
「人の可能性を拓き『営業する/される』が楽しい世の中を実現する」というビジョンを掲げ、営業の側面から企業の成長を支援する株式会社アルヴァスデザイン。同社を率いる代表取締役 CVOの高橋研氏は、大手化粧品メーカーの研究開発職から営業の世界へ転身したユニークな経歴を持つ。お客様自身も気づいていない課題を提示し解決に導く「インサイトセールス」を軸に、多くの企業の変革を後押ししてきた。論理だけでは動かない人の心を動かし、関わる人すべてがワクワクする営業の形とは何か。高橋氏に、その哲学と組織づくり、そして今後の展望について聞いた。
研究職からの転身 営業の価値に気づいた創業者の言葉
ーーこれまでのご経歴についてお聞かせください。
高橋研:
大学院卒業後、株式会社ファンケルへ入社しました。そこでは研究開発職として仕事をしていましたが、お客様の顔が見えないことにもどかしさを覚えていました。そんなとき、創業者の池森賢二氏が朝礼で「世の中の最新情報は日経新聞にあるのではない。優秀な営業担当者が持ってくる。だからそういう人を大事にしなさい」と話しているのを耳にしました。この言葉で、営業という仕事の価値に気づかされ、お客様に価値ある情報を提供できる営業職に就きたいと考えるようになりました。
ーーそこから、どのようにして営業の道を歩まれたのでしょうか。
高橋研:
ファンケルを退職後、営業職への転身を決意し、転職活動を始めました。当初はリクルート社を目指したものの採用には至らず、「リクルート出身者のもとで学ぼう」と考え、あるベンチャー企業の社長に「給料が半分になってもいいから」と直談判して入社。ここで2年半にわたり営業の土台を築きました。
その後、大学の先輩からの誘いを受け、アクセンチュア社史上最年少パートナーとなった方が設立したコンサルティング会社に転職。ここでは提案書を破り捨てられるほどの厳しい指導を受けながらも、「理屈の作り方」を徹底的に学びました。
しかし、次第に理屈だけではお客様の心に響かないと感じるようになりました。その頃、大きな転機が訪れます。ある自動車メーカーの専務へ提案した際、相手の反応が芳しくないと感じ、一度提案を中断。改めてその方のビジョンや想いを深くヒアリングし、それに基づいた提案書を作り直したところ、非常に高く評価され、「このシナリオを経営会議で使わせてほしい」とまで言われました。この時、売上以上に「営業は楽しい」と心から実感しました。
この原体験こそが、のちに知ることになる「インサイトセールス」の考え方そのものでした。この新しい営業スタイルを世の中に広めたいという想いから独立を決意し、2013年に弊社を設立しました。
『営業が楽しい世の中』を現場密着で実現 営業出身の講師が徹底伴走

ーー貴社の事業内容について詳しくお聞かせください。
高橋研:
弊社は、営業分野とマネジメント分野における人材開発、すなわち教育事業を主軸に据えています。多くの企業の営業課題はマネジメント課題と表裏一体になっているため、両分野からアプローチすることでお客様の本質的な成長を支援できるのが特徴です。
この事業の根幹には、「人の可能性を拓き『営業する/される』が楽しい世の中を実現する」というビジョンがあります。これは社員と共に考えた言葉で、お客様視点を忘れないよう「される」という言葉を加えました。残念ながら現在、営業は学生から不人気な職種ですが、私たちは営業の本質を単なる課題解決ではなく、その先にあるお客様の理想の姿を実現する支援だと捉えています。この思想を広めることで、営業の価値そのものを高めていくことが私たちの使命です。
ーー貴社が提供する研修には、どのような強みがあるのでしょうか。
高橋研:
強みは、大きく3点挙げられます。1つ目は、約100名いる登録講師のほぼ全員が営業出身者であるという点です。人事系の講師とは違い、現場を知り尽くした人間だからこそ提供できる価値があると考えています。2つ目は、ご要望に応じて研修の効果を定量化し、可視化する仕組みです。そして3つ目は、お客様の営業会議への参加や営業同行など、現場に深く入り込む教育スタイルを確立していることです。ここまで徹底して現場に密着する会社は他にないと自負しています。
