※本ページ内の情報は2025年12月時点のものです。

三井物産グループの一員として、水産物の輸入販売や日本産食材の輸出を手掛ける三井物産シーフーズ株式会社。同社は前身の東邦物産時代から数えて60年以上の歴史を持ち、変化に対応する「柔軟性」と「しなやかさ」、そして水産物に関する「専門性」を強みとしている。2024年10月に代表取締役社長に就任した鷲見洋一氏に、同社の事業、水産物ビジネス特有の難しさ、そして持続的成長に向けた経営の考えについて話を聞いた。

柔軟な企業文化と専門性が生み出す強み

ーー鷲見社長と貴社との関わりはどのように始まりましたか。

鷲見洋一:
1991年に三井物産株式会社に入社し、食料部門にて水産物や配合飼料の原料などを担当してまいりました。弊社との最初の関わりは、約20年前にさかのぼります。当時、弊社の前身である東邦物産へ三井物産から水産物貿易事業が移管されることになり、その業務と共に私自身も出向いたしました。

その後もご縁があって今回が3度目の出向となり、2024年10月に代表取締役社長に就任いたしました。

ーー改めて、貴社の主な事業内容をおうかがいできますか。

鷲見洋一:
事業は大きく二つあり、一つは水産物の輸入販売です。主にエビ、サーモン、魚卵、本マグロなどを中心に扱っています。もう一つは、日本産の食品食材を主にアジア中心に輸出する事業です。調達は北米、中南米、東南アジア、ヨーロッパと非常に広い範囲で行っています。社員が買い付けや加工の立ち会い、検品などで出張することも多いです。

ーー60年以上の歴史を持つ中で培われた、貴社の強みは何でしょうか。

鷲見洋一:
一つは、前身の東邦物産から数えると60年以上続く中で、ビジネス環境や株主からの役割期待の変化に対応し、事業内容を変えてきた「柔軟性」と「しなやかさ」です。もう一つは、商品の「専門性」の高さだと考えています。私たちは水産分野において、生産者のこと、商品のこと、需給と相場のことをよく理解しています。この専門性を知見として共有し、一人ひとりの社員が業務に取り組んでいることが大きな強みです。

不確定要素が多い水産物ビジネスの「難しさ」と「喜び」

ーー水産物事業特有の難しさについて、具体的にお聞かせいただけますか。

鷲見洋一:
最近のニーズとして、簡便で、健康で、買いやすいものが求められています。私たちはこうした需要の変化に対応しながら事業を展開しています。しかし、水産物は計画・契約通りに漁獲されるかどうかの予測が難しく、不確定要素が非常に多い産業です。たとえ量的に獲れたとしても、期待していたサイズや鮮度であるかどうかも含め、なかなか想定通りにはなりづらい部分があります。

また、水産物は株式や為替のように定期市場で先物取引(ヘッジ)ができません。そのため、基本的には現物を見ながら、一対一の相対取引でお客様と状況を共有し、慎重に商売を進めなければなりません。商品を設計し、海外で加工する際には、社員が出張して立ち会い、規格通りのものをつくる必要もあります。

このように、市場の予測から加工、品質管理に至るまで、専門性の高い社員が広く深く関わることが、このビジネスの難しさであり、それを乗り越えてお客様に価値を提供できた時には大きな喜びがあります。ビジネスはディテールに拘ることが大切だと考えます。

急成長より「持続性」 課題改善で目指すあるべき経営の姿

ーー今後の会社経営においてどのようなビジョンをお持ちでしょうか。

鷲見洋一:
成長をあまり急ぎすぎず、持続的に成長していけるようにしたい、という思いがあります。とは言え、株主などからは当然スピードも求められますので、持続性とスピードを両立させられればと考えています。会社は生き物であり、成長サイクルもあります。私の仕事は課題を見つけて改善していくことだと考えていますので、課題の明確化と改善方法を社員や株主と共有しながら進めています。

