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1974年の創業以来、“歯を修復する”という発想から生まれた歯みがき剤を強みとして、オーラルケア市場を牽引する株式会社サンギ。美白歯みがき「アパガード」などのヒット商品を生み出してきた。同社の独自成分「薬用ハイドロキシアパタイト」は、溶け出した歯の主成分を補給(歯の表面のミクロの傷を修復、むし歯の一歩手前の初期むし歯を再石灰化)し、歯垢を吸着除去することで、むし歯を予防する成分として、世界的な評価を得ている。かつて多額の負債を完済し、NASA関連団体も認める高付加価値企業へと変革した。その立役者が、オーストラリア出身の経営者、ロズリン ヘイマン氏だ。証券アナリストとしての鋭い視点と、あくなき情熱で組織を再建した同氏に、その激動の道のりと独自の経営方針について話を聞いた。

V字回復の裏にあった「正しいブランド」への回帰

ーー貴社の経営再建を担うことになった経緯を教えてください。

ロズリン ヘイマン:
私はもともとオーストラリアの貿易省や日本の共同通信社、外資系証券会社で働いていました。証券アナリストとして企業の財務分析やコーポレートファイナンスに携わり、数字を通して企業の成長や課題を見ていました。しかし、バブル崩壊を機に会社を辞め、昔からの夢だった獣医師を目指して大学に編入し、勉強に励みました。

転機が訪れたのは、夫(現・代表取締役会長 佐久間周治)が経営する株式会社サンギが経営危機に陥ったときでした。1995年「芸能人は歯が命」というキャッチコピーと共に「アパガード」が一世を風靡したものの、ブームの終焉とともに売上高が急落し、会社は倒産寸前の状態にあったのです。負債は70億円にものぼり、まさに崖っぷちという状況でした。

私は獣医師の国家試験を終えた後、夫と「一緒に会社を立て直そう」と決意し、1999年に入社しました。当時のサンギは、ブランドの安売りや過度な価格競争に巻き込まれ、かつての輝きを失っていたのです。私は「これは絶対に直さなければならない」と強く感じ、改革に着手しました。

ーー具体的にどのような戦略で立て直しを図ったのでしょうか。

ロズリン ヘイマン:
最も重視したのは、ブランド価値の回復です。当時は売上高を確保するために安易な値引き販売が横行し、高機能商品であるはずの「アパガード」が安売りされていました。これではブランドへの信頼も、収益性も損なわれる一方です。そこで私は、社内の反対を押し切り、ワンプライスへの転換を主張し、実行しました。

営業担当からは「そんなことをしたら誰も買わなくなる」「店から商品が消える」と激しく抵抗されましたし、実際に一部の取引先から一時的に買い控えはありました。とはいえ、一度崩れた価格と信頼を取り戻すには、痛みを伴ってでも正しい価値で売る姿勢を貫くしかないと考えたのです。

安売りをやめ、パッケージデザインや品質、プロモーションの質を徹底的に高めることに注力しました。結果として、お客様が商品の良さを再認識してくださり、徐々に適正価格でも選ばれる商品へと戻っていきました。約15年の歳月を要しましたが、地道な改革の末に借金を完済し、高収益体質へと生まれ変われたと考えています。

独自の技術力が実現した「宇宙技術の殿堂入り」の快挙

ーー貴社の商品における最大の強みや、他社との違いは何でしょうか。

ロズリン ヘイマン:
私たちの核心にあるのは、「薬用ハイドロキシアパタイト」という独自成分です。歯や骨の主成分でもあるハイドロキシアパタイトは、合成法によって研磨剤や触媒など、多様な機能を持たせることが可能です。弊社ではこの特性を活かし、さまざまな用途に応じたアパタイト商品を開発しています。その中でも、3つの作用で歯を修復し、むし歯を予防するこの「薬用ハイドロキシアパタイト」がサンギを支えてきました。日本国内で歯みがき剤に配合されたハイドロキシアパタイトのうち、この成分を「薬用成分」として認められているのは私たちだけです。

薬用成分となるまでの道のりは平坦ではありませんでしたが、臨地試験などを含む確固たるエビデンスに基づいた商品展開が可能です。競合他社が参入しようとしても、同様の認可を得るには膨大な時間と証拠が必要となるため、それが高い参入障壁となり、私たちの事業を守る強固な盾となっています。この技術的な独自性と、お客様が使用後に感じる確かな実感が、他社にはない最大の差別化ポイントです。

