※本ページ内の情報は2025年12月時点のものです。

半導体の製造などに欠かせない高純度化学薬品の開発・製造を手がける、株式会社トリケミカル研究所。ニッチな市場でトップシェアの製品を複数持ち、高い収益性を維持し続けている。同社の代表取締役社長執行役員の太附聖氏は、社員数20数名の時代に入社し、営業職への転換や専務取締役時代の構造改革を経て、現在の「足し算の成長」を牽引する。その軌跡と経営の考えを聞いた。

小さな組織だからこそ得た学びと成長

ーー貴社にご入社されたきっかけを教えてください。

太附聖:
大学の研究室の先輩からのご紹介がきっかけです。会社のリクルート活動の一環として昼食会に誘われ、その場で内定をいただき入社いたしました。入社当時、社員は20数名ほどの規模で、社員番号は29番。小さな会社でしたので、製造、開発、分析、品質管理といった現場の仕事をすべて担当しました。

何から何までやらなければならない環境でした。しかし、大手企業では経験できない多様な業務に携わり、非常に多くの学びを得ました。それによって仕事が楽しかったです。

ーー社長までのキャリアで、転換点はありましたか。

太附聖:
入社5年目に営業職に異動したことが、最も大きな転換点です。当時は「一度営業に出て、外を見てきなさい」という会社の方針があり、私も5年目に異動しました。それまでは社内の小さなコミュニティに留まっていましたが、営業では名だたる研究者の方々と話をしなければなりませんでした。

当時、半導体の研究試薬を扱っていました。化学出身の私は半導体の知識がほとんどなく、「トランジスタとは何か」というレベルでした。しかし、お客様の現場で弊社の製品がどう使われているかを必死に理解しようと努めました。この経験を通して、視野が大きく広がり、人との付き合い方を学ぶことができたのです。

専務時代に実行した量産内製化への構造改革

ーー社長へのご就任が決まった当初、どのような決意をお持ちでしたか。

太附聖:
正直なところ、社長に就任することはあまり考えておりませんでした。就任前の2年間、専務取締役として社長から自由に動くことを許され、会社の構造改革を進めていた時期です。当時の弊社は、開発やマーケティングは得意でしたが、量産工程を外注に依存しており、これが不得意分野でした。外注ではコストメリットが享受できず、将来的に事業が厳しくなるのは明らかでした。

そこで、収益を上げられる会社にするという強い思いのもと、「量産工程をすべて内製化する」という構造改革に2年間を費やしました。上場後の資金を活用し、新工場に量産設備を導入する体制を整えました。この改革の結果が見え始めたタイミングで、社長就任の話をいただいたという経緯です。

大手が参入できない高付加価値戦略

ーー貴社の事業の強みや特徴を教えてください。

太附聖:
弊社は主に半導体向けのニッチな高純度化学薬品を扱っています。半導体の微細化が進む過程において、さまざまな技術的な課題が発生します。その課題を弊社の化学材料で解決しようというニーズを捉え、ニッチなマーケットを専門に狙っています。

半導体の微細化はすべての工程で起こるわけではなく、一部の工程で新しい素材への置き換えが求められます。そのため、市場規模が小さく、大手企業は参入しにくいという特徴があります。また、弊社の技術力、経験、そして歴史がなければ作れない重要な素材であるため、新規参入も容易ではありません。現在、主力となる製品の柱は20本ほどありますが、それぞれが工程に欠かせない材料とご評価いただいています。

ーーどのような会社を目指されていますか。

太附聖:
弊社は「足し算のビジネス」で成長していくことを目指しています。企業の多くが「年率何%成長」といった「掛け算」の理論で事業拡大を目指すのとは異なる考え方です。しかし、弊社では、現在20本ある主力製品の柱を30本、40本へと増やしていく戦略です。一つの品種を大量に出す従来のモデルとは異なり、小さいニッチなマーケットを足し合わせることで成長を遂げます。

また、売上が増加しても営業利益率25%を常に達成し続けることを重視しています。この高い利益率をキープしながら会社を成長させていくことが、弊社の大きな経営方針です。

成長の基盤は話すこと「ゆとり創造」と人材育成

ーー今後、どのような人材を求めていらっしゃいますか。

太附聖:
経営者として社員にいつも伝えているのは、「コミュニケーション力を高めること」です。入社される方々にも、「一番大事なのは話す力です」と伝えています。仕事は黙っていては進まず、開発もマーケティングもできません。対面で話すことが最も重要であり、一人で進めるよりも、複数人で話し合いながら物事を進めることが絶対的に重要です。新入社員には、入社までにゆっくり遊ぶことと、「外に出ていろんな人と話してくること」を勧めています。学業の成績やTOEICの点数よりも、この話す力が社会人としてのベースになると考えています。

ーー貴社ならではの制度や文化はありますか。

太附聖:
弊社の成長を支えるキーワードの一つに「ゆとり創造」があります。就業時間は午前8時半から午後4時半までと短く、独自の休暇制度も設けており、休日数も多いのが特徴です。社員にゆとりを持ってもらい、仕事に楽しみとやりがいを感じて取り組んでいただきたいと願っています。ゆとりを持つことで、頭がリフレッシュされ、結果的に好循環を促し目標達成につながると考えます。

また、弊社のユニークな文化として、ジョブローテーションを活発に行っている点も挙げられます。開発部門から総務部門へ異動したり、製造現場の担当製品を半年や1年といったスパンで変えたりと、常に配置転換を実施しています。これは、同じ作業によるマンネリ化を防ぎ、社員に新たな気づきと多様な経験を積んでもらうためです。教育面では大変な部分もありますが、人を育てて目標を達成していくというこの方針は、今後も変えるつもりはありません。

編集後記

トリケミカル研究所の経営を貫くのは、ニッチな市場でトップシェアを追求し続ける揺るぎない戦略である。その神髄は、時代の先端技術に必要な微細な隙間を捉え、技術力と地道な努力で「足し算の成長」を積み重ねる経営手法にあった。太附氏が語る、全社員が多能工として活躍した創業期の原体験と、そこから生まれたコミュニケーション力を重視する姿勢。さらに、活発なジョブローテーションと独自の「ゆとり創造」制度が、社員一人ひとりの成長と、次の20本の柱を生み出すイノベーションの土壌を育んでいる。今後の成長がますます楽しみだ。

太附聖/1964年10月21日生まれ。東海大学工学部卒業。新卒で1987年当社に入社。2007年に当社取締役営業本部長、2009年に㈱エッチ・ビー・アール監査役(現任)、2012年に当社専務取締役、2014年に当社代表取締役社長、2016年にSK Tri Chem Co., Ltd.取締役(現任)、2017年に三化電子材料股份有限公司董事(現任)、2022年に当社代表取締役社長執行役員(現任)に就任。化学分野におけるニッチな特定の製品の開発・製造・販売に一環として取り組んでいる。