※本ページ内の情報は2025年12月時点のものです。

プラントベースのクッキーを中心とした焼き菓子ブランドを展開する株式会社ovgo。ユニークなフレーバーとデザイン性に加え、国際的な倫理認証「B Corp」(※1)を国内の飲食店で初めて取得するなど、ビジネスと社会貢献の両立を追求している。金融業界から転身し、2023年に代表取締役に就任した髙木里沙氏。厳しい状況から組織を立て直し、グローバルブランド化を目指す同氏に、変革の裏側と未来戦略について、話をうかがった。

(※1)B Corp:米国の非営利団体B Labによる国際認証制度。厳格な評価のもと、環境や社会に配慮した公益性の高い企業に与えられる。

創造性の欠如が促したキャリアの劇的な転換

ーーまずは、貴社に入社するまでのご経歴をお聞かせください。

髙木里沙:
前職では約5年間、財務アドバイザリー業務に携わっていました。上場企業向けに財務提案を行う中で、フレームワーク的な作業が多く、新しいことを創造する機会が少ないと感じるようになりました。私は新しいことを吸収しながら生きることに幸せを感じるタイプです。もう少し違う頭の使い方をするビジネスに挑戦したいと考え、転職を考え始めました。

ーー数ある選択肢の中で、貴社へ入社された決め手は何だったのでしょうか。

髙木里沙:
友人が立ち上げた会社だったこともありますが、事業そのものに大きな可能性を感じたのが決め手です。プラントベース仕様であることのユニークさに加え、クッキーという焼き菓子は海外の人に受け入れられやすい商品特性があります。そのため、グローバル展開も面白いのではないかと考えました。

そして、当初CFO(最高財務責任者)としてジョインし、事業計画を手伝う中で、私もクッキーを焼く現場に入りました。そこで、一緒に働いていたのは専門学校を卒業したばかりの、20歳前後のメンバーたち。彼女たちが夢を持ち、自社の商品を本当に好きでいてくれる姿を見て、この子たちが活躍できる場をつくることは、経営者としての責任だと強く感じるようになりました。

創業者の信念を守りながら実行した組織改革

ーー社長に就任された当時は、会社はどのような状況だったのでしょうか。

髙木里沙:
正直、業績が良いタイミングではなく、コストもかさんでいました。組織の雰囲気も沈みがちで、やらなければいけないことが多い状況でした。それまではスタートアップ特有の勢いに任せてきた部分も多く、業務が属人化していたため、まずは徹底的な「仕組みづくり」が必要だと判断しました。

具体的には、就任から1年半ほどかけて組織改革に取り組みました。それまでフラットすぎて責任の所在が曖昧だったため、「店長」という役職を設け、責任感を明確にしたのです。また、週次の全体ミーティングや店舗ごとのKPI(※2)設定を導入し、あわせて人事制度も整備しました。これは、頑張りたいメンバーをきちんと評価し、昇給できる環境をつくることで、自発的な責任感を引き出したいと考えたからです。

(※2)KPI:「重要業績評価指標(Key Performance Indicator)」の略で、最終的な目標を達成するためのプロセスにおける重要な指標。

ーー仕組みを整える一方で、変えなかった部分はありますか。

髙木里沙:
創業者がつくった「ブランドブック」に込められた信念やマインドセットは一切変えていません。私たちは「ゆるさ」や「自由」を大切にしていますが、それは「ブランドを傷つけない」という情熱が大前提です。そして、その自由には大きな責任が伴うことをメンバーには意識してもらっています。

ーー経営をする上で大切にされている軸を教えてください。

髙木里沙:
前職の経験から「ビジネスとして回っていなければ評価されない」という現実は理解しています。そのうえで、これからは社会貢献が「当たり前」にならざるを得ないとも感じています。ovgoでは「やさしい・たのしい・おいしい」をモットーにしており、悩んだときはこの3つの軸に立ち返るように伝えています。

