※本ページ内の情報は2025年12月時点のものです。

大阪府八尾市を拠点とする八尾トーヨー住器株式会社。住宅用建築資材の販売から新築・リフォームまで、住まいに関する幅広い事業を展開する。アナログな慣習が根強く残る建設・建材業界で、同社は早くから機械化や業務の電子化といったDXを推進し、働きやすい環境づくりを追求してきた。その根底には「みんなが仕事しやすい環境をつくるのが社長の仕事」という代表取締役である金子真也氏の一貫した考えがある。幼少期から現場の隅々までを知り尽くしたリーダーは、いかにして組織を一つに束ね、未来への挑戦を続けるのか。その軌跡と信念に迫る。

外の世界から家業へ 現場で痛感したアナログな現実

ーー社会人としてのキャリアは、どのようにスタートされたのでしょうか。

金子真也:
大学卒業後、すぐに父の会社に入ったわけではなく、まずは住宅設備メーカーに就職したのが私のキャリアの始まりです。小学生の頃から両親の働く姿を見てきましたから、いつかは自分が父の会社を継ぐのだろうという意識は小学生の頃から漠然と持っていました。そのうえで、父から「まずは外の世界で社会人としての基礎を学んできなさい」と勧められたのです。メーカーで3年間営業として勤めた後に弊社へ戻ることは、当初からの約束でした。

父には「30歳を過ぎて戻って来ると一人前の社会人と見るが、20代のうちならまだ“半人前”として見てくれる。20代のうちに戻ってくれば社内のベテランたちも温かく指導してくれるだろう」という考えがあったようです。その約束通り、3年間の経験を積んだ後に入社しました。

ーーご入社後、まず何から取り組まれましたか。

金子真也:
まずは、会社の全体の流れを知ることから始めました。特定の業務の専門家になるよりも、事業全体を把握することが重要だと考えたからです。そのため、配送や組み立てといった現場作業から、仕入れや見積もりなどの事務まで一通り経験しました。

現場に入ると、良い点だけでなく非効率な部分も肌で感じることができます。たとえば、重さ120kgにもなるガラスを人の手で運ぶのが当たり前でした。これでは年齢を重ねたときに働き続けることはできません。また、手書きで5枚複写の伝票は、ミスが発生する原因になっていました。

こうした現場での経験が、具体的な課題の発見につながりました。そして、誰もが安全に働ける環境を目指し、機械の導入や伝票の電子化といった変革を実行しました。

組織の一体感を育む社風変革 働きやすさへのあくなき挑戦

ーー社長に就任された際、どのような思いを抱いていましたか。

金子真也:
基本的な気持ちは今も当時も同じです。社長は会社のトップというイメージがあるかもしれません。しかし私は「みんなが仕事しやすい環境をつくるのが社長の仕事」だと考えています。重い商品を楽に運べるようにしたり、伝票処理の時間を短縮したりすることで、会社の効率が上がり、働くみんなも楽になります。そうした環境を整える“お世話役”のような感覚を今でも持っています。

ーー社長就任当時、組織にはどのような課題がありましたか。

金子真也:
入社して最初に感じたのは、社員みんなが本当に真面目に一生懸命仕事をしているということでした。しかしその一方で、組織としての一体感に欠ける場面もありました。そして、「みんな真面目なのに、何かが違う」という違和感をずっと持っていました。

社長に就任する前後で、その違和感の原因が見えてきました。社員は皆「真面目に一生懸命」なのですが、そのベクトルが向いている先が違ったのです。ある人はお客様、ある人は上司、またある人は自分自身、というように少しずつずれていました。これではチームとして力を発揮できません。

そこでまず着手したのが、社風づくりです。「私たちは何のために、誰に向けて仕事をしているのか」という会社の理念や精神を、改めて全員で共有し直すことからはじめました。毛利元就の「三本の矢」のように、全員のベクトルをそろえることで、強い組織をつくろうと考えたのです。

最大の強みである人材力 未来を拓く三つの事業戦略

ーー貴社の事業内容と、他社にはない強みについてお聞かせください。

金子真也:
主力事業は、窓やドアといった住宅用の建築資材を、地域の工務店様や建設会社様に販売しています。これに加えて、新築事業やリフォーム事業、ハウスクリーニング事業も展開しています。

私たちの最大の強みは「人」です。扱う商品はメーカーの工業製品なので、どこから買っても物自体は変わりません。しかし、お届けする際の仕事の丁寧さや現場での立ち居振る舞いは、会社によって大きく異なります。お客様の先にいるお施主様のことまで考えられる人材がいることこそ、他社との一番の違いだと考えています。

