※本ページ内の情報は2025年11月時点のものです。

「日東紅茶」ブランドで知られ、日本の紅茶文化を牽引してきた三井農林株式会社。1927年の「三井紅茶」発売以来、時代に合わせた多様な紅茶の楽しみ方を提案し続けてきた。2025年、同社の代表取締役社長に就任した藤井洋氏。三井物産株式会社で培った「仲間を応援する」マネジメント論を胸に、社員の深い紅茶愛に触れながら、新たな舵取りに臨む。同氏にこれまでの歩みと、2027年に迎える「日東紅茶」100周年に向けた未来へのビジョンを聞いた。

仲間を応援する姿勢 マネジメントスタイルの原点

ーーこれまでのご経歴をお聞かせください。

藤井洋:
大学卒業後に三井物産へ入社し、基本的には食品の原料に関する仕事を続けてきました。キャリアのスタートはカカオなどの製菓原料で、その後も乳製品、果汁、コーヒーなど、主に嗜好品と呼ばれる分野を担当。日本国内だけでなく、アメリカとシンガポールでの海外経験や、営業以外の戦略企画といった仕事も経験しています。

直近15年は管理職として組織の運営に携わってきました。はじめは20人規模の室長から始まり、出向先の社長や本社の事業部長なども務め、組織長としての経験を積んできました。その中で一貫して大切にしてきたのが、「一緒に働く仲間を応援する」という姿勢です。組織長の役割は進む方向を示し、メンバーのベクトルをそろえ、集団として力を発揮できるようにすること。私の場合は仲間を応援することが、そのベースにあります。

ーー「仲間を応援する」という考え方は、どのように確立されたのでしょうか。

藤井洋:
最初は「自分が引っ張らなければ」と力が入り、自分を「引っ張る側」と捉えていたと思います。しかし、一緒に働いていた仲間たちから「応援していますよ」と逆に励まされる経験が何度もあり、「自分も支えられていたんだ」とある時気づいたのです。以前、大学の応援団長だった会社の先輩からある言葉を教わりました。「応援の本質は、仲間を応援すればするほど、応援されている自分に気づくことだ」と。まさにその通りだと腑に落ちました。

100年の蓄積と社員の情熱 新たな挑戦への決意

ーー貴社の社長就任までの経緯をおうかがいできますか。

藤井洋:
三井物産時代、私が担当していた乳製品や製菓原料と同じ事業部内に三井農林を中心とした紅茶の仕事がありました。しかし、その時点では私自身が直接担当する機会はありませんでした。最初の直接的な接点が生まれたのは、その後、別の会社へ出向していた時に、三井農林と取引があったことです。三井物産本体に戻ってからは、2024年に非常勤の取締役として三井農林の経営に携わり、2025年に社長に着任しました。

こうした経緯もあり、長く紅茶業界に関わってきたわけではないため、私にとっては非常に新鮮な挑戦だと感じています。紅茶業界はこれまで扱ってきた農産品とはまた違う業界構造です。日々新しい学びがありますし、様々な食材とのペアリングで食材を引き立てることができる紅茶は、仲間を応援しようとする自分と共通する部分が多い存在である点が面白く、とても楽しく取り組んでいます。

ーー貴社の魅力や強みについて、どのようにお考えですか。

藤井洋:
まず「三井」というブランドと、長い歴史と伝統の重みです。その中で培われたお茶に関する技術や知見の蓄積が本当に素晴らしい会社です。また、役職を問わず、とにかく紅茶を愛している社員が多いことには驚きました。ここまで商品を愛し、真剣に取り組んでいる人たちがいるのかと、とても新鮮でした。

3つの事業の柱と一貫体制 『TEAの「もっと」』への挑戦

ーー貴社の事業の特徴を教えていただけますか。

藤井洋:
弊社は紅茶を中心とした「TEA」に関する事業を幅広く展開しています。その特徴として、まず事業領域の広さが挙げられます。スーパーなどで皆様が手に取られる家庭用商品。外食・カフェチェーン様やホテル様などを裏方として支える業務用。そして飲料メーカー様が出されるペットボトル飲料などの飲料の原料。これらの3つの柱を持っている点です。

