※本ページ内の情報は2024年6月時点のものです。

環境問題の解決法としてプラスチック削減を目指す国の方針は、プラスチックを扱う企業にとっては厳しいものだった。そんな中、新たな事業を展開し、独自の成長を続けているのが日本モリマー株式会社だ。

日本では新型コロナウイルスの流行により、自宅で手軽に行える検査キットが広まったが、海外ではどうなのか。そこに目をつけたのが代表取締役兼グループCEOである森修平氏である。

今回は森氏に、チャレンジ精神を持つようになったきっかけから新しい人事評価制度までをうかがった。

海外で働くことに興味を持ったきっかけ

ーー当初、日本ではなくドイツの商社を選んだ理由を教えてください。

森修平:
高校卒業後にイギリスの大学へ進学し、そこでハンドボール部へ入部しました。最終学年時にはキャプテンに任命され、全国優勝を果たしました。当時の部員は半数以上がイギリス以外の出身でしたので、キャプテンとしてそのような部員たちをまとめるのは非常に苦労しましたが、楽しい経験でした。

そこで、「さまざまな人種・国籍の方々と交流しながら仕事をしたい」と思うようになり、海外の商社を選びました。当時のドイツはベルリンの壁が崩壊した直後で経済が不安定でしたが、私は何よりチャレンジすることが好きだったので、あえてドイツで就職しました。

ーーチャレンジ精神を持つきっかけとなったエピソードがあれば教えてください。

森修平:
幼い頃から運動を続けていたので、もともと負けず嫌いでした。特に、小・中学生時代の野球の経験を通して、「やるからには上を目指したい」という思いが強くなっていったのだと思います。

私が小学3年生の頃に父が起業をしたことも大きなきっかけです。事業を成長させるために奮闘する父と母の姿を間近で見ていたので、挑戦する精神が育まれたのではないかと思います。

入社のきっかけは父からの驚くべき言葉

ーー海外で就職された後、帰国して貴社に入社された経緯を教えてください。

森修平:
自分自身が起業したいと考えていた為に、父の事業を承継することは考えていませんでした。

しかし、1週間ほど日本に帰る時期があって、その時に父から初めて「会社を継いでほしい」と言われました。考えもしなかった一言でしたが、誰にでも与えられるチャンスではないと思い、入社を決意しました。

ーードイツの商社で働いた経験は活かされましたか。

森修平:
ドイツで仕事をしていた時は世界がマーケットだったので、弊社が日本でしか事業を行っていなかったことに対して違和感を持っていました。

日本だけではなく世界に視野を広げると、チャンスはいくらでもあります。そこで、まずは事業のグローバル化を目指しました。

入社後はすぐに中国との繋がりを築き、東アジア・東南アジアへと進出しました。

ーープラスチックを扱う企業がたくさんある中で、貴社の強みを教えてください。

森修平:
弊社はプラスチック製品の製造から販売までワンストップで提供できます。分野や素材・製法を問わず対応可能なところが強みだと思います。プラスチックに関してはトータルで対応できる世界でも数少ない会社です。

事業成長において大切なこととは

ーーM&Aについての社長の考えを聞かせてください。

森修平:
事業を確実に且つ迅速に成功に導くには、M&Aが大変有効であると思っています。

引き継いだ事業の潜在能力を引き出し、モリマーグループの既存事業とのシナジー効果を発揮させるため、積極的に技術開発や生産設備に投資します。そして現地の役職員とのコミュニケーションもとても大事にしています。

引き継いだ初日は必ず現地に赴き、その理由と今後目指す方向を自分の言葉で説明します。その後は、他のグループメンバーと共に頻繁に交流し意思疎通を図るようにしています。そしてコンスタントにM&Aを駆使することにより、材料から製品までプラスチックをワンストップで提供出来る企業にまで成長させることができました。

