
長年にわたり培ってきた技術で、幅広い製品を世に送り出す本州化学工業株式会社。同社は今、単なる製品供給者から顧客の課題を解決するパートナーへと変革を遂げようとしている。市場のめまぐるしい変化を成長の機会と捉え、次の100年を見据えた挑戦を続ける同社の未来像、そしてその未来を共に創る人材に求めるものとは何か。同社を牽引する代表取締役社長の木下雅幸氏に、事業戦略から人材育成まで、その思いを詳しくうかがった。
顧客の課題を解決するパートナー企業としての挑戦
ーー貴社の事業内容についておうかがいできますか。
木下雅幸:
弊社は創業以来110年以上にわたり、化学品に関する高度な製造・開発技術を培ってきました。その技術を活かし、幅広い分野で使用される高品質な化学製品を製造し、世に送り出しています。現在は特に、高機能素材や特殊な中間体を必要とする高速通信分野など、時代の最先端を支える製品開発に注力しています。
長年、化学業界を支えてきたという自負を持ちつつ、変化する市場に対応してきました。国際的な市場で、高度な化学技術を駆使する専門企業として、社会に価値を提供し続けています。
ーー現在最も重点的に取り組んでいることは何ですか。
木下雅幸:
スピード感を持って市場の変化に対応していくため、いくつかの基盤強化策を並行して進めています。その一つが、現在取り組んでいるERP(統合基幹業務システム)の導入です。これまでは、部署間で表計算ソフトを使った情報連携が多く、どうしても業務のスピード感が上がらないという課題がありました。このERPの導入を機に、仕事のやり方そのものをゼロベースで見直していきます。従来のプロセスにとらわれることなく、より効率的で迅速な業務フローを構築したいと考えています。
もちろん、長年の経験の中で培われた今の仕事のやり方にも良い点はありますが、改善すべき点は積極的に変えていく必要があります。こうしたシステムの刷新と業務変革は、弊社が目指す「課題解決型企業」になるための、重要な一手だと考えています。
ーー5年後、10年後にはどのような会社を目指していますか。
木下雅幸:
世の中が進む方向や市場の需要をいかに早く掴み、材料として具現化していくかが重要です。高速通信分野など、新たな需要は次々と生まれています。そうした市場の動きに対応できるだけの組織としての運動能力やスピード感を、一層強化していく必要があると考えています。
また、顧客から「本州化学工業に頼めば、良いものを出してくれる」と信頼され続ける存在でありたいと考えています。そのために、研究開発から営業まで、組織全体の機能を高めていくことが不可欠です。私たちは世界的な高度精密化学の専門家「グローバル・ファインケミカル・スペシャリスト」として、常に価値を提供できる会社を目指します。
次の100年を担う人材を育てる人づくり
ーー次世代のリーダーを育成することに、どのような理念や使命感をお持ちでしょうか。
木下雅幸:
次の100年を創っていくのは、やはり弊社で育ったプロパーの人材であるべきだと思っています。会社の歴史や文化を深く理解した人々が経営を担い、会社を成長させていく。これこそが、私たちが理想とする事業承継の形です。現経営陣には、そのための土台をしっかりと築き、次の世代にバトンを渡していくという大きな責任があると感じています。
ーー具体的にはどのような取り組みをされていますか。
木下雅幸:
昨年から、後継者育成計画を本格的に開始しました。具体的には、次の経営層、次の理事層、次の部長層という三つのレイヤーに分け、個別の育成計画を作成し、360度評価なども取り入れながら実行しています。まだ走り出したばかりですが、会社の未来を担うリーダーを計画的に育てていくことが目的です。
また、日々の業務における上司と部下のコミュニケーションの重要性も、継続的に伝えています。こうした地道な取り組みの積み重ねが、社員一人ひとりの成長、ひいては組織全体のレベルアップにつながると信じています。
変化を成長の糧とする挑戦者たちの資質

ーーどのような方々と一緒に働きたいとお考えですか。
木下雅幸:
技術系・事務系を問わず、何事にも興味を持ち、深く掘り下げていける方に参画していただきたいと考えています。世の中は常に変化していきますから、その変化に順応しながらも、自分自身の芯はぶれずに進んでいける人が理想です。
最近は「自分はこうしたい」という明確な意思を持つ方が増えており、その思いは最大限尊重したいと考えています。加えて、さまざまな状況変化に対応できる柔軟性も持ち合わせていると、さらに活躍の場が広がるでしょう。
ーー社員に期待する考え方や行動原則についてお聞かせください。
木下雅幸:
私自身が大切にしている言葉に「化学は変化から学ぶ」というものがあります。世の中の環境変化や予期せぬ出来事など、あらゆる変化は学びの機会だと捉えることが大切です。
まずはその変化を受け入れ、「自分だったらどうするか」を考えて行動に移してみる。もちろん、時にはうまくいかないこともあるでしょう。それでも「これをやりたいから変化は関係ない」と拒絶するのではなく、一度受け入れて挑戦してみる。うまくいかなかったら、また次の方法を考えればいいのです。そのような幅広い視野を持って物事に取り組める人が、弊社で活躍できる人材だと考えています。
ーー貴社で働く魅力や、若手社員に期待することは何ですか。
木下雅幸:
弊社はこれまで、あまり活発なジョブローテーションを行ってきませんでした。しかし、今後は部署間の異動を積極的に進め、社員一人ひとりの知見を増やしていきたいと考えています。なぜなら、多様な知見や経験を持つことが、ビジネスパーソンとしての能力を高める上で非常に重要だと考えているからです。
私自身の経験ですが、営業として駆け出しの頃、一年間さまざまな先輩に同行させてもらい、場面や相手に応じた多様なアプローチ方法を学びました。その経験が今につながっています。すぐには使わない知識や経験でも、いつか必ず役に立つときが来ます。仕事はうまくいかないことのほうが多いものですから、だからこそ「どうすればうまくいくか」を考え、前向きに挑戦し続けてほしいと願っています。
編集後記
「グローバル・ファインケミカル・スペシャリスト」という旗印のもと、変化の激しい時代を乗り越えようとする同社。その挑戦の根幹には、市場の変化を的確に捉え、顧客の課題を解決するという強い意志がある。そして、その原動力となるのは、創業100年を超える歴史の中で培われた技術力と、それを未来へとつなぐ「人」の力に他ならない。変化を学びの機会と捉え、自らの成長の糧とできる人材を求める同社の姿勢は、挑戦を望む者にとって大きな魅力となるだろう。

木下雅幸/1961年福岡県生まれ。1984年関西学院大学文学部仏文科卒業後、三井東圧化学株式会社(現・三井化学株式会社)に入社。アルジェリアをはじめ、上海、シンガポールなど10年あまり海外駐在を経験し、アドミ業務、JV設立やプラント建設責任者、アジア総代表、地域統括会社社長などを歴任。国内では樹脂営業、工場人事課長、フェノール事業部長や人事部長等を務める。2023年、代表取締役社長に就任。