
1973年設立の永井建設株式会社は、千葉県を拠点に土木事業を展開してきた。近年は大型物件開発エリアにおけるコンサル事業も始動させている。同社で専務取締役を務める永井貴寛氏は、大手ハウスメーカーでの経験を経て同社に入社し、大胆な社内改革を推進してきた人物だ。「当初は継ぐつもりがなかった」という永井氏の、改革と決意の軌跡に迫る。
起業の夢から事業承継へ 社員の声が拓いた後継者への道
ーー社会人としてのキャリアはどのようにスタートされたのでしょうか。
永井貴寛:
大学では建築を学んでいましたが、卒業後に後を継ぐつもりは全くありませんでした。むしろ、「自分の力で何かを成し遂げたい」という思いが強く、就職活動では建設・不動産業界の中でも、より事業の川上(※)であるデベロッパーを中心に見ていました。最終的に大和ハウス工業へ入社したのは、「若いうちに厳しい環境を経験しておきたい」という考えがあったからです。当時、業界内で最も厳しいと評判で、それが面白そうだと感じて入社を決めました。
(※)川上:商品が消費者に届くまでの流れの中で、原材料の調達や素材の製造など、製品の生産工程の最も初期段階を指す。
ーーそこから、どのような経緯で貴社へ入社されることになったのですか。
永井貴寛:
大和ハウス工業在籍中は、法人営業として多くの中小企業経営者や大企業の役員の方々と接する機会に恵まれました。そこで得た人脈を活かし、自分で起業しようと考えていたのです。
ちょうどその頃、父は社内から後継者を探していました。私が後を継ぐつもりがないことを知っていたため、既存の社員に会社を託そうと考えていたようです。そんな中、ある社員が父に「もし息子さんが同じ業界にいるなら、会社に入れてもらえないか」と直談判してくれたそうなんです。
その声がきっかけとなり、ちょうど私が前の会社を辞めるかどうか考えていたタイミングで、父から話がありました。ゼロから事業を立ち上げるより、既にある基盤をより良くしていく方が早く成長できるかもしれないと考え、半年ほど熟考した末に入社を決意しました。
信頼構築から始めた組織変革 課題山積の状態からの再出発
ーー入社された当初はどのような印象を持たれましたか。
永井貴寛:
それまで後を継ぐつもりがなかったので会社の詳しい内情は知らず、入社して初めて組織の課題の多さに気づきました。仕事の受注は安定していたものの、人事制度などの内部の仕組みが曖昧な状態。「この状況のまま会社の規模を拡大させるのは、かえってリスクかもしれない」というのが正直な感想でした。しかし、入社して間もない立場ですぐ動くのは得策ではないと考え、最初の1年間は課題の洗い出しに徹しました。本格的な改革に着手したのは、入社2〜3年が経った頃からです。
ーー具体的にどのような社内改革に取り組まれたのでしょうか。
永井貴寛:
まず、最も大きな課題であった人事制度を見直し、曖昧だった給与体系を約30段階のランク制度に刷新しました。これにより、社員が将来にわたって目標を持ち続けられる仕組みを構築しています。同時に、就業規則や社内規程も全面的に作り直し、人事評価と連動させました。また、勤怠管理もスマートフォンのアプリで完結できるように変更。現場の社員にはタブレットを支給することで、直行直帰の促進と残業時間の大幅な削減を実現しています。
他にも、社員のスキルアップを目的に資格取得支援に力を入れるようになりました。建設業界で一人前の証となる「施工管理技士」という国家資格があるのですが、その取得を全面的にバックアップしています。専門の塾と提携し、模擬試験や過去問の分析会を無料で実施しているほか、弊社の紹介であれば割引価格で入塾できる制度も整えました。結果として、資格の取得率は飛躍的に向上しています。
未経験者と女性が8割を占める新事業部の躍進
ーー貴社の事業の強みについてお聞かせください。
永井貴寛:
弊社の事業は、長年続けてきた土木事業と、新しく立ち上げた「ADDY事業部」の2つが柱です。より独自性があるのは「ADDY事業部」で、設計図面から工事費を算出する積算業務と、設計段階で現場の注意点などを助言するコンサルティング業務を手がけています。
この事業が成り立っているのは、50年以上にわたる土木のノウハウという確固たる基盤があるからです。専門家の視点で机上ではわからない部分を解決できるため、お客様からは「痒い所に手が届く」と高く評価していただいています。
ーー新事業部の設立で顧客との関係性に変化はありましたか。
永井貴寛:
これまでは工事現場の方々との関わりが中心でしたが、ADDY事業部では、より川上である積算部や設計部の方々とお取引するようになりました。面白いことに、ADDY事業部として関わった案件を、数年後に弊社の工事部が受注するケースも出てきています。事前に案件の状況を深く理解した上で工事に入れるため、業務が非常にスムーズに進むという好循環が生まれています。
ーー組織としての特徴についてもお聞かせいただけますか。
永井貴寛:
働く人材の構成にも大きな特徴があります。ADDY事業部に在籍する社員の8割が業界未経験からのスタートです。さらに、そのうちの8割を女性が占めています。土木や建設というと男性社会のイメージが強いかもしれませんが、ADDY事業部のコンサルティング業務は、コミュニケーション能力やきめ細やかな対応力が活きるため、性別を問わず活躍できる環境です。この成功事例を、今後は土木事業本体にも展開していきたいと考えています。
未経験者をプロに育てる教育制度と業界の未来への貢献

ーー今後の事業展開について、どのような目標をお持ちでしょうか。
永井貴寛:
現状、未経験で入社した社員の成長スピードに個人差が出てしまっているのが課題です。そのため、未経験者を一人前の施工管理者に育てるための教育フローを、より強固なものにしたいと考えています。誰もが足並みをそろえて成長できるような社内教育制度を強化できれば、さらに積極的に未経験者を採用できます。それが、業界全体が抱える人材不足の解消にもつながると信じています。
ーー最後に、読者の方へのメッセージをお願いします。
永井貴寛:
就職活動をされている方には、「何の仕事をするか」以上に「どの会社で、どういう環境で働くか」を重視してほしいと思います。仕事内容が少しイメージと違ったとしても、会社の雰囲気や人間関係が良ければ、仕事は面白くなるはずです。やる気さえあれば、未経験からでもどこまでも成長できます。弊社は、人とのつながりを何よりも大切にする会社です。資格やスキル以上に、「やってみたい」という情熱を、私たちは歓迎します。
編集後記
大手企業での経験を糧に、社員の声に応える形で同社へ。外からの客観的な視点と、組織と向き合う真摯な情熱を併せ持つ永井氏の姿が印象的であった。「未経験者が活躍できる会社へ」という思いは、業界の未来にとって大きな希望となるに違いない。同社の挑戦に今後も注目したい。

永井貴寛/1995年千葉県生まれ。日本大学建築工学科を卒業。その後、大和ハウス工業株式会社へ入社し、大型物流施設や事業用施設の開発を担当する。2020年永井建設株式会社へ入社。2024年、専務取締役へ就任。土木施工管理事業と並行して、新規で設計コンサル事業としてADDY事業部を立ち上げる。