※本ページ内の情報は2025年11月時点のものです。

人事労務業務の分断という根深い課題に対し、ソフトウェアのクラウドサービス「One人事」で解決策を提示するOne人事株式会社。同社は単一のデータベースですべての機能が連動する「ワンデータベース」を最大の強みとして、企業のDXを力強く推進している。この革新的なサービスを率いるのは、エンジニアと営業という異なる立場で顧客課題と向き合い続けた代表取締役社長の唐沢雄三郎氏だ。同氏はいかにして今日の規模まで事業を成長させたのか。その軌跡と、日本の人事業界の未来をどう描いているのか、話を聞いた。

システム提供の先にある価値 顧客理解から生まれた起業の志

ーーまず、これまでのキャリアについてお聞かせください。

唐沢雄三郎:
理系の大学を卒業後、IT企業に入社しました。そこではERP(※1)の販売導入や開発に携わり、エンジニアと営業、両方の立場から多くのお客様と向き合ってきました。特に印象に残っているのが、「貴社に発注するのは、単にシステムが良いからだけでなく、我々の業務を深く理解してくれるからだ」というお言葉をいただいたことです。この経験から、お客様の課題を本質的に解決できる“仕組みそのもの”をつくりたいという思いが強くなり、「人事の構造そのものを変える」ことを志して起業に繋がりました。

(※1)ERP:企業の経営資源を統合的に管理するためのソフトウェア

ーー創業当初、特にご苦労されたことは何でしたか。

唐沢雄三郎:
最も苦労したことは、創業初期、オフィスもマンションの一室で寝袋で夜を明かすこともあり、その中で、「志」と「実行力」を兼ね備えた仲間と出会うのは簡単ではなく、採用のたびに自問自答を繰り返しました。志を同じくする仲間を見つけるまでには、大変な時間がかかりました。採用や組織の構築で何度も壁にぶつかりましたが、それらを一つひとつ乗り越えた結果が、現在の規模といえます。

また難しい局面に立つたびに、「今の苦しみは、未来の何かに必ず繋がる」と自分に言い聞かせてきました。苦労には意味があり、そこから逃げずに自らを進化させることができれば、その先の未来は良くなると信じています。特に若い時の苦労は、キャリアの大きな糧になるはずです。大切なのは、何事も諦めないことでしょう。

API連携不要へのこだわり 真のワンストップソリューション

ーー貴社サービスは、どのような着想から生まれたのでしょうか。

唐沢雄三郎:
弊社の主力サービス「One人事」は、入社から退職までの人事労務業務をワンストップで支援するサービスです。人事労務のあらゆる業務を「一つの仕組み」で完結させたい。API連携(※2)などに頼らないサービスを目指し、実際に、年末調整の工数が従来の150時間から75時間に半減した事例もあり、現場からは「二度手間がなくなった」と評価いただいています。開発当初の2016年頃からSaaS(※3)が注目され始めましたが、多くは特定の機能に特化したものでした。それらをAPIでつなぐモデルでは、お客様の手間は根本的には解決されないと感じていました。日本の人事労務の現場が抱える業務の分断を、本当の意味で解消するサービスをつくりたいという強い思いがありました。

(※2)API連携:ソフトウェア同士を連携させる仕組み
(※3)SaaS:クラウド上で提供されるソフトウェアサービス

ーー貴社サービスならではの独自性、強みについてお聞かせください。

唐沢雄三郎:
最大の強みは、OneDBによって全機能が1つのDBで連携されており、API連携や手作業が一切不要である“本質的なワンストップ”を実現している点です。データ連携は一切不要です。多くのサービスが「ワンストップ」をうたっていますが、裏側ではデータ連携が必要なケースが少なくありません。対して弊社のサービスは、お客様の煩雑な作業と人的コストを大幅に削減できます。

この独自性を実現できた背景には、二つの強みがあります。一つは、創業当初から培ってきた高い開発力。そしてもう一つは、旧サイエンティアの20年以上にわたる公共系人事給与のノウハウを吸収し、「技術×導入実績×公共対応力」の3軸を一気に強化したからこその、人事給与製品に関する豊富なノウハウです。この技術力と専門知識の融合があったからこそ、他社にはないサービスを実現できたと考えています。

自らを人事のプロと定義する ブランディングとメッセージ

ーー社名には、どのような思いが込められているのでしょうか。

唐沢雄三郎:
一番の目的はブランディングです。提供するサービス「One人事」と会社名を一致させ、お客様に覚えていただきやすくしたいと考えました。同時に、「私たちは人事のプロフェッショナル集団です」という明確なメッセージを社会に発信したいという思いも込めています。

