
株式会社メタリアルは、生成AI、AI自動翻訳、メタバースなどの最先端技術を活用したサービスを開発する企業だ。その挑戦は、「英語ができなくてもいい世の中にする」という強い問題意識から始まった。同社は、巨大企業が手を出さない、業界特化型の「垂直統合型AIエージェント」の開発を重点テーマに据える。さらに10年以上の長期的な展望として、「物理的な物からの解放」という壮大な目標も掲げている。代表取締役CEOの五石順一氏に、そのユニークなキャリアと、常識を打ち破り続ける信念について話をうかがった。
画一的な働き方を拒否した原点と偶然が導いた独立の道
ーー社会人としての最初のキャリアについてお聞かせください。
五石順一:
大学卒業後、英会話学校だった株式会社NOVA(現・NOVAホールディングス株式会社)に入社しました。就職活動では、組織のルールを守り、個性を抑えることが強く求められました。しかし、私は人から言われたことをきっちりこなすようなタイプではなく、この画一的な働き方に違和感を抱き、「これは自分には合わない」と感じたのです。
当時、初めて新卒社員を募集していたNOVAならば、自分が動かせる裁量が大きいだろうと考え、入社を決めました。実際に入社後は、店舗展開、マーケティング、商品企画、システム、人事など、ほとんどすべてを手掛けました。自分が事業を動かしているという実感がありました。
ーー翻訳事業を立ち上げ、独立された経緯について教えてください。
五石順一:
NOVAが上場したことにより、一つの区切りがついたと感じました。「今度は自分でイチから事業を始めてみたい」という思いが湧き、社内ベンチャーとして翻訳事業を行う株式会社GLOVAを立ち上げたのです。
その後、独立に至ったのは、実は非常に変わった経緯があります。独立の意思がなかった頃、突然、見知らぬ証券業界の人物から「社長にならないか」とスカウトを受けました。一度は断ったのですが、メンバーの中にいた女性から「その人は、きっと独立をサポートしてくれる」という謎めいた助言がありました。
その言葉に背中を押され、再び連絡を取ったのです。結果的に、その人物の支援を受けて、NOVAの中で行っていた翻訳事業をMBO(※)によって買い取り、2004年に株式会社ロゼッタとして独立しました。
その時の人は、今では弊社の社外取締役として、そして助言をくれた彼女も執行役員として、変わらず私の挑戦を支えてくれています。
(※)MBO:経営陣による自社買収。
巨大企業と真逆の個別カスタマイズ戦略の成功
ーー機械翻訳(AI)へと事業を転換された背景についてお聞かせください。
五石順一:
NOVAでの経験を通じ、ある理不尽さを感じていました。優秀で真面目な日本人が、英語ができないというだけで、不当なハンディキャップを負っているという現実です。私たちは英語の習得を義務感のように煽りながら、どこか悪いことをしているような気がしていました。
そして、「そもそも、なぜ日本人は英語を勉強しないといけないのだろう」という疑問が強くなったのです。そして私は、この理不尽なハンディキャップ自体をなくすべきだと考えました。「英語ができなくてもいい世の中にする」という目標を掲げ、機械翻訳(AI)事業へと舵を切ったのです。
ーーAI翻訳サービスの成功の要因について、どのようにお考えでしょうか。
五石順一:
メタリアル・グループのロゼッタは、専門用語に強い高精度AI翻訳「T-4OO(ティー フォーオーオー)」を開発、提供しています。成功の要因は、Google翻訳などの無料翻訳サービスとは真逆の戦略をとったことです。彼らがシンプルで分かりやすいUIで一般の文章翻訳に特化するのに対し、私たちは、顧客ごとのカスタマイズに特化しています。分野を2000以上に分け、製薬、金融、法務、製造業、特許などの専門文書の翻訳精度を追求しました。分かりにくいUIであっても、業務用として機能が豊富で、顧客にぴったり合うように振り切ったのです。

商品力が強いため、マーケティングや営業がほとんど不要となり、「私にできることはもうない」と第一線から引くことにしました。しかし、私が第一線から引いたことにより、この5年間で競争力が低下し、マイナス成長に陥るという苦境を経験しました。これは、大衆的な流行に安易に流され、「お客様に寄り添った個別のものを作る」という、私たちの強みを忘れていたことが原因です。
ーー現在どのように組織を立て直し、事業を再構築されているのでしょうか。
五石順一:
今まさに、全社で原点に立ち返る作業を行っています。私たちは、GoogleやOpenAIといった巨大な企業と同じことを実行しても勝てるわけがありません。もう一度、彼らがやらない「個々の分野や業種、企業に合わせたものを作る」というところに集中すべきだと考え、全社員の方向性を合わせているところです。この今の苦境が、次の飛躍を生むと信じて取り組んでいます。
巨大ITが手を出さない専門特化型AIへの挑戦
ーー現在取り組まれている新製品の開発と、長期的な展望について教えてください。
五石順一:
現在注力しているのは、業種別に特化し、人間の代わりに仕事をする業界特化型生成AIのコンサルティング・オーダーメイド開発サービス「MetaReal AI Experience」です。特に製薬、建築、金融、メディアの4分野に注力しています。

生成AIを応用した技術も開発中です。スマートフォンで動画を撮るだけで、空間のバーチャルな世界(デジタルツイン)を自動生成できます。これにより、建設現場の課題解決などに貢献します。
さらに10年以上の展望として、「物理的な物からの解放」を設定しています。私たちは、幸せになるために必ずしも「物」を必要としないという考え方をもっています。たとえば、良い夢を見ているとき、私たちは物がなくても幸せを感じる。この状態をバーチャルの世界で実現し、自由自在に幸せな体験を創造することが目標です。そして、バーチャルの世界がリアルな幸福をもたらす未来を築きたいと考えています。
編集後記
五石氏の言葉には、既存の市場や常識に対する痛烈な問いが込められている。世界が追随する巨大IT企業の戦略に対し、同社は独自の視点に基づき、専門性の高いAIに活路を見出した。この戦略の根底には、「英語ができなくてもいい」という現代のハンディキャップを解消したいという強い思いがある。過去の成功と失敗を乗り越え、人類の根源的な課題解決に挑むその姿勢は、常識の外側で価値を創造する企業の姿を鮮烈に示している。同社が目指す、バーチャルな幸福がリアルを凌駕する未来に、新たなビジネスの可能性が開けるだろう。

五石順一/京都大学法学部卒業後、株式会社NOVAに入社。経営企画室長として同社を上場に導いた後、社内ベンチャーとして翻訳・通訳事業を行う株式会社GLOVAを創業。2004年にはエンジェルの支援を受け、MBOで独立し、株式会社ロゼッタを創業、代表取締役に就任。2021年に株式会社メタリアルへ商号変更。現在、「人類を場所・時間・言語・物理的な制約から解放する」というミッションを掲げている。