
プロ人材の経験・知見を活用して経営課題の解決を支援する株式会社サーキュレーション。同社はプロシェアリング事業を推進し、日本の雇用や働き方に変革をもたらしてきた。2014年の創業以来、フリーランスや副業といった新しい働き方の浸透を牽引。近年では、PKSHA Technologyグループ(以下、PKSHAグループ)との提携で次なる成長フェーズへと舵を切る。創業メンバーとして事業の最前線を走り続け、2023年に代表取締役社長に就任した福田悠氏に、その軌跡と未来への展望を聞いた。
度重なる転機を乗り越えて確立した経営哲学
ーー貴社創業のきっかけについて教えていただけますか。
福田悠:
大手人材サービス会社から弊社の創業に参画した経緯は、大きく2つあります。第一に、「社会をより良くする挑戦を自分たちの手で成し遂げたい」という強い思いです。これまでのHR業界での経験を通じて、日本の雇用制度をより柔軟なものに変えたいと考えていました。第二に、共に事業を立ち上げたいと心から思える仲間の存在です。メンバーへの信頼と絆が、安定した環境から飛び出す決断を後押ししました。
ーーこれまでで、印象的だったターニングポイントは何ですか。
福田悠:
会社としての転機は、2017年の「働き方改革」です。この政策を機に社会の潮目が変わり、弊社事業の追い風となりました。個人としては、創業初期の会社に信用がない中で、私自身を信じてもらうことでビジネスを切り拓いた経験が、今の自分につながっていると感じています。
ーー社長就任時の心境についておうかがいできますか。
福田悠:
今振り返ると、私の中に「社長就任の打診を断る」という選択肢はありませんでした。創業者の一人としての責任感と、弊社が目指すビジョンを達成し続けるという使命感があったため、社長就任に迷いはありませんでした。
考え方の面では、就任1年目に業績を落とした経験を機に、私自身の意識が大きく変わりました。具体的には、評価の軸が社内から社外へと大きくシフトしました。上場企業のトップである以上、私の評価は会社の成長と成果によって株主や市場が判断するものだと、認識を改めました。社員を大切にする思いは当然ありますが、会社を成長させることこそが、結果的に社員に機会を提供できるのだと気づきました。
ーービジョンの実現に向け、社員に大切にしてほしい価値観は何ですか。
福田悠:
創業以来、目の前のお客様に真摯に向き合う姿勢を大切にしています。「プロシェアリング活用で会社が成長できた」という成功体験を積み重ねることが、市場の健全な成長につながるからです。今後はそれに加え、私たち自身がAIのリテラシーを高め、AIを活用してお客様に価値を増幅できる存在になる必要があると考えています。
拡大する市場で競争優位性を確立する事業の二本柱

ーー貴社の事業内容と現在の市場環境についてお聞かせください。
福田悠:
現在の中核事業は、プロ人材の知見を活かし、企業の経営課題を解決するサービスです。これは主に2つの柱で成り立っています。ビジネス領域の「ProSharing Consulting(プロシェアリングコンサルティング)と、ITエンジニアやデザイナーの支援サービス「FLEXY(フレキシー)」を両輪としつつ、事業承継やリスキリングという新規事業の立ち上げに注力しています。
弊社が事業を展開する副業・フリーランス市場は、この10年で黎明期から拡大期へと移行しました。それに伴い競合も増え、非常に注目度の高いマーケットになっています。特にエンジニア領域の市場規模が大きいですが、近年はそれ以外のビジネス領域にも活用の幅が広がってきている状況です。
ーー貴社ならではの強みは何でしょうか。
福田悠:
これまでは、ビジネス領域とエンジニア領域の事業を両輪で成長させてきたことが強みでした。そしてこれからの強みは、PKSHAグループの一員となったことで実現できる「人と知見」に「AI」という新たな軸が加わることで、人手不足や知見が足りない課題に対して人とAI、両方のサービスをグループとして提供できる体制が、これからの市場における明確な差別化要因になると確信しています。
未来を見据えた三つの重点戦略
ーー今後、注力したいテーマは何でしょうか。
福田悠:
注力ポイントは3つあります。