さらに、お茶の川上から川下までを一社で一貫して行っています。原料の調達から、研究開発、製造、販売までを行っており、これが私たちの最大の強みであり特徴です。

ーー会社として大切にされていることはありますか。

藤井洋:
創業時からの「紅茶の美味しさをもっと多くの人に伝えたい」という思い。そして「安心な品質を、手頃な価格で」という思い。この2つが私たちの活動のベースです。

現在家庭用のブランドのひとつである「日東紅茶」では、その精神を受け継ぎつつ、ブランドエッセンス(※)として『TEAの「もっと」を創り出そう。』という言葉を掲げています。これは、時代の変化に合わせて、「TEA」の多様性を生かすというものです。紅茶の楽しみ方はもとより、紅茶だけにとどまらない新しい挑戦を通じて商品を送り出していく、私たちの決意を表しています。

(※)ブランドエッセンス:そのブランドが持つ「本質」や「核となる価値」を凝縮したもの。

次の100年への基盤 伝統を未来へつなぐビジョン

ーー直近では、どのような商品開発に取り組まれていますか。

藤井洋:
「日東紅茶」では年2回、大きな新商品を展開しています。この秋冬は、世の中のブームなども参考に、黒糖フレーバーの商品を目玉として打ち出しました。

また、新しいカテゴリー作りにも挑戦しています。例えば「ミルクとけだす」シリーズです。これはティーバッグに茶葉とミルクパウダーが一緒に入っています。比重が違うものを均一に入れるのは、実は非常に難しい技術です。研究所のスタッフの熱い思いから誕生しました。

カフェで飲む本格的な味を、ご家庭でもっと気軽に楽しんでほしい。そうした需要に応え、広く皆様に楽しんでいただける価値を提供したいと考えています。

ーー今後、注力したい取り組みについてお聞かせください。

藤井洋:
「日東紅茶」は、2027年に100周年を迎えます。日本初の国産ブランド紅茶として日本人に紅茶を紹介し、飲用習慣と共に紅茶文化を根付かせ、100年もの間、愛されてきました。これまで支えてくださったすべての方への感謝を大切にしながら、次の100年も近くに寄り添う存在でいたいと思います。

ブランドエッセンスである『TEAの「もっと」を創り出そう。』、そして当社のMVVにある『彩りで「もっと」を』の、「もっと」を当社社員はもちろん、産地の生産者、製造や物流のパートナー、取引先、消費者などすべての皆様と一緒に育てていきたいと思います。

そのためには、社員1人1人が様々な場所に出向いて発信し、皆様から反応を頂く、という双方向のコミュニケーションが大事で、その積み重ねの中から次の100年の日東紅茶像が新しく形作られていくと思っています。どんな場所でどんな形でコミュニケーションを行っていくか具体的な内容はこれから社内でアイデアを募っていくところですが、このアプローチを通じて世の中に紅茶の良さが更に伝わり、私たちが「にっとこ」さんと呼んでいる日東紅茶ファンが増えることを願っています。

ーー最後に、読者へのメッセージをお願いします。

藤井洋:
テクノロジーが進化し、せわしない日々を送っていらっしゃる方も多いと思います。そんなとき、ちょっと立ち止まって、ほっと一息ついてリラックスする。そのような時には、ぜひ紅茶を手に取っていただきたいです。この1杯のお茶が与えてくれる安らぎで、皆様の人生の豊かさに私たちは貢献したいと考えています。

編集後記

三井物産で培った「仲間を応援する」という信念。それが巡り巡って「自分が応援されていた」という気づきにつながったエピソードは、組織のマネジメントの本質を突いている。藤井氏が三井農林で出会った「社員の深い紅茶愛」。それはまさに「応援」の対象であり、同時に社長自身を支える力にもなるのだろう。100年の歴史を持つ「日東紅茶」が、「にっとこ」さんというファンとの共創を通じ、次の100年に向かう。その中でどのような『TEAの「もっと」』を創り出していくのか、注目していきたい。

藤井洋/1972年広島県生まれ。1995年一橋大学卒業後、三井物産株式会社に入社。食品原料に携わり、2000年米国研修員、2007年アジア・大洋州三井物産シンガポール支店食料室も経験。帰国後、食品原料部乳製品室長、秘書室などを経て、2017年物産フードマテリアル株式会社に出向し、代表取締役社長に就任。2024年から三井物産株式会社食品原料部長と三井農林株式会社など4社の非常勤取締役を兼務。2025年4月に三井農林株式会社の代表取締役社長に就任。