ーー日本企業初となる「宇宙技術の殿堂」入りの経緯を教えてください。

ロズリン ヘイマン:
もともと夫が、NASAの特許技術である「無重力下で宇宙飛行士の歯や骨を守る技術」に着目したことが始まりです。その技術をヒントに、「歯と同じ成分のハイドロキシアパタイトを歯みがき剤に配合すれば、日々の歯みがきで歯の表面にとりこまれ、修復するのではないか」という発想から、毎日の歯みがきで歯を再石灰化させるアイデアを形にしました。商品化に向けて研究を重ね、現在の商品開発につながりました。

この経緯が、数年前にNASAの技術誌「Spinoff」の取材を受けたことで改めて注目され、2024年に米国の宇宙財団が認定する「宇宙技術の殿堂(Space Technology Hall of Fame®)」に選出されました。自分たちから申請したわけではなく、先方からの評価で決まったことには驚きましたが、創業時からの技術へのこだわりが世界に認められた証として、非常に誇らしく思います。

数値目標よりも「本質的な成長」を追求する未来

ーー今後の事業展開において、どのようなビジョンを描いていますか。

ロズリン ヘイマン:
あえて具体的な数値目標は掲げていません。数字を目的にすると、無理が生じたり本質を見失ったりする恐れがあるからです。私たちが目指すのはオーガニックな成長です。つまり、ハイドロキシアパタイトという素晴らしい素材の潜在能力を活かし、お客様が真に求める商品を提供し続けることで、結果として自然に成長していく姿が理想と考えています。

現在は、主力の歯みがき剤に加え、OEM事業やスキンケア製品、さらには歯科医院向けの医療機器分野にも注力しています。特に医療機器はすでに承認を取得した製品もあり、今後さらに開発を加速させていく予定です。海外市場においても、無理に売り込むのではなく、ニーズがある国へ着実に展開していくことで、輸出比率は売上高の10%にまで成長しました。

ーー貴社が求める人物像や、大切にしている組織風土についてうかがえますか。

ロズリン ヘイマン:
私たちが求めているのは、アイデアが豊富で、かつ勤勉な方です。少数精鋭の組織だからこそ、与えられた仕事をこなすだけでなく、自ら考え、潜在能力を発揮できる方を歓迎します。「定時になったら終わり」と割り切るのではなく、目標に向かって熱心に取り組める情熱を持っていてほしいです。

その分、会社としてはワークライフバランスを非常に重視しています。年末年始休暇やゴールデンウィーク、お盆休みなどはしっかりと長期休暇を取れるようにしており、メリハリを持って働ける環境を整えています。また、コロナ禍以前から柔軟な働き方を導入してきましたし、社内でのゴルフコンペやランチ会など、部門を超えた交流も盛んです。社員同士が互いに尊重し合い、楽しみながら仕事に打ち込める、そんな家族的な温かさとプロ意識が共存する組織であり続けたいと考えています。

編集後記

バブル崩壊、獣医師免許の取得、そして夫の会社の経営危機。ロズリン ヘイマン氏の半生は、まさにドラマのような激動の連続だった。しかし、その語り口はあくまで理知的で、困難を「解決すべき課題」として冷静に見据える、証券アナリストとしての視点が垣間見える。「良いものは、正しく伝えれば必ず認められる」。安易な価格競争を拒絶し、品質とブランドの復権を成し遂げた同社の姿勢は、技術力を持つ多くの日本企業にとって一つの指針となるだろう。NASAも認めた技術を武器に、自然体で世界へ広がるサンギのこれからに期待したい。

ロズリン ヘイマン/ 1945年オーストラリアメルボルン生まれ。1967年メルボルン大学、1969年フランスニース大学を卒業。1971年オーストラリア貿易産業省を経て、日本に留学し、1977年東京大学大学院を修了。同年在豪日本大使館勤務。1979年共同通信社、1985年ジャーディン・フレミング証券(現・JPモルガン証券株式会社)などに勤務。1998年麻布大学を卒業し、獣医師免許を取得。同年株式会社サンギに入社。経営企画室長、副社長を経て、2016年同社社長に就任。ライフワークとしてインタビューブログ「ロズリンの部屋」も連載中。