました。その結果、お申し出の数が大幅に減少。最終的には解約率を1桁台にまで引き下げることに成功します。リニューアル案件のコンペでの勝率も、以前の30〜40%から平均60%へと大きく向上しました。
ーーその後は、どのような戦略を描かれましたか。
古宿智:
顧客との関係改善という守りを固めると同時に、次なる成長への攻めに着手しました。マイナスをゼロにする活動だけでなく、新たな価値を提供してプラスを生み出す必要があると考えたのです。
具体的には、三つの新プロダクトを開発しました。直観的な操作と強固なセキュリティ、そして豊富なテーマテンプレートが特長的なノーコードCMS(※1)「LENSAhub(レンサハブ)」。AI技術を活用したWebサイトアクセス分析ツール「MEGLASS finder(メグラスファインダー)」。そして、記事作成を劇的に加速させるAIライティングサービス「LENSAwriter(レンサライター)」です。これからの収益を担う新たな柱を創出しました。
(※1)CMS:Contents Management Systemの略。Webサイトのコンテンツを管理・更新できるシステム。
時価総額100億円達成へ 次なるステージへの成長戦略
ーー今後の展望についてお聞かせください。
古宿智:
2030年までに時価総額100億円の達成を目標に掲げています。これは単なる数字ではありません。お客様や株主、従業員といった関係者の皆様(ステークホルダー)へ、より大きな価値を提供できる企業へと進化するための中間目標です。この実現に向け、取り戻した顧客との信頼関係と、強化したプロダクト基盤を両輪に、まずは既存事業の収益拡大を追求します。
さらに、成長を加速させるためのM&A(企業の合併・買収)戦略も積極的に活用します。弊社の事業と相乗効果を生み出せる企業と連携し、市場での存在感を飛躍的に高めていく所存です。
ーー目標達成のため、今後はどのような事業領域に注力されますか。
古宿智:
これまでのWebサイト構築で培った基盤を活かします。そして事業の軸足を、より付加価値の高い専門的なコンサルティング領域へと移していきます。単にWebサイトを構築するだけではないのです。お客様の事業課題そのものを解決するビジネスパートナーへの進化が、目標達成には不可欠だと考えています。
その核となるのが、弊社独自の分析ノウハウです。特に成功モデルとして確立しているのが、上場企業向けのIR(※2)支援です。約650項目にわたる独自のコンテンツ分析に基づき、株価対策につながる具体的なロジックを提供します。これにより、大きな優位性を築いています。今後はこの高度なコンサルティングモデルを、企業の競争力を左右する人事・採用領域にも展開し、お客様の本質的な課題解決を推進していきます。
(※2)IR:Investor Relationsの略。企業が株主や投資家向けに行う広報活動。
編集後記
「どうすればできるのか」。古宿氏の信念は、このシンプルな問いに集約される。インテリア商社で叩き込まれた不屈の精神。IT業界で突きつけられた自らの未熟さ。そして、使う人の不在という、ものづくりの本質を見失った手痛い失敗。一つひとつの経験が血肉となり、「顧客の成功」という揺るぎない信念を形づくった。信頼回復の軌跡は、同氏が過去から得た教訓の実践そのものである。課題解決のプロフェッショナル集団へと進化を遂げる同社の根底には、どこまでも「人」を見つめるリーダーの姿があった。

古宿智/1976年山口県生まれ。IT系ベンチャー、商社系ITサービス会社にてBtoBを中心としたSaaSプロダクトの新規企画、サービス開発、マーケティング戦略、アライアンス戦略等の新規事業全般に従事。2020年株式会社インフォネットに入社し、執行役員、取締役を歴任。カスタマーエクスペリエンス向上や新規事業開発、経営戦略推進に尽力。2025年6月に代表取締役社長へ就任。