まずは、大手企業開拓の強化です。これまでの中心だった中堅・中小企業に加え、今後は大企業のお客様とも関係を深め、仕組みとしてサービスを導入いただくパートナーを目指します。チームを組成したコンサルティング型の支援や、企業の人事部門と連携し、全社的なプロ人材の活用ニーズを集約する仕組みづくりなどに挑戦していきます。
次に、PKSHAグループとの提携を活かし、当社の社員や業務を「超速」化していきます。第一弾として「PRONAVI now」というAIマッチングシステムがローンチしました。また、社内でのAI活用に止まらず、AIでエンパワーメントされたプロ人材を社会の適材適所に最適に供給する取り組みを推進し、お客様、プロ人材、当社がAIによって自律成長するエコシステムをデザインしていきます。
次に、お客様の事業を創造する「AI活用」です。PKSHAグループとの提携を活かし、お客様と共に新しい価値を創造していきます。
そして3つ目は、社員の成長と活躍を支える「人的資本経営」です。弊社のビジネスの源泉は「人」です。社員への投資を継続し、一人ひとりがポジティブにキャリアを築き、活躍できる環境を整えます。自ら異動を希望できる社内公募制度「ジョブチャレ」などを通じて、社員の成長を積極的に支援します。
ーーPKSHAグループとの提携の背景についてお聞かせください。
福田悠:
提携の話を進めていく過程で、PKSHAはAIにより、どうすれば人や社会の可能性を拡張するかを探求している会社である事の解像度が上がりました。最終的な決め手は、弊社のビジョンである「世界中の経験・知見が循環する社会の創造」と、PKSHAグループが掲げる「人とソフトウエアの共進化」というビジョンの親和性が非常に高かった点です。今後は「AIが人の仕事を奪う」のではなく、人と社会の可能性を切り拓くポジティブな関係性を築いていきたい。AIによって、人はより本質的な業務に集中し、本来の価値を発揮できる社会の実現に貢献できると信じています。
ーー最後に、2〜5年後に目指している会社の姿を教えてください。
福田悠:
中期的な視点で見ると、PKSHAグループとの提携による相乗効果の最大化が大きなテーマとなります。具体的には、「人とAIのポジティブな関係性」を軸とした新しいサービスや事業を生み出し、それがお客様と社会に確かな付加価値を提供し、働くを、AIでエンパワーしている世界を目指します。この取り組みの結果として、次の10年もマーケットでリーダーシップを発揮できる会社でありたいと考えています。
事業成長の原動力となる活躍人材の共通項
ーー貴社で活躍しているのはどのような人材ですか。
福田悠:
弊社で活躍する人材には、「ビジョン」と「成長欲求」を両立しているという共通点があります。会社のビジョンと自身のビジョンを丁寧に接続させながら、高い成長意欲を持っている点が特徴です。
また、私自身の経験からお伝えできることは、目の前の仕事で期待を超え続けることの大切さです。小さな期待超えの積み重ねは、やがて大きな信頼になり、新たな役割や成長の機会との出会いになります。そして、自分の可能性を信じることも重要です。仕事で大きな挑戦をして失敗しても、命までは取られません。そう思えば、大概のことは乗り越えられますし、踏み出す人にだけ、景色は変わる。だから、踏み出す人にだけ、景色は変わる。だから、何度でも挑戦できるはずです。
編集後記
創業メンバーから代表へ。その言葉の響きとは裏腹に、福田氏の語り口は常に冷静で論理的だ。しかし、その内には「社会を良くしたい」「仲間と共に成長したい」という創業以来変わらない熱い情熱が確かに宿る。個々の事象に一喜一憂せず、仲間と組織の成長という大きな視点で未来を見据えてきたからこそ、今の同氏があるのだろう。「人と知見」を武器に市場を切り拓いてきた同社が、新たに「AI」という強力なエンジンを手に入れた。人とAIの共進化という壮大な挑戦は、まだ始まったばかりだ。

福田悠/中央大学理工学部を卒業後、大手総合人材サービス企業へ入社。製造業を中心とした約600社の人材採用を支援。大手法人顧客専属の部門を経て、同社初となる社内ベンチャーの立ち上げに携わる。2014年、株式会社サーキュレーションに創業メンバーとして参画。中小企業や製造業大手顧客を担当しながら、地方金融機関とのアライアンス(業務提携)、地方7拠点の設立を主導し、事業拡大を牽引。2023年4月に、同社代表取締役社長に就任。