
世界中で約48,000人の社員を雇用し、グローバルに事業を展開するドイツの化学・消費財メーカー「ヘンケル」の日本法人、ヘンケルジャパン株式会社。同社は産業分野向けの接着剤事業と、ヘア製品と洗濯洗剤などを扱うコンシューマーブランド事業の2つを展開している。グローバルな技術力を活かした同社の事業と未来への取り組みについて、代表取締役社長の浅岡聖二氏に話をうかがった。
度重なる変化を乗り越え、経営者への道を歩んだ
ーー浅岡社長のご経歴を教えてください。
浅岡聖二:
私のキャリアは大学卒業後、カネボウ・エヌエスシー株式会社(後の日本エヌエスシー株式会社)に入社したことから始まっています。入社後は研究開発に携わり、工業用液体樹脂の研究をしていました。その後、会社の支援で神戸大学の博士課程後期課程に3年間通い、1994年に工学博士号を取得しました。
ところが博士号を取得後、営業部門への異動を命じられ、研究から営業へと大きく舵を切ることになったのです。そのころから会社も変化の時期を迎え、アメリカ資本100%の会社になり、さらに2008年にはヘンケルグループの傘下に入ることとなりました。こうした環境の変化とともに営業や役員としての経験を積み、2019年に弊社の代表取締役社長に就任した次第です。
国境を越えた技術の共有で、多彩な価値を創造

ーー貴社の事業内容について教えてください。
浅岡聖二:
弊社は、接着技術事業とコンシューマーブランド事業の2本柱で事業を展開しています。
接着技術事業では、建設現場で使われる接着剤から、自動車の組み立てに必要なシーリング剤、さらには電子機器内部の精密部品を保護するコーティング剤まで、多様な用途に対応した製品ラインナップとなっています。これらの製品が役立つのは、日常生活では見えにくい部分であり、多くの製品の性能を支える重要な役割を果たしているのです。
一方、コンシューマーブランド事業は、日本では一般消費者向けとサロン向けにヘア製品を取り扱い、日本の消費者の皆様の美容をサポートしています。洗濯洗剤などはグローバル展開していますが、日本市場ではヘア関連に注力しているところです。
ーーグローバル企業としての強みはどのような点にありますか?
浅岡聖二:
最大の強みは、世界各国の「知」を結集できる点にあります。弊社は世界中でさまざまなバックグラウンドを持つ多様性に富んだチームがあり、さまざまな技術やノウハウの共有が可能です。たとえば、海外で開発された技術を日本向けにカスタマイズしたり、反対に日本の技術を海外に展開したりすることができます。
また、こうしたネットワークはマーケティングや営業活動にも活かされており、世界中の成功事例や市場トレンドを素早く取り入れることができるのも大きな強みだと感じています。
業界のリーダーとして責任ある行動で未来に貢献していく
ーー貴社ではどのような人材を求めていますか?
浅岡聖二:
何事にも前向きにチャレンジできる人材を求めています。特に重視しているのは、受け身ではなく能動的に学び、行動する姿勢です。自分から「これをやってみたい」と手を挙げ、周囲を巻き込みながら前に進む力がある人に来ていただきたいと思っています。
実際に弊社で活躍している社員を見ると、単独でプロジェクトを進めるのではなく、リーダーシップを発揮してチームで取り組んでいる人が多いですね。また、過去に困難な状況を乗り越えた経験を持つ人材も活躍しています。経験から培われた粘り強さと問題解決能力が、ビジネスにおける複雑な課題に対応する際に大いに役立っているのです。
こうした資質を持つ方々に、ぜひ弊社で力を発揮していただきたいと思っています。
ーー組織づくりにおいては、どのようなことを重視していますか?
浅岡聖二:
弊社では、約5年前からさらに本格的に「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(※)」の推進に力を入れてきました。女性にとっても働きやすい職場環境の実現に向けて、継続的な改善を重ねてきた結果、女性社員や女性管理職の比率は業界平均を上回る水準となっています。また、女性活躍を推進する企業や個人に贈られる「WOMAN's VALUE AWARD」の受賞という形で外部からも評価をいただいています。現在も女性社員からさまざまな意見を聞く機会を定期的に設け、会社としてさらなる改善点を見つけるための対話を進めているところです。
私自身、この取り組みを推進してきた中で、男性中心だったチームに女性管理職が加わることにより、まったく違うアイデアが生まれたり、議論が活性化したりするという効果を実感しています。多様な背景を持つ人材が力を発揮できる環境であることが、これからの時代において大切なことだと考えています。
(※)性別、年齢、国籍など個々の違いを尊重し、それぞれの個性や能力を活かす考え方のこと
ーー今後のビジョンについてお聞かせください。
浅岡聖二:
世界中でシェアを持つメーカーとして、サステナビリティのリーダーであるべきだと考えて取り組んでいます。ヘンケルはサステナビリティを無視した事業の成長は考えていません。
弊社は2030年までに事業活動全体でのCO2排出量を30%削減、2045年までに90%削減という高い目標を掲げています。これは決して簡単なことではありませんが、未来への責任として取り組んでいます。
特に注力しているのは、バリューチェーン全体での取り組みです。具体的には、サプライヤーと協力して製造工程で再生可能エネルギーの利用を促進したり、環境負荷の少ないエネルギーを使用するサプライヤーからの調達を増やしたりしています。さらに、弊社製品を使用する際のエネルギー消費を減らすため、低温でも効果を発揮する接着剤の開発を進めているところです。
これらの取り組みは一朝一夕で成果が出るものではありません。しかし、誰かが行動を起こさなければ何も変わらないでしょう。弊社は業界をリードする企業として責任ある行動を続け、持続可能な社会の実現に貢献していきたいと思います。
編集後記
取材を通して印象的だったのは、浅岡社長の「チームの力」への信頼だ。一人ひとりのチャレンジ精神を尊重しながらも、周りと協力し合うという視点を大切にする姿勢は、79か国に広がるグローバルなネットワークを強みに変える秘訣といえるだろう。世界中の「知」を結集するという発想は、国境を越えた人材の協働があってこそ実現する。この人材観こそが、ヘンケルジャパンの成長の源なのだと実感した。

浅岡聖二/京都大学工学部化学工学科卒業。1988年、カネボウ・エヌエスシー株式会社(後の日本エヌエスシー株式会社)へ入社。1994年、神戸大学大学院にて工学博士号を取得。2008年、ヘンケルテクノロジーズジャパン株式会社へ移籍し、取締役営業統括本部長に就任。2009年にヘンケルジャパン株式会社の取締役工業用接着剤事業本部長、2016年に取締役副社長 兼 接着剤部門統括本部長を経て、2019年に代表取締役社長へ就任。