
ゴム製品の製造・開発を手掛ける共和ゴム株式会社。2021年に創業50年を迎えた同社は、大企業が参入しにくいニッチ市場に狙いを定め、高いシェアを獲得しながら確実に成長を続けてきた。その舵を取るのが、代表取締役の寺阪剛氏だ。
寺阪社長は、借金問題をきっかけに会社を継いだという異色の経歴の持ち主だ。「強みをとことん伸ばす」という方針で、倒産寸前だった会社を立て直してきた。この記事では、寺阪社長の経歴や経営の哲学、そして、共和ゴムが目指す未来の姿などを聞いた。
入社のきっかけは「借金の保証人」。会社を立て直した独自の経営哲学とは
ーー寺阪社長の経歴をお聞かせください。
寺阪剛:
私が弊社を継いだ理由は少し特殊で、実は会社の借金が関係しています。そもそも私は、不動産業界を目指すために大学で法学を学んでいました。しかし、20歳のときに、いつの間にか家業である共和ゴムの借金の保証人にされていたことを知ったのです。
この状態で不動産業界へ進んだ場合、私が関与しないところで、常に「共和ゴムの倒産」というリスクが付きまといます。私はそんな状況を受け入れられず「ならば自分で立て直そう」と決意し、共和ゴムへの入社を決めました。
入社当時、弊社の状況は厳しいものでした。売上の大半を1社に依存していたのですが、そこが分裂したことで売上は激減。弊社は倒産寸前まで追い込まれたのです。この状況を受け、私は「下請けのままでは生き残れない」と強く感じ、特許を取って自社製品を売り込む方針へ変更することを決めました。
そして、自ら関東に赴き、取引先の開拓をスタート。なんとか状況を好転させることに成功したものの、突如として「中国への進出」という話が舞い込んだのです。
一転して中国を担当することになった私は、10年計画で中国へ渡りました。しかし、中国滞在中に父が体調を崩したため、私が中国と日本の両方を担当することになったのです。このように紆余曲折ありましたが、現在はある程度経営が落ち着き、国内を中心に売上拡大を進めています。
ーー寺阪社長は、どのような経営哲学を大切にしていますか?
寺阪剛:
私が大切にしているのは「強みをとことん伸ばす」ことです。そのために、毎年SWOT分析(※)を行って進むべき道を見定め、限られたリソースを集中投資することで、他社が追随できない価値を生み出すことを目指しています。
そして、事業に取り組む際には、失敗を恐れない「挑戦」、60点の状態でも製品をつくってみる「スピード」、高付加価値を実現する「独自性」という3つの姿勢を大切にしています。会社のリソースが限られていても、強みを活かす場所を見極めて、そこで全力を尽くして存在感を発揮していけば、着実に会社を成長に導けると考えています。
(※)SWOT分析:強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、機会(Opportunities)、脅威(Threats)の4要素を用いて、内部環境と外部環境を整理・評価するフレームワーク。
50年磨き続けたゴムの製造技術を使い、ニッチ市場で存在感を発揮

ーー貴社の事業内容を教えてください。
寺阪剛:
弊社は、主にゴム製品、プラスチック製品、スポンジ製品の製造や開発を行っています。電設資材や土木・橋梁資材、止水材、工業用ゴム製品など、さまざまな分野に対応しており、特に、他社では手に入らないような、特殊な産業用・工業用ゴム製品を得意としています。対応可能なゴムの成型技術は、EPDM(エチレンプロピレンラバー)やシリコンゴム、工業用ゴム、多層成形ゴムなど多岐にわたります。
1971年の創業以来、一貫してゴム製品、プラスチック製品、スポンジ製品の製造を続けており、創業50年を超えた現在も「失敗は成功のもと。成功は失敗のもと。」という理念のもと、挑戦を続けています。
そんな弊社の品質を維持しているのが、「質の高い検査体制」の徹底です。耐熱老化試験、長期劣化試験、移行性試験、浸漬試験などの特殊な試験も行うことができ、中小メーカーでありながら、高い品質の維持と、製品の安定供給の両立を実現しています。
ーー他社との差別化ポイントとなる、貴社の強みは何でしょうか?
寺阪剛:
小規模市場における高シェア獲得を得意としている点です。大企業が参入してこない、年間の市場規模が1億〜10億円程度のニッチ市場を主戦場に据えて、市場ごとのトップを目指すことで、ポジションの確立と安定した収益の確保を実現しています。
このときに重要なのが、高価格でも、独自性を打ち出せる高付加価値な製品を投入することです。たとえば、一般的に20分程度かかる作業を5分で完了できる製品を製造したときは、作業効率の高さが評価され、競合より価格が高くても選ばれました。
また、製品の付加価値に欠かせない「特許」を多く取得している点も大きな強みです。弊社の製品は多くが特許に守られていることから、他社製品との長期的な差別化が可能です。
これからの社会課題にリソースを集中させ、継続的な成長を狙う
ーー今後の事業展開や目標についてお聞かせください。
寺阪剛:
直近で特に注力しているのは、道路と橋梁の長寿命化です。現在、日本の道路や橋梁の多くは、想定された耐用年数の50年を超えており、これに対応するための「インフラ長寿命化計画」が実施されています。
この大きな課題をビジネスチャンスと捉え、ここに高付加価値な製品を投入することで、長期的なニーズの獲得や弊社の知名度向上などを狙っていきます。すでに多数の新製品開発がスタートしており、今後、積極的にリソースを注いでいく予定です。
もう一点、注力していきたいのが2030年までに「カーボンニュートラル」を実現することです。すでに、20代の社員を中心とした「GX(グリーントランスフォーメーション)推進チーム」の結成やAI技術の活用などを進めています。これを多くの大企業に先駆けて実現できれば、弊社の製品の付加価値がさらに高まります。それだけでなく、価格の費用対効果も相対的に高まるはずです。
すでに、環境への配慮は、製造業に欠かせない要素となっています。今後は、会社の強みと社会的意義、そして環境への配慮の3つのバランスを取りながら、社会的価値の高い組織へとさらに進化していく所存です。
編集後記
共和ゴムが成長を続けてきたカギは、独自の技術を駆使してニッチ市場で高いシェアを確保している点にある。価格競争に巻き込まれない仕組みを築くことで、リソースが限られる中小企業だからこそできる「強みに集中する経営」を成功させたのだ。
高度経済成長期のインフラが更新期を迎える中で、寺阪社長の指揮のもと、同社がどのような社会的価値を生み出していくのか、今後も注目していきたい。

寺阪剛/1971年大阪府生まれ。同志社大学卒業後、1994年に共和ゴム株式会社に入社。2000年に関東進出を果たし、関東営業所長として3年間赴任。2004年には中国(上海)の子会社立ち上げるため「下請け企業からの脱却を目指す」をスローガンに、差別化戦略と一点突破の方針に注力し、多くの知的財産を保有している。