※本ページ内の情報は2026年1月時点のものです。

京都府に本社を構え、乳酸菌飲料や清涼飲料水の企画・販売を手掛けるクロレラ食品ハック株式会社。製造工場を持たないファブレスメーカーとして、小回りの利くスピード感と柔軟な商品開発を武器に成長を続けている。主力である大袋入り乳酸菌飲料に加え、近年はユニークなコラボレーションやカップ飲料事業など、新たな柱の構築を積極的に推進している。アパレル業界から転身し、父の後を継いで代表取締役に就任した上辻健氏に、独自の生存戦略と、自社ブランド確立に向けた今後の展望について話を聞いた。

意識を変えた「自主回収」の経験

ーー会社設立の経緯と、入社に至った経緯について教えていただけますか。

上辻健:
父はもともと別の乳酸菌飲料メーカーで営業本部長を務めていましたが、その会社が経営難に陥り、退職することになりました。その際、父の営業手腕を知る製造メーカーの社長たちが「上辻さんが独立するならバックアップする」と声をかけてくださり、販売代理店のような形で弊社はスタートしました。

私は当時、百貨店のアパレル店員として働いており、会社を継ぐつもりはありませんでした。しかし、創業から4年後に父が脳梗塞で倒れ、会社を畳むかどうかの岐路に立たされました。当時、仕入れ先や金融機関に今後も安心して取引していただくためには、親族である私が入社して信用をつなぐ必要がありました。周囲の説得もあり、家族の一大事ということで腹を括り、入社を決意しました。

ーー異業種からの参入で、ご苦労されたエピソードがあればお聞かせください。

上辻健:
入社当時は営業経験も食品の知識もゼロでした。周りの社員は父の代からのベテランばかりで、親子ほど年が離れていましたが、特別扱いされることなく厳しくも温かく指導してもらいました。扱う商品は服から食品に変わりましたが、「お客様の求めているものを提案する」という商売の本質は同じだと捉え、懸命に取り組みました。

ただ、ある時、提携工場の製造ミスにより商品の味が本来のものと異なってしまう事故が起き、自主回収を行わなければならない事態が発生しました。その際、取引先であるスーパーなどの小売店様から非常に厳しいお叱りをいただき、食の安全に対する責任の重さを痛感しました。順調だった中での出来事でしたが、この苦い経験が、その後の品質管理や商品開発に対する私の意識を根本から変えるきっかけとなりました。

大手にはできない「スピード」と「隙間」を突く戦略

ーー貴社の事業の特徴と、競合他社との差別化ポイントについて教えてください。

上辻健:
弊社の主力商品は乳酸菌飲料ですが、大手メーカーがひしめく業界において、真正面から勝負しても勝ち目はありません。そこで、私たちは「スピード」を最大の武器にしています。大手企業では決裁に時間がかかるような案件でも、弊社のような30名規模の組織であれば即断即決で進められます。

たとえば、以前ある商談の中で「市場では亜鉛などの機能性素材が入った商品が求められているのに、手頃な商品が少ない」という話を聞きました。弊社ではそれまで乳酸菌飲料しか手がけていなかったのですが、これはチャンスだと思い、すぐに新商品開発に着手しました。そして、他社が1本100円で販売しているところを、5本入り198円という価格設定で商品化したのです。1本で1日分の亜鉛が摂取できるという付加価値を加えることで、コストパフォーマンスを重視するお客様の支持を得ることができました。

このように、市場のニーズを素早くキャッチし、大手が入ってこないニッチな商品を形にする力が弊社の強みです。

ーー商品開発においては、現在どのような点に注力されているのでしょうか。

上辻健:
大きく二つのテーマを掲げています。一つは、主力の乳酸菌飲料事業におけるトレンドへの対応です。具体的には、睡眠の質向上を謳う商品などが流行した際には、即座にそのトレンドを取り入れた商品を開発できる体制を整えています。後発であっても、スピード感を持って市場に投入することで、ブームの波に乗ることが可能です。

そして二つ目は、第二の柱として育成中のカップ飲料事業です。参入当初はスムージーなど、いわゆる定番の商品を作っていましたが、それだけでは埋もれてしまいます。そこで現在は、「パインアメ」や「サクレ」といった他社の有名ブランドとのコラボレーション商品など、話題性のある企画に力を入れています。「あのお菓子が飲み物になったの?」という驚きや面白さを提供することで、指名買いしていただけるような高付加価値の商品づくりを目指しています。失敗を恐れずに挑戦し続けることこそが、ヒット商品を生むための道だと考えています。

「営業の組織化とブランド確立で目指す社員が誇れる会社」を目指して

ーー現在、組織力の向上に向けて取り組まれていることは何でしょうか。

上辻健:
営業の組織化です。これまでは創業者の父が持っていた感覚や、個人の経験に頼る営業スタイルが中心でした。しかし、それではノウハウが蓄積されず、人によって成果にばらつきが出てしまいます。今後はデータを活用し、組織として再現性のある営業スタイルへの転換を図る方針です。

また、私たちは自社工場を持たないファブレスメーカーであるからこそ、協力工場との共存共栄が不可欠です。私たちが利益率の高い独自商品を開発し、適正な価格で製造を委託することで、工場の収益や雇用を守ることにつながると考えています。

ーー最後に、今後の事業展開や、目指す会社の姿についてお聞かせください。

上辻健:
創業から25年以上が経ちますが、弊社の乳酸菌飲料は、未だに「ヤクルト」と呼ばれることがあります。この業界ではこの特定のブランド名がカテゴリーの代名詞のようになっており、弊社の商品は「その他大勢」として認識されがちです。これは乗り越えるべき大きな壁です。今後はブランディングをさらに強化し、「これはクロレラ食品ハックの商品だ」と認識して指名買いしていただけるような、確固たる自社ブランドを確立したいです。

そして何より、働いている社員だけでなく、その家族や友人が「良い会社で働いているね」と誇りを持てるような会社にしていきたい。それが、社長としての私の最大の目標です。

編集後記

予期せぬ出来事から経営者へ転身した上辻氏。大手ブランドとの正面衝突を避け、製造委託先の雇用維持という社会的責任も視野に入れた事業展開には、経営者としての強い責任感が滲み出ている。製造工場を持たない特長を活かし、スピードとアイデアで市場の隙間を的確に捉えるクロレラ食品ハック。父から受け継いだバトンを手に、創業以来の課題であった自社ブランドの確立を目指し、全社を挙げて変革に挑む姿勢は、これからも続いていくことだろう。

上辻健/1976年京都府出身。関西大学総合情報学部卒業後、アパレル会社に入社。2004年、創業者である父の病気を機に、家業であるクロレラ食品ハック株式会社に入社。営業、商品開発を経て、2024年6月に同社代表取締役に就任。