※本ページ内の情報は2025年12月時点のものです。

介護・福祉事業を主軸に、飲食、美容、AI開発まで多角的に事業を展開する株式会社エースタイルホールディングス。同社を率いる代表取締役の谷本吉紹氏は、高校時代から事業を手がけたが、法人化を前に、一度社会人としての経験を積むという意外な戦略を取った。そこで出会った人たちの言葉から独自の方程式を見出し、現在の経営理論の礎を築いた。「壁が来たらテンションが上がる」と語る独自の価値観は、いかにして育まれたのか。その軌跡と経営の極意に迫る。

失敗者の共通点から導く独自の方程式

ーー幼少期は、どのような環境で過ごされたのですか。

谷本吉紹:
父から「経営者、医者、ヤクザの三択しかない」と言われるような、偏った家庭環境で育ちました。特に父は、医師である伯父が親戚内で優遇されているのを見ていたため、私が医者になることを期待していたようです。その結果、小学校高学年の頃には習い事が週10回に及ぶような、非常に厳格な管理下に置かれた日々でした。

ですが、中学2年生のときに父がいなくなり、母子家庭になったことで一変します。それまで父が怖くて勉強していた側面があったのですが、その重しが外れた瞬間から遊びに夢中になり、全く勉強しない生活に変わりました。

ーーそこから、どのようにして起業の道へ進まれたのですか。

谷本吉紹:
高校生でイベントサークルを立ち上げ、18歳からは個人事業主として人材派遣事業を行っていました。その後、法人化を考えた際、弁護士の先生から「雇われたことがないことが欠点だ」と指摘されたのです。その指摘に深く納得したため、先生の紹介で管財物件(※)専門に扱う不動産業で働くことにしたのですが、そこでの出会いが私の人生に大きな影響を与えました。

その時のお客様は管財物件の元所有者の方々でした。多くの方は、もともと大企業の社長でありながら失敗を経験されており、当時21歳の私に「なぜだめだったのか」という話までしてくださいました。この経験から「失敗者の共通点」を見いだし、自分なりに方程式化しました。その学びを経て、24歳で弊社設立に至ります。

(※)管財物件:自己破産手続きにおいて、裁判所が選任した「破産管財人」が管理・処分する不動産のこと。

前に進むからこそ直面する壁への覚悟

ーー設立当初はどのような事業から始められたのですか。

谷本吉紹:
当初は私には「人材」という財産しかありませんでした。そのため、人材派遣会社と、派遣先が多かった運送会社を同時に設立しました。その後、オフィス系の営業案件として通信系商材の販売に派遣したところ、私たちが派遣したスタッフがどこでも営業成績一位になったのです。そこから営業を請け負う部門ができ、太陽光発電システムなどでも日本一になりました。

ーーその後、なぜ介護・福祉分野へ進出したのでしょうか。

谷本吉紹:
流行り廃りのある商材を追い続けることに疑問を感じ始めたからです。自分が40代、50代になったときに同じように最前線でアンテナを張れるか不安になりました。そこで、社会に本当に必要とされる会社でなければ淘汰されると気づいたのです。「万が一、社会から無くなると困るのはどんなビジネスか」を考えました。その結果、日本の社会問題である「少子高齢化」を解決する一助になれば、私たちの存在価値が示せると思いました。

ーー事業化にあたり、課題はありましたか。

谷本吉紹:
年金が少ない方でも入れる「民間版の特養」をつくろうと考えました。そこで地主さんに「一棟借り上げるので、安く貸していただけないか」と交渉したのです。しかし、全員がノーでした。理由は「賃貸マンションの方が儲かる」「人が亡くなる土地は嫌だ」というものです。

しかし、私はそれをチャンスだと捉えました。誰も作らないのであれば、私が作ればこのエリアで一番に事業を始められると考えたのです。不動産会社時代の経験も活かし、2013年に介護・福祉事業をスタートさせました。

ーー壁に直面した時の乗り越え方を教えてください。

谷本吉紹:
壁が来たらテンションが上がる人間になろうと決めました。基本的に人間には乗り越えられる壁しか現れません。壁がやって来るのではなく、自分が前に進むからこそ悩みにぶつかれるのです。ポジティブに捉えることで、乗り越えやすい思考回路になれます。昔からそうだったわけではなく、様々な壁にぶつかって角が取れ、自分が変わった結果です。

