
Linuxをはじめとするオープンソースソフトウェアを核とした技術を基盤に、システム開発やSaaS展開まで幅広く手がけるテクノロジー企業群を子会社に持つ、サイオス株式会社。同社は「世界中の人々のために、不可能を可能に。」をミッションに掲げ、イノベーションの創出に挑み続ける。アメリカでの原体験から事業立ち上げに至り、合併を経て企業文化を醸成してきた代表取締役社長の喜多伸夫氏に、これまでの歩みと未来への展望を聞いた。
Linuxとの衝撃的な出会い 起業の原点と変革への軌跡
ーーキャリアの原点と、起業を決意された経緯をお聞かせいただけますか。
喜多伸夫:
私はアメリカで半導体の設計に使うソフトウェアの仕事をしていました。当時は高価なUNIXのワークステーションで設計するのが主流でしたが、そこでLinuxというOSを知る機会がありました。UNIXとほぼ変わらない使い勝手で、プログラムの設計図(ソースコード)が公開され、誰でも無料で使えることに、私は大きな衝撃を受けました。
スタンフォード大学の大学院生で、インターンとして一緒に働いていた仲間が、卒業後にLinuxベースの企業を始めるのを間近で見ました。彼らと話すなかで「これで世の中が変わるかもしれない」というワクワク感を共有し、その変革の一翼を担いたいと強く感じたのです。周りが次々と起業する姿を見て、自分も行動しなければいけないと感じたのがきっかけでした。
ーーその後、具体的にどのような行動をとられたのでしょうか。
喜多伸夫:
当時、90年代のアメリカではまだアジア人が創業するための環境が十分には整っておらず、日本で起業する方が近道だと考えました。日本に同じ志を持つ仲間がいたため、帰国して彼らと合流し、Linuxベースの事業を立ち上げたのです。
当時はまだ、Linuxといってもエンジニアが趣味で使う程度の存在でした。しかし、私たちは既存のサーバーOSに代わる可能性を確信していました。そこで、台湾からサーバー機器を輸入してLinuxをインストールして販売したり、システム構築のヘルプやサポートを提供したりすることからビジネスを始めました。周囲からは「そんな趣味のようなもので世の中が変わるわけがない」と思われていましたが、私たちは迷いなく突き進みました。
「人がやらないこと」をやる 常識を疑う先に革新は宿る
ーー貴社にとって、最初の大きな転機となった出来事について教えてください。
喜多伸夫:
当初はLinux搭載サーバーの販売やテクニカルサポートの依頼が順調に増え、売上は倍々に伸びていきました。しかし、需要が広がるにつれて大手企業も参入し、競争が激化して売上が伸び悩む時期を迎えます。その状況を打開するため、当時、大塚商会の子会社だった株式会社テンアートニという会社から合併の話を受けました。
競争が激しくなるなかで規模を拡大することは重要であり、「時間を買う」という観点から2002年に合併に合意しました。これにより事業規模が倍になり、大塚商会をはじめとする大手ITサービス会社との取引も増え、仲間づくりが格段に進む結果となりました。
ーー合併という大きな決断において、最も重要視されたのは、どのような点でしたか。
喜多伸夫:
合併先の社長も、私と同じくマイクロソフトの牙城を崩したい、ソースコードが公開されて誰もが自由に触れる環境こそがITの未来だという点で強く共感していました。世の中が変わるような革新的な事業を行いたい、という思いが一致したのです。
「そんな趣味のOSで世の中が変わるわけない」と人がやらないこと、常識を疑うことにこそイノベーションは生まれると確信しました。この「常識を疑うこと、人がやらないことを実行する」のが、サイオスグループが最も大切にしていることであり、それを分かりやすく表現したのが、ミッションにも掲げている「世界中の人々のために、不可能を可能に。」という言葉です。
オープンソースを核とした事業展開とクラウドサービスの成長

ーー貴社の主な事業内容と特徴を、教えていただけますか。
喜多伸夫:
今もLinuxをはじめとするオープンソースソフトウェアをベースとした技術で事業を展開している点こそが、他のIT企業との大きな違いでしょう。ソースコードが公開されていても、それを使いこなすには専門知識が欠かせません。私たちは、世界中の優れたオープンソースソフトウェアをユーザーが安心して使えるようにサービスを提供することを、大きな柱としています。