強みを活かした事業展開 新分野への挑戦とグループシナジー
ーー今後の事業展開について、どのような構想をお持ちですか。
高橋研:
顧客層と事業分野の両面で貢献領域を広げていく方針です。顧客層については、これまでの大企業中心から、今後は中堅・中小企業のお客様へのサービスの提供を広げていきます。そのために、1人からでも参加できる公開講座や動画教材を拡充し、多様なニーズに応えられるサービス形態を整えています。
事業分野については、既存の営業・マネジメント分野を深掘りすると同時に、新人教育やAI分野にも展開していく予定です。ただし、完全に別のものではなく、自社の強みを生かせる領域に絞る方針です。たとえば、AIであれば「営業組織で活用できるAI」をテーマに生産性向上を支援するなど、既存事業との相乗効果を重視した展開を図ります。
また、グループ会社との連携も加速しており、創業10年という節目にマーキュリー社と経営を共にすることで、着実に成長の道を辿っています。特に採用面で大きな相乗効果が生まれています。また、グループ内での転籍も可能なため、従業員にとっては転職のリスクを負わずに新しいキャリアに挑戦できるという価値も提供しています。
3年で10年分の濃い経験 選択肢が溢れるキャリア環境
ーー採用に関してはどうお考えですか。
高橋研:
私たちが大切にしている価値観(バリュー)である「協創しよう」や、そのために必要な哲学(フィロソフィー)の「真摯であろう」に共感し、それを習慣にされている方とぜひ一緒に働きたいと考えています。特に、前職の上司や経営陣と良好な関係を築いてこられた方は歓迎します。円満な退職にはその人の生き方が表れますし、前向きなご縁をつなげられる方をお迎えしたいです。
ーー貴社で働くことで、どのような成長や経験が得られるのでしょうか。
高橋研:
3年間で10年分に相当する濃い経験ができる環境です。私たちは、社員に独立や転職も含め、多くのキャリアの選択肢を手にしてほしいと本気で考えています。そのうえで、「それでもアルヴァスデザインにいたい」と思ってもらえるような会社であり続ける努力をすることが、経営陣の役目だと認識しています。「他に行くところがないから」ではなく、たくさんの選択肢がありながらも選ばれる会社でありたいと考えています。
ーー最後に、会社として目指す未来の姿についてお聞かせください。
高橋研:
数年以内に売上10億円、従業員数は現在の倍となる人数体制を目指しています。市場でインパクトを与えるためには、相応の規模と知名度が必要だと考えているからです。そして、最終的にお客様からいただく最も嬉しい言葉は、「ためになりました」ではなく「楽しくなりました」という一言に集約されます。学びの楽しさ、営業の楽しさを共有できる会社として認知され、その存在価値をさらに高めていく所存です。
編集後記
営業とは、単にモノを売る行為ではない。顧客の成功を心から願い、価値を提供することに喜びを見出すこと。そして、顧客の未来を共に創造するパートナーであること。高橋氏の一貫した信念は、今まさに営業職として働く人々、そしてこれから社会に出る若者たちへの力強いエールとなるだろう。同氏が灯す情熱の光が、多くの人の道を照らしていくに違いない。

高橋研/2000年、早稲田大学大学院理工学研究科修了後、株式会社ファンケルに入社。商品開発やマーケティング業務に携わる。その後、ベンチャーの人事コンサルティング会社に入社し、人材紹介や人材教育事業に従事。営業担当と並行して、研修講師も務める。2006年、エム・アイ・アソシエイツ株式会社に入社。2万名以上の営業人材開発に関わる。2013年、株式会社アルヴァスデザインを設立し、代表取締役CVOに就任。インサイトセールスの教育プログラムを開発し、現在も多くの営業研修や営業改革プロジェクトに携わる。著書に「実践! インサイトセールス ―AIに駆逐されない営業力」(プレジデント社)がある。