
中古・リノベーション住宅の流通プラットフォーム「カウカモ」を運営する、株式会社ツクルバ。同社は不動産メディアの運営にとどまらず、売買仲介やリノベーションなども含む一気通貫のサービス提供を通じて顧客一人ひとりの暮らしに寄り添っている。データとクリエイティビティを駆使したサービス展開も特長だ。業界の慣習に疑問を呈し、顧客視点を徹底的に貫くことで、新たな住まいの当たり前を創造しようとしている。代表取締役CEOの野村駿太郎氏に、同社が目指す未来の住まい体験と、その実現に向けたビジョンについて話を聞いた。
事業者の論理からの脱却 エンドユーザーファーストの徹底
ーーはじめに、貴社の事業内容と特長についてお聞かせください。
野村駿太郎:
住まいを買いたい方と売りたい方、双方へ向けたサービスを提供しています。具体的には、中古・リノベーション住宅の流通プラットフォーム「カウカモ」の運営を軸に、購入や売却の仲介、リノベーション等のサービスを提供。さらに、自社で物件を仕入れて付加価値を高めた自社企画物件の販売まで、住まいに関するあらゆるサービスを一貫して展開しています。新築領域は扱わず、中古領域に特化している点が特徴です。
ーー他の不動産ポータルサイトとの違いはどこにあるのでしょうか。
野村駿太郎:
一般的なポータルサイトは広告収益が事業の柱であり、運営者にとってのお客様は不動産事業者です。一方、私たちは不動産の実業を手がけており、お客様は住まいを探すエンドユーザーになります。
そのため、お客様への向き合い方が根本的に異なります。たとえば一般的なサイトでは、情報の先にある不動産取引は別の仲介会社が担うため、運営会社は事業者ファーストになりやすく顧客体験は分断されがちです。一方で、私たちはメディア運営だけではなく売買仲介やリノベーションも行っており、エンドユーザーと直接向き合うビジネスモデルです。そのため、エンドユーザーファーストを徹底しています。例えばサイトでは、社内に編集部を設けており、プロの書き手が一つひとつの物件を取材して、スペック情報だけでなく、その街でどのような暮らしができるかまで丁寧に記事にしています。顧客との最初の接点から購入後の体験まで、一貫して質の高いサービスを提供することに主眼を置いています。
ーー貴社が掲げるビジョンについて、詳しく教えていただけますか。
野村駿太郎:
弊社は「住まいの『もつ』を自由に。『かえる』を何度でも。」というビジョンを掲げています。かつて住宅は一生モノと言われていましたが、今はライフスタイルの変化に合わせて住み替えることが当たり前の時代です。私たちは、もっと気軽に、もっと楽しく住み替えができる世の中をつくっていきたいと考えています。買って終わりではなく、住んでいる間も、そして次の住み替えのときも、お客様の人生に寄り添い続けるサービスの提供を目指しています。
業界課題への挑戦を支える徹底した顧客中心の組織文化

ーー不動産業界に対し、どのような課題意識を持たれていましたか。
野村駿太郎:
不動産業界は情報の非対称性(※)が大きく、改善傾向にあるものの、まだまだ供給者側の論理で動いています。特に中古住宅の領域では、業界の仕組みが事業者視点でつくられていると感じています。今後、住まいは中古住宅が中心になることは間違いありません。だからこそ、業界全体がもっとサービス業として進化し、ユーザー目線でサービスを展開する必要があるという強い課題意識を持っていました。
(※)情報の非対称性:ある取引やサービスにおいて、当事者間で保有する情報の質や量が不均衡な状態のこと。
ーー数ある選択肢の中から貴社へ移籍された理由は何ですか。
野村駿太郎:
ツクルバが掲げる「住まいの『もつ』を自由に。『変える』を何度でも」というビジョンと、その実現に本気で取り組む、一般的な不動産会社とは一線を画す姿勢に強く惹かれました。入社して驚いたのは、あらゆる意思決定が徹底して顧客視点である点です。この文化こそが業界を良くしていく原動力だと、今では確信しています。
ーー入社後はどのような改革に取り組まれたのでしょうか。
野村駿太郎:
まず、新規事業の責任者として、新たに立ち上げた自社企画物件の事業を2年で約4倍の規模に成長させました。その後はカウカモ事業全体も統括しています。急速な組織拡大によって生じていた営業部門のマネジメントの課題などを解決し、事業サイド全体の改革を進めてきました。
ーー商品開発において大切にしていることは何でしょうか。
野村駿太郎:
私たちの強みは、57万人を超えるカウカモ会員に基づく膨大な顧客データと、それを活用するITリテラシーの高さにあります。一般的な物件開発が不特定多数のマス層をイメージするのに対し、私たちは「この物件に合いそうな顧客は、カウカモの会員の中にいるこの20人だ」という具体的な個人像(ペルソナ)の設定からスタートすることができます。顧客接点の多さとデータの活用によって、お客様一人ひとりをイメージした商品をつくり続けられることが、他社にはない優位性だと考えています。
「新築か否か」のその先へ 第三の選択肢という未来の提示
ーー今後の事業展開について、具体的なビジョンを教えてください。
野村駿太郎:
目指しているのは、2030年頃に「新築か、カウカモか」と当たり前に比較される世界をつくることです。その一環として、施工子会社「カウカモ工務店」の設立を決定しています。リノベーションの品質担保から居住中の不具合対応まで、自社で一貫して責任を持つ体制を構築していきます。また、お客様が安心・快適に物件購入できる金融・保険サービスや物件購入後もサポートし続ける居住中サービスなどの仕組みも強化していきたいと考えています。サービス提供エリアも、まずは首都圏全体へ、将来的には関西などにも広げていく構想です。
ーー今後、どのような人材を求めていますか。
野村駿太郎:
不動産の営業は、建築や金融など複合的な知識が求められる、本来は非常にレベルの高い専門職ですが、世の中ではそのように認識されていないと感じます。私たちは、各領域のプロを束ねてお客様を適切に導けるビジネスプロデューサーのような不動産営業人材を育てることで、不動産営業に対する適切なイメージ形成も推進していきたいと考えています。弊社では現在、営業担当の約3分の2が業界未経験からのスタートです。業界の常識に染まらず、純粋に顧客と向き合える人材を育成する仕組みづくりに力を入れています。社員への還元も強化していく方針です。
「不動産業界で優れた営業がいる会社といえばツクルバだ」と言われるような存在を目指します。自分の仕事に誇りを持ち、仲間との成功に喜びを感じられる方と、ぜひ一緒に働きたいです。
編集後記
ツクルバが目指すのは、単なる不動産仲介業の効率化ではない。それは、住まいの購入から居住、そして売却から住み替えに至るまでのライフサイクル全体をデザインし、顧客体験を最大化するプラットフォーマーへの変革である。データと顧客基盤を武器に、業界の当たり前を一つひとつ塗り替えていく同社の挑戦は、私たちの暮らしの選択肢をより豊かにしてくれるに違いない。

野村駿太郎/1985年東京都生まれ。2009年慶応義塾大学卒業後、株式会社コスモスイニシアに入社。新築マンション部門で複数物件のプロジェクトマネジメントを担当。リテール仲介・中古買取再販部門の責任者として事業成長も牽引。2023年株式会社ツクルバに入社。同年8月より子会社である株式会社ツクルバボックスの代表取締役に就任。2024年2月より株式会社ツクルバの執行役員を兼務。2025年5月に取締役、同年9月より代表取締役CEOに就任。