
電源も配線もなしに3年間稼働し続けるカメラと優れたクラウド型の点検AIを利用した日々の点検を自動化するシステム、そして億単位の大きなコストが掛かり危険な作業も伴う定期点検を安全化・自動化するロボット。そんな常識を覆す技術が今、人手不足や老朽化に直面する日本の巨大プラントの未来を支えようとしている。これらの革新的な点検自動化サービスを提供するのが、NBKマーケティング株式会社だ。代表の岡本英一郎氏は、465年の歴史を持つ老舗の後継ぎでありながら、一度は会社からスピンオフした人物。幾多の苦難の末にたどり着いた「人を活かす」という信念の原点、そして日本の未来を見据える事業の展望について話を聞いた。
16代目としての重圧 一度は会社を追われた挫折からの再起
ーー岡本社長のこれまでのご経歴についてお聞かせください。
岡本英一郎:
私の実家は1560年から465年続く製造業の会社で、私は分家ですが16代目として生まれました。高校生の頃、父に言われて家業の鋳物(いもの)工場でアルバイトをしたのですが、そこで目の当たりにしたのは、厳しい環境で、まるでロボットのように単調な作業を黙々とこなす従業員の姿でした。いずれ自分がこの人たちの上に立つのかと思うと、言葉にできないほどの重圧を感じたのです。この時の「働く人を機械の歯車のようにしたくない」という強烈な思いが、後に「人を活かす」という経営理念へとつながっていきます。
大学卒業後は社会経験を積むため、総合商社の兼松株式会社に入社しました。アパレル部門で上司に恵まれ、147億円の売上を達成するなど充実した日々を過ごしました。しかし4年後に家業へ戻ると、待っていたのは華やかな世界とは真逆の現実。作業服を着て鋳物を売る日々に強烈なカルチャーショックを受け、経営能力にも自信が持てず、後継ぎの私へ高圧的な態度を長年くずさなかった父との関係も悪化。最終的に、私は会社を去ることになりました。
ーー退社後は、どのような経緯で現在の事業へたどり着かれたのでしょうか。
岡本英一郎:
「会社を継げ」と言われて育ったので、いきなり辞めても何をすべきか分からず紆余曲折し会社を転々としました。数年後、鍋屋バイテックのパートナー企業だったアメリカの部品メーカーの日本進出のサポートの話が舞い込み、父の後押しもあって挑戦したものの、事業はなかなか軌道に乗りませんでした。
そうした紆余曲折の中、コロナ禍で転機となったのが、沖縄のスタートアップ企業、LiLz(リルズ)の大西社長と彼が仲間と開発した点検AIとの出会いです。石油化学プラントなどの現場点検を即座に自動化するLiLz社の技術に大きな可能性を感じ、パートナーとして事業展開に全力を注ぎました。結果、3年連続でトップ賞を受賞。ようやく再起を果たすことができたのです。
「電源・配線ゼロ」点検自動化で現場の課題を解決

ーー貴社の事業内容やその強みについて、教えていただけますか。
岡本英一郎:
石油や製鉄などの巨大プラントでは、今も毎日人の目で計器を確認する「見回り点検」が行われています。私たちの事業は、LiLz社が開発した革新的なカメラとAIを用いて、その作業を自動化するソリューションをご案内することです。現場の計器にカメラを取り付けるとそのカメラが定期的に計器を撮影し、その画像データがクラウドへ上がって、クラウド内のAIが数値を自動で読み取り、データ化します。
最大の特長は、このカメラが「電源も通信も配線が一切不要」で、電池が3年間も稼働する点です。通常、工場でカメラを設置するには数十万円~数百万円の工事が必要なこともありますが、LiLzの点検AIのカメラは金具で取り付けるだけ。圧倒的な低コストとスピード感で導入が可能です。「安くて、使いやすくて、早い」という圧倒的な手軽さが口コミで広がり、多くの現場で導入が進んでいます。
また、今年から開始した点検ロボットは年に一度の定期点検を自動化するもので、全国的に問題となっている配管の老朽化を確認できる優れものです。早速、ある製鉄会社さんで導入いただくことが決まっています。
