
システムインテグレータとして、ICTインフラの構築からコンサルティングまでを手がける、兼松エレクトロニクス株式会社。総合商社・兼松グループの一員である同社は、お客様一人ひとりに深く寄り添う姿勢を最大の強みとし、国内のみならずグローバルに事業を展開する。若手時代、海外の最先端技術を日本へ届ける仕事の面白さに魅了されて以来、常にお客様の夢を実現するために奔走してきたという代表取締役社長の渡辺亮氏。社長就任後に「安定からの脱却」を宣言し、次々と変革を仕掛けてきた同氏に、これまでの歩みと事業にかける情熱、そして未来への展望を聞いた。
「世の中にまだない技術を日本へ」最先端技術を日本へ導入する喜び
ーー貴社へ入社された経緯を教えてください。
渡辺亮:
私は以前、機械商社でCADのインストラクター兼セールスのような仕事をしており、転職で弊社へ入社しました。より広い分野で自分の力を試したいという思いが芽生えていた頃、弊社のことを知ったのです。総合商社の子会社という安定基盤がありながら、これから間違いなく伸びるIT分野、しかもその最先端技術を扱えるという点に、大きな魅力を感じました。
ーー入社後に担当された仕事で、特に印象的だったことは何ですか。
渡辺亮:
入社当時は、海外での商材発掘から導入、マーケティング、販売まで一人で担当していました。特に半導体の設計開発に使う米国製アプリケーションの提案は刺激的でした。お客様の開拓から販売まで、一連の流れをすべて自分で完結させる経験に、大きなやりがいを感じました。
ーーどのような醍醐味を感じていましたか?
渡辺亮:
醍醐味は、日本半導体業界のトップクラスの研究開発部門の方々と「未来」を一緒に創り上げていく感覚が味わえたことです。当時、半導体の検証作業は1か月を要する大きな課題でした。検証プログラムの実行に長い時間を要し、途中で不具合があれば最初からやり直しになるため、開発期間が長期化していました。私たちが発掘したシミュレーター(模擬実験プログラム)は、この1か月を要する作業をわずか3日で完了できる画期的なものでした。
この大幅な時間短縮と設計効率が向上したことによって、お客様に心から喜んでいただくことができました。この時の高揚感は今でも忘れられません。この成功が「兼松エレクトロニクス(KEL)は面白いものを持ってくる」という信頼、ブランドを築く大きな一歩となりました。
困難な経験が顧客との唯一無二の絆を生む原点
ーー管理職に就かれてから意識されたことは何ですか。
渡辺亮:
管理職になってからは、常々「お客様との『絆』を何よりも大切にしよう」と指導してきました。単に物を売るのではなく、まずはお客様との信頼関係を築くこと。それがなければ、お客様が本当に困っていることを打ち明けてはくれません。「何かあったら、まずKELに声をかけよう」。そう思っていただける関係づくりこそが、私たちのビジネスの原点だと、部下には繰り返し伝えてきました。
ーーお客様との信頼関係を築いた、具体的なエピソードはありますか。
渡辺亮:
忘れられないのは、ある大規模なシステムトラブルです。復旧のためにお客様先に何日も泊まり込み、マシンルームの床で仮眠を取りながら対応にあたりました。お客様の担当者も現場に残り、どうしたらいいのか一緒に考え、朝ごはんを一緒に食べに行くようなこともありました。こうした経験が、まさに“災い転じて福となす”で、立場を超えて寝食を共にする中で、お客様との間に唯一無二の強い絆を生んでくれました。この経験は、今の私の大きな財産となっています。
全工程を一貫して提供するICTコンサルティング
ーー社長に就任された当時、どのような課題を感じていましたか。
渡辺亮:
私が社長に就任する少し前、会社には「安定運営」を是とする空気が流れていました。増収増益を続けていたこともあり、私が入社当時に感じた、新しいことに果敢に挑戦していく“熱”が少し失われているともどかしく感じていました。このまま安定に甘んじていては、企業のブランドイメージの向上や、株価のさらなる上昇といった成長機会を逃してしまうという危機感がありました。