イエスを求めず「ノーと言われない」顧客対応

ーー数々の商材で営業日本一を達成した秘訣は何ですか。

谷本吉紹:
2つあります。1点目は、「営業とは正確に伝わるようにする仕事」だと定義することです。単に伝えるだけではお客様任せです。お客様の温度と自分の温度を合わせ、リラックスした雰囲気をつくります。その中でお客様が理解できる簡単な言葉でお話しすることが、「伝わる」ということです。

もう1点が、「ノーと言われない営業」を意識することです。営業がうまいと言われる人は、イエスと言わせようと論破しがちですが、それでは後悔につながりやすい。そうではなく、お客様が「この人は信頼できるし、断る理由もないから、契約してもいいかな」と思える状態をつくります。

売ることがゴールではありません。関係性を保って「何か買うなら谷本さんから買いたい」と思ってもらうこと。これが、私が100%契約し、さらにリピートしていただける理由です。

求めるのはイエスマンではない人材

ーー貴社事業の特徴や強みを教えてください。

谷本吉紹:
弊社の特徴は、介護・福祉事業を「幹」としている点です。そこから人材派遣や入居者紹介といった「枝葉」の事業を展開しています。

また、ラーメン店「麺スタイル谷本家」の運営や美容ケア商品の開発・販売といった一見介護とは関連のない事業も手がけています。これらは介護という「幹」から直接派生した「枝葉」の事業とは異なり、スタッフの声や「令和の虎」への出演がきっかけで始まった例外的な経緯によるものです。私自身が多方面で経営を理解している証明として、事業の幅を広げており、多角的な経営体制という強みにつながっています。

ーー「令和の虎」へ出演する目的とは何でしょうか。

谷本吉紹:
最大の目的は「採用」です。多少コストはかかりますが、番組を見て「自分は優秀だ」という方がダイレクトメッセージをくれます。一般の求人では出会えないような優秀な人材が来てくれているのです。

また、虎として志願者の方々と接する中で、世の中にはサポートが必要な経営者が多いとも知りました。私は営業という最大の武器を持っています。そこで、社長になる一歩手前の人たちに営業力を教える塾として「谷本あきんど塾」を開設しました。まずは個人事業主のように弊社の商材を売ってもらい、稼ぐ経験を積んでもらう場です。

ーー共に働きたいと感じる人物像を教えてください。

谷本吉紹:
イエスマンではない方、自分の芯をきちんと持っている方に来てほしいです。自分の意志を持たないならAIと同じです。かといって我が強いだけでもだめで、柔軟性と素直さも必要。私は周りにごまをする人間を置きたくありません。私に対して「それはだめです」と言ってくれる人間が必要だと考えています。

AI活用と経営者育成 次世代へつなぐ組織づくり

ーー現在、特に注力されている事業領域は何ですか。

谷本吉紹:
ここ3年ほど、AIを活用した自社で使う業務支援ツールを開発しています。たとえば、Chat GPTをカスタムして、朝礼の挨拶や経営分析ができるツールを開発しました。その中で効果が実証されたものについては、他社へ販売もしています。また、飲食店のMEO対策ツールや、介護・福祉業界の業務を支援するアプリも開発中です。これらはサブスク収入として経営の安定にもつなげていきます。

ーー今後、グループをどのように成長させたいですか。

谷本吉紹:
私がいなくても成立する組織にしたいと考えています。人間、いつ何があるか分かりません。だからこそ、自分が判断できる間に自分の持つすべてを残し、会社を守る仕組みをつくりたいです。そのために、100人の優秀な経営者を育成したいと考えています。私の考えに近い経営者が100人育てば、より多くの人を幸せにできると信じています。

編集後記

特異な幼少期を経て、谷本氏が導き出したのは、失敗から学んだ「独自の方程式」だ。さらに、「自らが前に進むからこそ悩みにぶつかる」という思考に至る。この考え方は、地主全員から断られた介護・福祉事業を「最大の好機」と捉えた、実行力に裏打ちされている。同氏の事業に対する意欲、「令和の虎」で見せる厳しさも、経営者育成への情熱の表れだ。AIを武器に、社会課題解決と次世代の育成に挑む同社の挑戦は、これから社会に出る若者にとって、示唆に富むロールモデルとなるはずだ。

谷本吉紹/大阪府大阪市出身。イベント請負・制作を個人事業にて創業。2007年、株式会社エースタイル法人化設立。老人ホーム・サービス付高齢者向け住宅の運営、子どもの為の保育所や放課後等デイサービスの運営に力を入れ、2017年、株式会社エースタイルが「注目の西日本ベンチャー100」選出。2018年には大阪で初の試みとなる実業団チーム「WELFARE女子硬式野球部」を発足。