ーー今後注力していくテーマについて教えていただけますか。

金子真也:
今後注力していきたいのは、「営業部門の強化」「海外展開」「DX」の3点です。

まず「営業部門の強化」ですが、これまではどちらかというと「物を届ける」ことが主な役割でした。しかし、住宅着工数が減少し、お客様のニーズが多様化する現代では、単に商品を納品するだけでは不十分です。お客様一人ひとりの「こんな家にしたい」という思いに寄り添い、最適な商品を提案していく「提案力」が不可欠になります。私たちは作業者ではなく、お客様の理想の暮らしづくりをサポートする提案者でなければなりません。その思いを形にするためにも、営業部門の強化は急務だと考えています。

次に「海外展開」についてですが、現在、社内にはベトナム出身の社員が3名、タイ出身の社員が1名在籍しています。将来的には、彼らを中心にベトナムでの事業展開を考えています。日本の住宅市場は縮小傾向にありますが、ベトナムは経済成長が著しく、今後、より良い住宅が必要とされる時期が来ると見ています。その時に、私たちの持つノウハウを活かして、現地の方々の家づくりに貢献したいと考えています。

3つ目の「DX」については、建設業界はアナログな慣習が多く残っていますが、私たちは早くから働き方の変革を進めてきました。DXを推進する目的は、人でしかできないことに注力するためです。伝票作成のような自動化できる業務はどんどん機械に任せ、人間はお客様の気持ちに寄り添ったり、温かみのあるコミュニケーションを取ったりといった、ロボットやAIにはできない部分に時間を使うべきだと考えています。便利なデジタルツールを活用して業務を効率化し、より付加価値の高い仕事を生み出せる環境をこれからも追求していきます。

会社の利益を社会へ還元 地域と共に歩む未来への展望

ーー会社として事業以外で力を注いでいる取り組みはありますか。

金子真也:
弊社では、事業で得たものを社会に還元するため、国内外で社会貢献活動に力を入れています。

国内では「こころプロジェクト」と名付けた地域貢献活動を長年推進しています。毎年チャリティーフェスを開催し、未使用の住宅資材を販売した収益を寄付するほか、地元の高校を招いた演奏会などを通じて地域住民との交流を深めています。

また、弊社事業と関連の深い国際支援として、NPO法人と連携しながらカンボジアでの活動にも力を注いでいます。主な活動として、カンボジアの農村部にあるフリースクールで、社員が現地に赴き、子供たちに衛生に関する授業を行っています。単に知識を伝えるだけでなく、子供たちにも分かりやすいように寸劇を交えるなど、工夫を凝らした授業を届けています。さらに、社内で発生する廃材などを徹底して削減し、そこで捻出された資金を元に、現地の学校の修繕工事を支援するといった活動も行っています。

これらの活動は、単なるボランティアではなく、「事業を通じて社会を良くしていきたい」という弊社の姿勢そのものです。そして、この姿勢が近年の採用活動にも大きな影響を与えています。

実際に、こうしたSDGs(※)の取り組みを見て入社を決める新入社員もいます。建築業界の経験よりも、社会貢献への共感をきっかけに入社してくれた若い世代の視点は、会社の業績を第一に考えてきたベテラン社員たちにも新たな気づきを与え、組織全体の成長につながっています。

(※)SDGs(エスディージーズ):持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)の略称。2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標。

ーー今後5年、10年で、どのような会社にしていきたいですか。

金子真也:
まず、住まいに関するあらゆることを高いレベルでお手伝いできる「プロの集団」であり続けたい、と考えています。そして将来的には、単に家づくりをサポートするだけでなく、その先の「住まい方」のご提案や、もっと大きな「地域」という視点から必要とされる企業になることを目指しています。

地域の方々から「あの会社があってよかった」と心から思っていただけるような、そんな存在が理想です。「住」は暮らしに不可欠なものですから、これからも事業を通じて地域と深く関わり、貢献していける会社でありたいと思っています。

編集後記

「みんなが仕事しやすい環境をつくるのが社長の仕事」。この言葉に、金子社長の考えが集約されている。自らが体験した現場の厳しい現実を原動力に、社員の負担を軽減するためのDXや機械化を推進。その思いは物理的な環境整備にとどまらず、社員のベクトルを一つにまとめる理念経営や、「人でしかできない価値」を追求する事業戦略にも貫かれている。「人」を中心に据え、変革を恐れないその姿勢こそ、地域に愛され未来を切り拓く企業の確かな姿を映し出していた。

金子真也/1973年大阪府生まれ。1997年奈良産業大学法学部法学科卒業後、住宅設備機器メーカーに入社し、営業職に従事する。2000年、八尾トーヨー住器株式会社に入社。建築現場などへの配送業務、商品の組立業務、見積や発注などの事務職、総務・経理部門を経験。その後、常務取締役に就任。2011年6月より同社の代表取締役社長を務める。また、2024年より一般社団法人住宅開口部グリーン化推進協議会の西地域副部会長に就任。