また、当時、多くのお客様から「KELは海外展開をしないのか」というご要望を直接いただいていました。総合商社の兼松グループの一員であるにもかかわらず、お客様が海外へ進出されている中で、弊社は国内に留まり、海外のICT環境づくりに応えられていない点は、お客様のグローバルなニーズを最優先する姿勢に欠けていると痛感する、大きな課題だと考えていました。
ーー社長就任後、具体的にどのような変革に着手されたのですか。
渡辺亮:
お客様のグローバルなニーズに応えるべく、私が就任する以前から中国に初の海外現地法人を設立するなど、海外展開には着手していました。しかし、通常、海外で会社を設立するには数年を要するため、スピード感が課題となっていたのです。社内からも「赤字スタートは許されない」という慎重論が出ていました。そこで私たちは、お客様の要望へいち早く応えるため、「クラウドオフショア」という独自の協業モデルを考案しました。これは、KELがエンジニアや開発環境、場所を提供し、お客様にマネジメントを担っていただく仕組みです。
これにより、会社設立の遅れを回避し、お客様のニーズに迅速に対応した結果、初年度から黒字化を達成しました。これを機にアジアへと拠点を拡大し、現在ではベトナムのIT人材を育成・紹介する事業も軌道に乗っています。
ーー現在、注力している事業と、他社にはない強みを教えてください。
渡辺亮:
現在は、従来のICTインフラ構築事業に加え、より付加価値の高い「ICTコンサルティング」に注力しています。お客様の経営課題に最上流から関与し、真に一貫したソリューションを提供するためです。コンサルティングから設計、構築、導入、運用、保守まで全てを一貫して提供できる点が、弊社の絶対的な優位性であり、他社のITベンダーにはなかなかできない取り組みだと確信しています。
そして、弊社の事業戦略の根幹は、お客様を単なる取引先ではなく「戦略的パートナー」と捉えている点にあります。メーカーの優れた製品やサービスを、弊社の国内外ネットワークを活かして共に展開するアライアンスビジネスを推進しています。担当者レベルに留まらず、経営層も含めた会社全体で向き合うことで、お客様の事業戦略に深く伴走できる。これこそが、他社にはない私たちの競争力だと確信しています。
会社の資本は「人」にあり 社員一人ひとりが夢を追える組織へ

ーー人材育成や評価制度について、どのような取り組みをされていますか。
渡辺亮:
「お客様に寄り添う前に、まず会社が社員に寄り添うべきだ」という思いのもと、新入社員が1年間集中的に学べる「礎塾」という研修制度を設けています。また、人事評価制度も改革中です。管理職になるだけでなく、卓越した専門性を持つ社員がその道を究めることで正当に評価される複線型キャリアパスを構築しています。優秀な人材が弊社で夢を追い続けられる環境を整えることが、経営者としての私の責務です。
ーー最後に、読者へ伝えたいメッセージをお願いします。
渡辺亮:
私の信条は、ただ一つ「仕事は楽しくなければならない」ということです。社員一人ひとりの幸福度が、会社の持続的な成長に直結すると、私は固く信じています。弊社には、個人のアイデアを尊重し、その挑戦を全力で後押しする自由闊達な風土があります。ICTコンサルティングから運用・保守まで、国内外を問わず、お客様のあらゆる課題に、私たちは応えていきます。そして、兼松グループと一体経営をさらに深化させることで、これからもっと多くの夢を実現できる。そう確信しています。
編集後記
渡辺氏が繰り返し語った「お客様との絆」という言葉。それは、顧客先のマシンルームに寝泊まりしたという、若き日の壮絶な経験から生まれた確固たるものだ。徹底した顧客第一主義こそが、社長就任後のグローバル展開やコンサルティング事業強化といった、あらゆる変革を成功に導いた原動力なのだろう。「仕事は楽しく」という信条のもと、社員一人ひとりが主役となって挑戦できる風土を育む同社。ICTの力で顧客の夢を叶え、ひいては社会課題の解決に挑むその力強い歩みは、未来のビジネスをリードする可能性を秘めている。

渡辺亮/1965年東京都生まれ。1991年兼松エレクトロニクス株式会社に入社。執行役員 東京ソリューション営業部門 営業本部長、取締役 東京営業部門副担当兼第二ソリューション営業本部長、常務取締役 東京営業部門担当などを歴任。2019年4月、代表取締役社長に就任。