
「欲しいものは、いつも2つある。」というコンセプトを掲げ、さまざまな“食のトレードオフ”を解消するフードブランド「2foods」を展開している株式会社TWO。同社の代表取締役CEOである東義和氏は、ブランドコミュニケーションを手がけるPR会社を設立した経験を持つ。PRの最前線で培った「伝える力」を武器に、メーカーとして入浴剤「BARTH」を成功させた実績もある。
そして、次なる舞台に選んだのは「プラントベースフード」だ。その価値をいかにして社会に届けようとしているのか。失敗を恐れず挑戦を続ける東氏の経営哲学と、事業の展望に迫る。
PRのプロが畑違いの領域に挑んだ理由
ーーこれまでの経歴についてお聞かせください。
東義和:
24歳の時にPR会社を立ち上げました。当時は「スタートアップ」という言葉もまだ浸透しておらず、がむしゃらな船出だったと記憶しています。「会社をつくりたい」という思いはありましたが、資金もなかったので、世の中のトレンドを読む力や発想力で勝負ができるPRという領域を選びました。PRでは、相手によって伝えるポイントや訴求を変える「翻訳作業」が不可欠です。商品の良さを社会や消費者に伝えるためのクリエイティブな部分にも、私は価値を感じていました。
ーーそんな15年間経営されたPR会社を、手放す決断をされたのはなぜですか。
東義和:
社会的にもPRの価値は高まり、会社もある程度の規模になりました。結果としてその会社は上場も果たし、非常に良い経験だったと思っています。しかし、クライアントサービスである以上、どうしても関わり方がスポット的になり、プロダクトを根本からつくる領域には深く携われません。私の中で、PRという価値あるツールを、もっと自分の事業に活かしたいという思いが強くなり、それが会社を売却する決断につながりました。
ーー現在の株式会社TWOを再スタートされた経緯を教えてください。
東義和:
実は、PR会社のホールディングス傘下に、子会社としてTWOをつくっていました。そこでPRとマーケティングを掛け合わせたプロダクト開発を実験的に行っており、生まれたのが入浴剤の「BARTH」です。「BARTH」は、入浴に美容や睡眠といった新たな付加価値を打ち出し、最終的には約4年で20億円規模の売上を達成しました。ニッチな市場で自分たちのマーケティング手法を試し、一定の結果が出たのです。そしてPR会社を売却、私がこのTWOを個人で買い戻す形でリスタートし、本格的に大きな市場へ挑戦する準備を整えました。
そして立ち上げたのが、フード事業の「2foods」です。
ーー“食”という競合も多い市場で、勝機をどこに見出しましたか?
東義和:
競合が多い市場では、ただ良いものをつくるだけでは不十分です。消費者のマインドセットを変える、つまり「なぜこれを摂る必要があるのか」という必要性を伝え、広めなければなりません。それこそが、私が培ってきたPRの領域です。多様な文脈で価値を翻訳し、伝える作業が不可欠になります。このコミュニケーションは、大企業ではさまざまな制約から難しい側面がありますが、スタートアップだからこそ純粋なメッセージとして発信できる。ここに勝機があると考えました。
食の常識を覆す「2foods」の新たな価値創造

ーー主力ブランド「2foods」が目指す価値について教えてください。
東義和:
「2foods」では、付加価値の高い食品を展開したいと考えています。付加価値が高いというのは、分かりやすい健康要素と、ワクワクするような情緒的な価値の両方を指します。食品は比較的安価なものが多く、情緒的価値を持つブランドは極めて少ないのが現状です。私たちは、すべての商品を共通のクリエイティブで展開することで、ブランドとして統一感を持ち、長期的に価値を築いていきたいと考えています。
代表的な商品に、ゼロカフェインエナジードリンク「2Energy」、リポソームビタミンC配合グミ「2Gummy」、ギルトフリーなスナック「2Snack」などがあります。たとえば「2Energy」は、エナジードリンクの無理して頑張る時に飲むというイメージを変え、少しギアを入れたい時の新しい選択肢として提案しています。また「2Gummy」は、「リポソームビタミンC」を、サプリが苦手な人でも美味しく続けられるグミという形で提供しています。これは栄養素の新しい摂り方であり、シーンの創出を意図したものです。このように、個別の商品ごとにも習慣やカルチャーを変えるようなマーケティング戦略を持って展開している点が、弊社の特徴です。
「ありのまま」が強みとして輝く組織の在り方

ーーこれまでのご経験で、特に大切にされている価値観は何ですか。
東義和:
仕事もプライベートも、「ありのまま」の素の自分でいることが大切かもしれません。無理をしたり、思ってもいないことを言ったりすると、結果的にストレスになります。昨日思っていたことが今日変わることもありますが、それもまた、ありのままの自分自身。そう思った自分を受け入れるようにしています。
その価値観は、組織づくりにも反映しており、会社の「あるべき状態」を厳しく個人に求めるような組織にはしたくないと考えています。基本として、社員が素でいられる環境を大切にしています。たとえば、苦手なことを無理にやらせるのは、本人にとって大きなストレスです。それよりも、得意なことを伸ばした方が良い。この考え方も「素であること」を重視するからこそです。
ーー社員の皆さんにもその考えは伝わっていますか。
東義和:
伝わっていると思います。弊社は私の色がそれなりに出ているので、それに居心地が良いと感じてくれる人が集まっているのではないでしょうか。無理がないからこそ、メンバーは自社のブランドを好きでいてくれ、主体的に仕事に取り組んでくれています。誰か一人のスーパースターがいるというより、同じ意識を持つ人たちが集まり、掛け算で新しいものが生まれていると感じます。
トレンドで終わらない未来を描く挑戦と覚悟
ーー事業をゼロから生み出す上で、苦労されたことは何ですか。
東義和:
失敗から学ぶことばかりです。3歩進んで2歩下がるようなことの連続ですね。特にゼロからイチを生み出す作業は、最初は妄想や仮説から始まりますから、それが外れることも多々あります。楽しさと苦しさの両方がありますが、そうした経験の捉え方、精神的な解釈の仕方が経営者として培われてきた部分だと思います。
ーー最後に、今後の事業の展望についてお聞かせください。
東義和:
食の市場は大きいので、一度火がつけば一気に単位が変わるビジネスです。5年後には売上数百億円を目指せるようなプランを描いています。ただ、一過性のトレンドで消費されるブランドにはなりたくありません。遠回りに見えても、SNSなどを通じて私たちの哲学に共感してもらえるような、深みのあるマーケティング活動を続けるつもりです。それによって、ブランドのしっかりとした土台を築いていきたいです。
編集後記
PRのプロとして道を究めた人物が、次なる挑戦の場に選んだのは、畑違いともいえる「食」のメーカー業だった。しかし、東氏の話を聞くと、その選択は極めて論理的で、一貫した哲学に貫かれていることがわかる。「伝える力」を最大の武器に、プラントベースフードという巨大な市場の価値観そのものを変えようとしている。その壮大な挑戦、そして失敗を学びと捉え、「素でいられる」組織で前進を続ける同社の未来に、大きな可能性を感じた。

東義和/2005年、ブランドコミュニケーションを手がけるPR会社、株式会社マテリアルを設立。2014年に株式会社TWOを創業し、2021年には「欲しいものは、いつも2つある。」をコンセプトに掲げるフードブランド「2foods」を立ち上げる。おいしさとさまざまな価値の両立を追求した「究極の食」の創造を目指す。