ーー貴社のサービスは、どのような社会課題の解決につながっていますか。
岡本英一郎:
日本のプラント現場は、深刻な人手不足と作業員の高齢化に直面しています。特に夏場は酷暑となり、過酷な労働環境が人手不足に拍車をかけている状況です。私たちのサービスは、そうした「暑い、辛い」単純作業を自動化することで、現場の負担を劇的に減らし、人がより創造的な仕事に集中できる環境づくりに貢献しています。これは、高校時代に家業のアルバイトで私が抱いた問題意識そのものに対する、数十年越しの答えなのです。
人を育て新たなステージへ 日本のインフラを支える覚悟
ーー今後の事業展開について、どのような戦略をお考えですか。
岡本英一郎:
おかげさまで、石油、化学、製鉄といった業界の大手トップメーカーとお取引をさせていただいています。今後はこの実績を礎に、「新規開拓」と「既存深耕」の二軸で展開していく考えです。新規では、特に人手不足が深刻な中堅企業様へ。既存の深耕では、大手企業のグループ会社などへ、私たちの製品をさらに広めていきたいです。
その戦略を実現する鍵は「人」です。DXに馴染みのないお客様に製品の価値を的確に伝え、納得していただくには、営業担当者の深い知識と熱意が不可欠です。今、社員が自信を持って提案できる、お客様にとって分かり易いご提案資料の作成を進めており、それに合わせて「雇用を増やし人を育てる」という新たなフェーズに入りたいと思っています。
ーー今後、どのようなスキルやマインドを持つ方と事業を推進していきたいとお考えですか。
岡本英一郎:
現在、セールスエンジニアと管理部門の責任者を募集しています。ロボットを含むIoT機器やAIを扱いますが、専門スキル以上に「社会やお客様の役に立ちたい」というホスピタリティを重視します。理念に共感し、この事業にやりがいを感じてくださる方と、ぜひ一緒に働きたいですね。
「(日常・定期)点検といえばNBK」社会インフラを支え続ける未来
ーー貴社を、これからどのような会社にしていきたいですか。
岡本英一郎:
売上規模を追うのではなく、まずはお客様のお役に立つことを第一に考える。その結果として会社が成長していくのが理想です。その上で、将来的には「日々の点検・定期点検といえばNBK」と、皆様に当たり前のように想起される存在になりたいですね。
タンクなど産業インフラ、そして日本の道路や橋、港、工場といった社会インフラは、今、老朽化という待ったなしの課題に直面しています。私たちの点検事業を通じて、その安定稼働を守り、未来に安全な社会をつないでいく。それが私の使命です。この業界は少し地味かもしれませんが、だからこそ私たちは明るく、楽しく、誇りを持って社会に貢献をし続けていきます。
編集後記
創業465年の歴史を背負い、一度は会社をスピンオフした16代目の岡本社長。その再起の原動力は、高校時代に目の当たりにした過酷な現場で働く人々への「人を活かしたい」という強い思いだった。数十年の時を経て、その信念が最先端のDX技術と結びつき、日本の社会インフラを守る壮大な事業へと結実した。ストーリーは、我々に多くの示唆を与えてくれる。「安くて、早くて、使いやすい」というシンプルな強みが、複雑な社会課題を解きほぐす鍵となる。同社の挑戦が、日本の未来を明るく照らす一助となるに違いない。

岡本英一郎/1970年岐阜市生まれ。慶應義塾大学卒。高校時代に家業の鋳物工場でアルバイトを行い、その際、終わりのない単純作業を繰り返す現場にショックを受け、製造業の経営者としての在り方に悩む。大学を卒業後、兼松株式会社に入社し、上長と共に売上147億円を記録。4年後に上記の課題を残して家業に戻るものの退社。複数の事業経験と挫折を経て、LiLz株式会社の点検AIと出会い、パートナーとして点検自動化事業を本格化させ、経営者として再起を果たす。