※本ページ内の情報は2026年1月時点のものです。

2025年に創立60周年を迎えた、日本におけるカプセルトイビジネスのパイオニアである株式会社ペニイ。現在はタカラトミーグループの一員として、その強固な全国流通網を武器に業界を牽引する。同社を率いる代表取締役社長の佐藤正臣氏は、かつて音楽の道を志していた。そして、「目の前の人を喜ばせたい」という純粋な思いを胸に、この世界へ飛び込んだ。赤字経営からの再建、DXの推進、そして「仕事は楽しく」という信念を掲げ社員と向き合う。業界の重鎮から未来を託された経営者の、情熱と改革の軌跡を追う。

目の前の反応が見たい 音楽活動から生まれた原動力

ーーキャリアの原点についてお聞かせください。

佐藤正臣:
私自身、今でもバンド活動をしているのですが、25歳までは歌の道一本で生きようと決意していました。目の前にいるお客さんの反応が返ってくるのが本当に楽しく、この「目の前の人を喜ばせたい」という思いがキャリアの原点です。

その後、音楽のプロを諦め働こうと考え始め、就職情報誌を見ていたところ「カプセルトイ」という文字が目に入りました。これなら、子どもたちが回して喜んでいる姿を目の前で見られる。「歌と似ているな」と感じ、この道に進むことを決め、株式会社ユージン(現・株式会社タカラトミーアーツ)に入社しました。

ーー入社後、どのような業務を担当されたのですか。

佐藤正臣:
入社当初は企画職を希望していたのですが、配属されたのは営業でした。そこで、まずは「この業界で一番の営業になってやろう」と考えました。当時は、ものを売ることも、失敗することも苦ではありませんでした。

具体的には、ガチャの売上最大化を検討しました。当時はガチャをたくさん並べてショップにする考え自体がなく、この取り組みは、ペニイが日本で一番最初だったと思います。バイヤーと「これだったら面白くないか」と話し合い、いざ始めると、売上は予想をはるかに上回りました。すぐに「これは人をつけなきゃだめだ」と判断し、ショップ形態に発展させました。

※「ガチャ®」は株式会社タカラトミーアーツの登録商標です。

赤字からの再建 ガバナンス強化の真の目的

ーー社長に就任された当時の、貴社の状況を教えてください。

佐藤正臣:
私が社長に就任したのは約1年半前ですが、会社が直面していた課題を感じたのは、それよりも前にさかのぼります。社長に就任する8年前に、当時在籍していたグループ会社から営業本部長として弊社に出向しましたが、その時からペニイは良くない状況でした。会社は赤字かつ債務超過で、普通だったら潰れてもおかしくない状態になっていたのです。その時から立て直しに着手し、社長に就任した現在も、改革を進めています。

ーー具体的にどのように改革を進めたのですか。

佐藤正臣:
まず、会社全体に浸透していた間違った考え方や利益基準を正すことから始め、発注の基準値や営業のKPIも全て作り直しました。それまでは基準や仕事内容が曖昧な部分もありましたが、目指すべき数値を明確にしたのです。

また、アミューズメント業界はお金に触れることが多いため、ガバナンスの強化も徹底しました。ルールはかなり厳しくしましたが、それは会社を守るためではありません。社員を守るために、厳しくする必要があったのです。不正ができる状況にしてしまうと、かえって社員が不幸せになります。

こうした改革を進める根底には、未来への責任があります。前社長が「この会社をもっといい状況で次の社長にバトンタッチするのが私の役割です」と常々話していました。今の立場になって、その言葉がよく分かります。自分だけ良ければいいのではなく、後任が「いい会社だ」と思って就任できるようにするのが、私の仕事だと思っています。

業界の重鎮から託された未来

ーー業界全体を意識するようになったきっかけを教えてください。

佐藤正臣:
15年ほど前、業界で有名な社長から「私も長くないから、次は君に業界を任せるよ。君しかいないから」と声をかけていただいたことです。それまでは自分の会社のことが中心でしたが、その言葉をきっかけに業界全体のことを考えるようになりました。ライバル関係の会社とも積極的に接点を持ち、業界全体を元気にし、継続的にいい形で未来につなげたいと思うようになったのです。

ーー他社と比較した貴社の強みを教えてください。

佐藤正臣:
最大の強みは北海道から沖縄まで全国をカバーできる流通網を持っていることです。これは弊社にとってはもちろん、タカラトミーグループ全体にとっても大きな強みだと考えています。グループ内でも、これほど全国を網羅できる流通網を持つ会社は他にありません。

ーー現在、注力されている取り組みについてお聞かせください。

佐藤正臣:
弊社だけでなく業界全体でDX化を進めていく必要があると強く考えています。カプセルトイは機械も電源も使っておらず、とてもアナログな世界です。私自身、もともと数値や分析が大好きだということもあり、積極的にDX化を推進しています。

具体的な取り組みとしては、現在AIによる発注システムの導入を進めているところです。他業種の企業がAIで発注を管理しているという記事を見て、「これはガチャでもできる」とすぐに問い合わせをしました。まずはAIで商品の割り振りを最適化し、そこにデータを学習させて、次のステップで発注までつなげたいと考えています。

「仕事は楽しく」社員の挑戦を後押しする文化

ーー社員の皆さまには、どのように働いてほしいとお考えですか。

佐藤正臣:
前向きにチャレンジしてほしいです。社員が何か失敗したところで、会社は傾きませんから、何でも挑戦してほしいと思っています。もちろん、ルールを守らなかったり、やるべきことをやっていなかったら厳しく注意します。ですが、基本的には挑戦を応援しますし、前向きに取り組んだ結果の失敗で怒ることはありません。頑張った人はきちんと褒めてあげたいです。

ーー最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。

佐藤正臣:
「仕事は楽しく」ということに尽きます。つらい気持ちで仕事をするのは、人生において一番もったいないと考えているからです。仕事を「つらい」と思っても「楽しいな」と思っても、受け取れる報酬は同じです。しかし、「楽しい」と思って仕事をしている人は周囲から必ず評価されますし、それが次のステップにつながります。

この「楽しい」という気持ちはやりがいでもあります。しかし、それは人に与えてもらうものではありません。仕事を楽しくするためには自分が頑張って、楽しまなければいけないのです。私自身、昔から誰かに言われてやるような仕事は嫌いで、自分で考えて動いてこそ楽しさが見つかると信じています。せっかく働くのですから、ぜひ「楽しく」やる方法を見つけてほしいと思います。

編集後記

「仕事は楽しく」という佐藤氏の言葉は、単なる感情論ではない。それは、赤字からの再建という厳しい現実と向き合い、社員を守るためにガバナンスを徹底した経営者としての覚悟に裏打ちされている。「目の前の人を喜ばせたい」という純粋な思いを原動力に、業界の未来を託された責任を背負う同氏。パイオニア企業を率いるリーダーの挑戦は、これからも続く。

佐藤正臣/1972年渋谷区生まれ。25歳まで歌で生活することを夢見ていたがガチャに出会い、目の前の子供を喜ばせたいと株式会社ユージン(現・株式会社タカラトミーアーツ)に入社。2016年10月に株式会社ペニイに出向し、2024年5月に同社代表取締役社長に就任。現在もバンド活動をしている。