ーー具体的に、どのような形でサービスを提供されているのでしょうか。
喜多伸夫:
エンドクライアントもいますが、大企業の場合はシステムインテグレーターを経由してお話をいただくことも少なくありません。私たちの専門性を評価いただき、サポートを提供しています。最近では、システム同士をつなぐ技術関連のオープンソースソフトウェアの導入やシステム運用のお手伝いも増えている状況です。
また、そうした事業のなかでお客様から「こんなものが欲しい」というニーズをいただき、自ら開発して提供する流れも生まれました。たとえばワークフローや利用者認証システムのクラウドサービスは、もともとお客様のニーズを具現化したもので、今では順調に成長を遂げています。
M&AとAIで拓く未来 心理的安全性を高め挑戦できる組織へ
ーー今後のビジョンについて、お聞かせください。
喜多伸夫:
これまでの事業の周辺領域を拡大するため、今後も積極的に企業の合併・買収(M&A)を行います。以前、日本初のオンライントレードシステムを手がけた株式会社ファイテックラボ(後に株式会社キーポート・ソリューションズに社名変更)という会社を買収しました。現在も金融系のシステムサービス部門として、アプリケーション開発の中核を担っています。
また、IT業界においてAIの活用は欠かせない要素です。10年後には「AIとオープンソースの会社」と呼ばれたい。私たちのお客様は法人や官公庁、教育機関が多いため、AIを活用して業務プロセスの生産性向上に資する取り組みを進めていきます。ワークフローのような既存製品もAIを活用したものになっていく見込みです。
直近では、AIエージェントのような製品やサービスの確立を目指しています。同時にお客様に提供するだけでなく、私たち自身のソフトウェア開発プロセスにもAIを活用し、社内の生産性を劇的に改善する計画です。
ーー今後の人材採用や組織づくりで、特に注力されている点を教えていただけますか。
喜多伸夫:
今、人材に関して最も注力しているのは、社員の心理的安全性を究極まで高めることだといえます。サイオスグループの誰もが、会社で働くことが心地よく、楽しく生き生きと仕事ができる環境を創出する。これが私にとって最大のミッションなのです。
そうした環境こそがイノベーションの土壌となり、今後の採用においても大きなアドバンテージにつながると確信しています。具体的には、社員同士が感謝、称賛、応援の言葉を掛け合う取り組みを実施中です。ポジティブなメッセージが飛び交うことで、お互いの人間関係が良くなり、失敗を恐れずにチャレンジできる勇気につながると考えています。
ーー貴社で働く魅力と、どのような人材を求めているかについて教えてください。
喜多伸夫:
非常に優秀なエンジニアがたくさんいる点です。社員からも、キャリアを積む上でロールモデルとなる人が多く、一緒に働くことで知識や経験を吸収できる点が大きな魅力だと評価されています。
また、サイオスグループに入って、何か新しいこと、人がやらないようなことを一緒にやってみたいと思う方にぜひ来ていただきたい。そういう思いのある方々が生き生きとチャレンジできる環境を懸命につくり上げています。ぜひ、私たちのドアをノックしていただきたいと願っています。
編集後記
アメリカでLinuxという無料のOSに出合い、「世の中が変わる」と直感した喜多氏。そのワクワク感を原動力に事業を立ち上げ、合併による苦難と成長を経て、今も「常識を疑う」というイノベーションの核心を追求し続けている。同社はAIとオープンソースを両輪に未来を見据えるが、その挑戦の基盤にあるのは「社員の心理的安全性」という、極めて人間的な土壌づくりへの強い意志だ。「不可能を可能にする」挑戦は、この強固な企業文化のもとで、これからも続いていくだろう。

喜多伸夫/1959年生まれ。大阪府出身。京都工芸繊維大学卒業。1982年に稲畑産業株式会社に入社。米国赴任中にLinuxと出会い、帰国後の1999年、ノーザンライツコンピュータ株式会社の代表取締役社長に就任。2002年1月、同社と株式会社テンアートニの合併に伴い新生・テンアートニ(現・サイオス株式会社)の社長に就任。2017年、サイオステクノロジー株式会社を事業会社として分割、同社の社長に就任。事業会社WEBサイト