プラントベースでありながら美味しさを追求する開発力

ーー貴社の強みについてどのようにお考えですか。

髙木里沙:
まず、商品開発力とSKU(種類)の多さです。クッキーだけでも総レシピ数は500以上あり、「山椒」や「コラード(野菜)」といったユニークなフレーバーも、スタッフのアイデアからスピーディーに商品化しています。

商品開発において、私たちは「ビーガン仕様であること」と「おいしいこと」を絶対条件にしています。プラントベースの食品は、条件を増やすほど味が落ちてしまうこともありますが、私たちはその部分以外は自由に開発しています。お客様からは「これがプラントベースなの?」と驚かれることも多く、この美味しさが今後の海外展開での武器になると考えています。

ーーその他、貴社ならではの特徴はありますか。

髙木里沙:
国内の飲食店として初めて「B Corp認証」を取得した点です。将来的にグローバルで展開していく上で必要な認証だと考え、設立の早い段階から取得基準に沿って会社づくりを進めてきました。

ただ、こうした倫理的な取り組みがある一方で、私たちのスタンスも特徴かもしれません。私たちは「ビーガン仕様」や「環境配慮」といった点を、あえて積極的にお客様に発信することはしていません。そうした言葉が「専門的で入りにくい」という印象を与え、お客様との間に壁を作ってしまう可能性を懸念しているからです。私たちは誰に対してもオープンな存在でありたいと思っています。

ovgoのクッキーは、バターや卵を使ったものよりCO2排出量を抑えられることがわかっています。お客様に我慢や努力を強いるのではなく、ただ「おいしい」「たのしい」と感じて食べるだけで、自然とサステナブルな行動に貢献できている。私たちはそうした体験価値を提供していきたいです。

「ovgo」が動詞になる未来へ 求めるのは素直さと情熱

ーー今後のビジョンについてお聞かせください。

髙木里沙:
サステナビリティが特別視されるのではなく、「気づいたら当たり前にできている世界」をつくりたいです。いずれは「ググる」が動詞になったように、「ovgo」がサステナブルな行動を象徴する動詞になれば嬉しいです。

その実現に向けて、まずは、より多くの方に知っていただくため、国内店舗を10店舗まで拡大したいと考えています。海外でも「おいしい」「かわいい」と手に取っていただき、食べることで環境負荷低減に貢献できている、と気づいてもらえるようなブランドを目指します。

ーー今後の成長に向け、どのような人材を求めていらっしゃいますか。

髙木里沙:
特定のスキルよりも、「素直さ」と「情熱」を重視しています。弊社はルールが少ない分、「本当にこれで大丈夫?」と自分の心に正直に問い続け、判断することが求められます。「好き」という気持ちや情熱があれば、困難な壁にも別のアプローチで挑めると信じています。

ーー最後に、未来の仲間に向けてメッセージをお願いします。

髙木里沙:
興味を持ったことには、ぜひ挑戦してほしいです。最初は「何をやりたいかわからない」と言っていたメンバーが、とりあえずやってみることで大きく成長する姿をこれまで見てきました。ovgoにいる間に、いっぱい失敗して、たくさんのことを吸収してほしいと思います。

編集後記

金融業界でのシビアなビジネス感覚と、スタッフの「好き」という純粋な思いを尊重する温かさ。髙木氏は、その両輪を絶妙なバランスで回している。B Corp認証や「ビーガン」という言葉の裏にあるのは、「我慢」ではなく「楽しさ」の追求だ。「ovgo」が動詞になる未来とは、サステナブルな行動が、特別な努力ではなく毎日の楽しみとして生活に溶け込んでいる状態を象徴している。同社の挑戦に、今後も注目していきたい。

髙木里沙/慶應義塾大学大学院を修了。学生時代には米国とフランスに在住経験を持つ。新卒でメリルリンチ日本証券(現・BofA証券)の投資銀行部門に入社し、グローバルM&AやIPOなどの業務に携わる。2021年に株式会社ovgoにCFOとして入社し、2023年より代表取締役に就任。