
神奈川県に本社を置き、サービスステーション(SS)運営やカーライフサポート事業を展開する株式会社サンオータス。創業100周年を目前に控える同社は、エネルギー転換期という激動の時代において、柔軟な事業変革で成長を続けている。銀行員からの転身という経歴を持つ代表取締役社長の北野俊氏は、就任以来、大胆な決断で組織を牽引してきた。現在、北野氏が掲げるのは「個人の人生の充実こそが会社の成長を創る」という信念だ。老舗企業が挑む組織風土の大改革と、次なる100年に向けたモビリティ戦略について、北野氏に話を聞いた。
異業種からの挑戦と実績による信頼獲得の歩み
ーー貴社へ入社された経緯を教えてください。
北野俊:
銀行員時代、株式会社サンオータスの本社が横浜市鶴見区から港北区新横浜へ移転した時期と、私の異動のタイミングが重なり、私が担当者として上場支援のために出向することになりました。当時は会社を上場させることを自身の命題として全力を尽くしていました。
出向期間を終えて入社を決めたのは、先代社長である太田氏の人柄に惹かれたからです。先代は、私のような若手行員の意見にも「どう思う?」と真摯に耳を傾けてくれる人でした。銀行員として多くの経営者を見てきましたが、懐の深さに経営者のあるべき姿を学びたいと感じ、入社を決意しました。
ーー入社当時の社内はどのような雰囲気でしたか。
北野俊:
当時は仕組みが未完成で、勢いだけで進んでいるような荒っぽさがある組織でした。外から見ている以上に課題は大きく、「大変なところに来てしまった」と不安を感じたのを覚えています。
また、社内の立場も完全アウェイの状態からのスタートでした。銀行員時代は上場支援の担当として歓迎されていましたが、いざ入社すると、周囲の反応は一変したのです。当時の役員たちからは「自分たちの立場を危うくする存在」と警戒されました。社内に新しい風が吹くことへの期待と戸惑いが混在していたのです。私が組織にどこまで馴染めるか、周囲も固唾を呑んで見守っていたように思います。私は、実績を作って周囲に認めさせるしかないと腹を括り、必死に取り組んでいました。
市場動向を鋭く捉えた迅速な事業判断の継続
ーー周囲の信頼を、どのようにして獲得されたのでしょうか。
北野俊:
実力で認めさせるしかないと腹を括りました。当時、経営企画室にいた私は、SS事業一辺倒からの脱却を目指し、輸入車部門の拡大を主導しました。買収も含めた積極策で売上を倍増させ、数字という目に見える実績を示すことで、周囲の社員たちも徐々に私のやり方を認め、協力してくれるようになったと感じています。理屈ではなく結果を出すことが、信頼獲得への最短ルートだったのです。
ーー競争の激しい業界を勝ち抜いてこられた強みを教えてください。
北野俊:
時代の変化に合わせて業態を変えていける柔軟性です。石炭や重油から始まり、モータリゼーションの進展とともにガソリン、整備、輸入車販売、レンタカーへと事業を広げてきました。
また、将来性を見極めながら戦略的に事業の再編をしています。私が買収を決断したBMW運営の子会社がありましたが、市場環境を見て売却を決断しました。過去の成功体験に固執せず、会社の未来のために必要な変化を選び取る判断力が、変化の激しい業界で持続的な成長を支えて来られた理由の一つです。
ーー「貴社らしさ」とはどのような部分でしょうか。
北野俊:
まっすぐ、ひたむきにお客様と向き合う姿勢です。効率化が進む現代でも、最終的に選ばれる理由は「人」だと確信しています。弊社では、給油、整備、販売、レンタカーといった事業間で連携し、お客様のカーライフをワンストップでサポートしています。これは部門を超えて、お客様のために親身になるという意識が浸透しているからこそ実現しています。あえて手間をかけてでも、ひたむきに向き合う泥臭さが私たちの強みです。
社員の幸福を最優先に掲げる企業文化の醸成

ーー現在取り組まれている組織改革についてお聞かせください。
北野俊:
「会社の成長が社員を幸せにする」という従来の考え方を転換し、「個人の人生の充実こそが、会社の成長を創る」という逆転の発想へシフトしました。2年前から、役員や部長クラスが「家族との時間を大切にする」「将来の夢を叶える」といった個人のビジョンを手帳に可視化する取り組みを始めています。プライベートが充実し、リフレッシュして仕事に向き合うからこそ、パフォーマンスが向上する。この好循環を全社へ浸透させようとしています。
ーーその改革によって、社員にはどのような変化が生まれていますか。
北野俊:
仕事への向き合い方が能動的に変わりつつあります。自分の人生目標を実現するために、今の仕事がどう役立つかを考えるようになるからです。来年の100周年プロジェクトも、社員たちが自主的にチームを作り企画を進めてくれています。できない理由を探すのではなく、どうすれば実現できるかを考えるポジティブな風土が、少しずつ根付いてきた手応えを感じています。
次世代インフラを担う移動サービスへの挑戦
ーーこれからの事業構想についてお聞かせください。
北野俊:
トータルカーサービスからモビリティサービス企業への変革を掲げています。脱炭素社会を見据え、EV(電気自動車)対応やMaaS(※2)の視点を取り入れた新たな移動サービスを構築します。既存のネットワークを活かし、EV充電やマイクロモビリティの拠点を整備していく考えです。電動キックボードや小型EVを用い、駅から観光地や自宅までを繋ぐ点での移動を支援します。こうした取り組みは、高齢化が進む地域社会の移動の自由度を高めるための大きな挑戦です。
また、今後は鉄道会社や自治体とも積極的に連携し、共存共栄のモデルを構築するつもりです。かつて鉄道は競合でしたが、現在は地域課題を解決するための大切なパートナーだと捉えています。役割分担を明確にし、官民一体となって世の中に必要とされる仕組みを提供していく方針です。神奈川県における総合エネルギー供給拠点として、地域に貢献し続ける企業を目指します。
(※2)MaaS(Mobility as a Service):鉄道・バス・タクシー・シェアサイクルなどの複数の交通手段を、スマホアプリを通じて検索・予約・決済まで一括でできる次世代の移動サービス。
編集後記
創業100年を目前にした組織が既存の常識を覆し、社員個人の人生の充実を経営の根幹に据えた。大胆な決断の背景には、外部から飛び込み実績を積み上げた指導者の確固たる信念がある。泥臭い努力を厭わず、時代の変化を鋭く捉える柔軟な姿勢は、新時代のリーダー像として鮮明だ。逆境を歓迎し、変化を恐れずに進化を続ける企業の在り方は、未来の可能性を模索する多くの人々の心に、確かな確信を提示している。

北野俊/1967年東京生まれ、慶應義塾大学卒。横浜銀行に入行し、10年の銀行勤務を経て2001年に株式会社サンオータスへ入社。2004年に同社代表取締役社長に就任。学生時代からのサッカーは今も続けている。