ーー今後注力したい分野はありますか。

森修平:
国内では国土強靭化計画に伴い高まるトンネルや橋梁等の社会インフラの整備、補修や更新の需要への対応を急いでいます。世界に視野を広げると、今後はメディカル分野が成長していくと予想しています。売上依存度の高い住宅や自動車分野に加えて、メディカル分野に注力したいと考えています。

市場を広げるため、私が率先して相手先の経営幹部とコミュニケーションをとるようにしています。現在は、大腸癌の検査キットをイギリスで生産・販売する事業に力を入れています。日本では当たり前に行われている便潜血検査ですが、海外ではその存在すら知らない国々がほとんどです。

これ以外の体外診断薬分野も同様で、そこに大きな伸びしろがあると考えています。イギリス政府は予防医療の充実に注力しており、日本、海外ともに国策に乗る戦略に活路を見出しています。

海外で事業を成長させる中では、“日本品質”が武器になります。日本の高い品質を保ちながら現地のコストでつくることが可能になれば、事業成長を実現できると思います。

モリマーメディカル社の便潜血キット生産ライン、タイに同じラインを導入し2023年量産スタート、2025年には英国に導入予定。
生産されている医療関連の商品群。写真左:『AVSアキュラシーキット』写真右:『ファンギフローラ』

ーー会社を経営する上でのポリシーを教えてください。

森修平:
自分たちの持つ技術力やリソースを認識しそれらを生かし、また同時に自分たちの弱点を補強し、目指すべき分野で目標を達成する作戦行動こそが戦略です。単に達成するだけでなく打率とスピードを上げて事業を成長させる方法として、M&Aは非常に有効です。

事業成長には戦略を立てることが大切なので、さまざまな視点から今後の展開を予想して、常日頃から準備をしています。

社員がやりがいを実感しながら働くために

ーー社長自らが発案した新しい人事評価制度について教えてください。

森修平:
私たちのグループはM&Aを繰り返し行い、事業を成長させてきたので、それぞれの会社の人事制度を統一するために、新しい制度を取り入れる必要がありました。個人の成長は会社の成長につながると考えているので、個人の成長を評価する制度を取り入れています。

新しい人事評価制度は公平公正を重要視しています。社内にはマネジメントに長けた人もいれば、技術職や専門職に向いている人もいます。個人の成長が評価される仕組みであれば、社員はそれぞれの強みを伸ばすことに専念できます。役職にこだわらず一人ひとりの強みを伸ばしてほしいと思います。

ーー今後の日本をリードするビジネスパーソンに向けたメッセージをお願いします。

森修平:
さまざまなことに対して戦略を立てながら挑戦してもらいたいと思います。責任感を持ちながらも、子どものような素直な心も同時に持ち続けてほしいですね。素直な心は興味や好奇心につながるので、ずっと忘れないでください。

編集後記

根っからのチャレンジャーなのか、グループのトップにありながら、現在も営業の現場に立ち続ける森氏。その姿は社員のやる気を奮い立たせているに違いない。

プラスチックを扱う企業として環境問題にも同時に取り組まなければならないが、メディカル分野でもこの先大いに活躍するだろう。今後は日本モリマー株式会社が、人々の健康問題解決のために尽力する姿にも注目したい。

森修平/1971年三重県生まれ。1993年ウォーリック大学(英国・国立総合大学)BSc (Hons) in Mathematics学士修了。1993年ドイツ住友商事会社入社。1999年ワシントン大学セントルイス(米国・私立大学)経営大学院修了、MBA取得。1999年日本モリマー株式会社に入社。2002年モリマーエスエスピー株式会社の取締役に就任。2006年モリマープレミックスの常務取締役に就任(兼務)。2008年モリマーエスエスピーの代表取締役社長に就任。2011年日本モリマーの代表取締役社長兼グループCEOに就任。事業の多角化とグローバル化を図り、数々のM&Aを成立させる。現在、国内18社(研究センター含む)、海外12社を束ね、One Molymerをスローガンにシナジーを創出し、プラスチックのワンストップソリューションを提供している。