ーー今後、どのような取り組みに注力される予定ですか。

唐沢雄三郎:
現在、私たちは大きく3つのテーマに注力しています。

一つ目は、“人事領域へのAI活用の本格化”です。労務手続き・報酬・勤怠・異動・評価・育成といった人事業務には、過去の履歴や行動データ、人的関係性といった“構造化しづらい情報”が多く存在します。それらをOneDBに蓄積された統合データと組み合わせることで、「先を見通せる人事」の実現を目指しています。たとえば、離職リスクの予測、キャリアの次の一手の提案、最適な育成タイミングの通知など、“人事がより人に向き合えるAI”の開発を進めています。

二つ目は、“ターゲットの拡大”です。これまでは~800名規模の企業が中心でしたが、現在は800名~5000名規模の中堅〜大手企業にも対応できる製品力と体制を整えています。人事制度や組織構造が複雑な大手企業ほど、OneDBの一元化思想やリアルタイム連携が強く機能すると考えています。

そして三つ目は、公共領域における“ノーカスタマイズ”モデルの確立です。従来の公共分野では、仕様調整や帳票対応など、どうしてもカスタマイズが前提となり、お客様にとってもコスト・納期・保守面で大きな負担になっていました。私たちはそこに、SaaS的な共通設計思想を持ち込み、“使える標準機能”で運用できる世界を本気で実現しようとしています。それは結果的に、国の行政コストの削減や、国全体の公共人事DX推進にも貢献できると考えています。

これら3つの取り組みを、「人事を、もっとシンプルに。そしてもっと人に向き合えるものにする」ための挑戦と捉え、私たちは今後も取り組んでいきます。

社員の自発性を引き出す 挑戦を後押しする組織文化

ーー今後、どのような人材を求めていますか。

唐沢雄三郎:
弊社では「本気」「報連相」「スピード」という3つの行動規範を軸に、SlackやTeamsを用いたオープンな情報共有、役職を越えた率直な対話が日常的に行われています。これに共感し、自ら考え、自発的に動ける方が弊社では活躍しています。これからもお客様に対して積極的に行動できる方と一緒に働きたいと考えています。特に若い方々には、その情熱を存分に発揮できる舞台を提供できると確信しています。

ーー貴社の社風や、大切にしている文化について教えてください。

唐沢雄三郎:
社員一人ひとりの挑戦を後押しし、その成果が正当に評価・還元される文化です。弊社では、個々が持つ才能を最大限に支援し、それが花開くような活躍の場を提供します。そして、発揮された才能の成果を本人に還元することを何よりも大切にしています。さまざまな意味で働きやすく、挑戦しやすい環境を整えています。

SaaSとAIで目指す未来 統合型HRのリーディングカンパニーへ

ーー最後に、貴社が目指す未来像と、読者へのメッセージをお願いします。

唐沢雄三郎:
「5年後、統合型HR SaaSのリーディングカンパニーへ」。これが私たちの大きな目標です。少子高齢化が進む日本において、企業の生産性向上は待ったなしの課題です。弊社はSaaSとAIの力を駆使し、エンゲージメント(※4)やタレントマネジメント(※5)の領域でその課題解決に挑み「統合型HR×AI」という日本独自のモデルを確立した、“人的資本の社会インフラ”として不可欠な存在になることを目指しています。

未来を創っていく上で、若い方々の力は不可欠です。人生で働ける時間は限られていますから、ぜひご自身の才能を信じて、さまざまなステージでチャレンジしてほしいと思います。そのチャレンジの中にこそ、本当の生きがいが見つかるはずです。

(※4)エンゲージメント:従業員の会社に対する貢献意欲や愛着
(※5)タレントマネジメント:従業員の才能やスキルを最大限に活かすための人材育成・配置戦略

編集後記

エンジニアと営業。双方の視点から顧客の課題を深く見つめてきた唐沢氏。その言葉の端々から感じられたのは、「お客様の業務を本当に楽にしたい」という純粋かつ強い意志であった。多くの企業が「ワンストップ」を掲げるが、その裏側に潜む煩雑さが潜んでいる。その課題を解決する「ワンデータベース」というこだわりは、同氏の思いの結晶だろう。社員一人ひとりの才能を開花させることを自らの役割と語る同氏の姿勢こそが、顧客への真の価値提供を支えている。日本の人事DXを牽引する同社の挑戦から、今後も目が離せない。

唐沢雄三郎/2008年(当時30歳)に「株式会社日進」を設立。2017年には「株式会社サイエンティア」を吸収合併し「株式会社日進サイエンティア」を発足。2024年に「One人事株式会社」へ社名変更し、SaaS・公共双方のHR領域で急成長中。