ーー人材育成において、どのようにお考えでしょうか。

鷲見洋一:
新入社員に毎年伝えていることが三つあります。一つ目は、謙虚に学ぶこと。技術革新など変化が多いので、環境に合わせて学び続けてほしいです。二つ目は、助け合える仲間と新しいことに挑戦していく気持ちを忘れないこと。発想力や行動力、人間力が大きな原動力になります。三つ目は、人との出会いを大事にすることです。私自身も振り返ると、いろいろな人に出会い、助けられましたし、人格形成に大きな影響を与えてくれた人もいます。出会いはその人自身を豊かにするものですから、大切にしてほしいです。

ーー組織づくりのために特に力を入れていることはありますか。

鷲見洋一:
私自身が社員とコミュニケーションをとる中で感じる実感と、年に一回実施しているエンゲージメントサーベイの結果、その二つを客観的な指標として見ながら、社員の働きやすさや、会社への貢献意欲といったエンゲージメントの状態を常に改善していきたいと考えています。全社でコミュニケーションが活性化して現場で小さなイノベーションが連鎖するのが理想です。社員の活躍を引き出し、生産性を上げることに繋がります。

今年は改善策として12個の施策を作りました。基本はコミュニケーションの活性化が目的です。たとえば、全社に対して「会話量をアップしよう」と呼びかけ、相互理解と相手への敬意・配慮を深める機会としています。また、役員が固定席を離れてフリーアドレスの社員と話す環境にしたり、社員とランチで「車座」と呼ぶテーマを決めた意見交換会を開いたりしています。さらに、事務所内に立ち机を設置し、PCやメモを持たずに短時間で業務上の雑談を促すなど、形式ばらない会話の機会も増やしています。

水産物事業の「総合化」を目指す未来

ーービジネスの中で、最も難しさを感じられるのはどんなところですか。

鷲見洋一:
ビジネスを作るプロセスにも始まりと終わりがあり、その真ん中部分、つまり「中盤戦」が一番苦労すると考えています。想定通りにいかず、クリアするためにまた課題が出て、時間もかかる。スポーツと違って、ビジネスの中盤戦は想像以上に長いものです。

ただ、そこで諦めてしまうと仕事が進まなくなってしまいます。苦しい時期に歯を食いしばって頑張り、それを乗り越えることで、お客様との関係ができ、自信がつき、社員も成長できます。そうして人が鍛えられ、意思が受け継がれていくことが会社にとって財産になっていると思います。

ーー5年後、10年後を見据えた今後の展望についてお聞かせください。

鷲見洋一:
お客様のニーズに対応しながら持続的に成長していくことが一番大事です。簡便・健康・買いやすいといったニーズに応えるため、水産物の加工度合いもどんどん高まっていくでしょう。これは、原材料から加工品、冷凍食品へと事業領域が広がっていくということです。そして、この軸となる輸入販売や輸出事業は、当社の強みである専門性を活かして、さらに発展させます。流通形態と商品ラインナップを拡充・多様化することで、水産領域における事業の「総合化」へとつなげていく考えです。

編集後記

天候や相場に左右される水産物貿易の最前線で、同社が60年以上にわたり築いてきたのは、揺るぎない「専門性」と「柔軟性」である。これは、サプライチェーン全体に対する責任感の証だ。ビジネスの難局を「中盤戦」と捉え、そこで諦めない姿勢を人財育成の核とする鷲見社長の経営思想が、組織を強くする。コミュニケーションを活性化する12の施策を通じて、人が育ち、経験が財産となる。持続的成長を目指す同社の、水産領域における貢献と未来に期待が高まる。

鷲見洋一/1967年愛知県生まれ。1991年に三井物産株式会社入社。タイでの勤務を経て、2005年に東邦物産へ出向し水産二部長、飼料畜産部飼料原料室長に従事。その後、三井物産(香港)食料部長、東邦物産株式会社にて取締役常務執行役員、食料本部西日本食料部長などを歴任。水産物および飼料原料を主軸にグローバルな食料・食品ビジネス全般を経験し、2024年10月三井物産シーフーズ代表取締役社長に就任。