
鉄道の安全運行に不可欠な軌道材料の設計・開発を手がけ、日本の社会インフラを根底から支える鉄道軌材工業株式会社。同社は、日本産業規格(JIS)などの基準を満たすだけでなく、コンパクト化や軽量化といった現場の使いやすさや、鉄道事業者様の要望に合わせた製品開発等の独創的な技術力が強みだ。2019年、同社の代表取締役社長に就任したのは、自動車業界で25年の営業経験を持つ飯田記章氏だ。異業種で培った顧客起点の視点をいかに事業に活かし、会社の変革を促してきたのか。そして、業界の未来をどう見据えているのか。その軌跡と展望に迫る。
25年の営業経験で培った顧客起点の営業改革
ーーこれまでのご経歴について、お聞かせいただけますでしょうか。
飯田記章:
新卒でホンダ系列の企業に入社し、約25年間営業一筋で従事してきました。学生時代から自らが操縦できる自動車に関心があり、ホンダの独創的な技術や高い目標に挑戦する姿勢に魅力を感じて、志望しました。
入社当時はバブル崩壊後の厳しい時代でしたが、お客様のニーズに合わせた対応や提案等の試行錯誤を重ねました。その結果、豊富な知識を蓄積することができ、燃料電池車やスポーツカーの専任、営業スキルを競う全国大会への出場等、営業として貴重な経験を積むことができました。
そうした中で47歳の時に転機が訪れました。当時、営業担当としてお付き合いのあった弊社の先代社長から声をかけていただいたのです。特許を持ち、ニッチながらも確かな技術力がある会社だと調べて分かりましたので、「全く新しい分野に挑戦するなら、年齢的にもこれが最後のチャンスかもしれない」と考え、思い切って弊社への転職を決意しました。
ーー社長へ就任されたのはどういった経緯があったのでしょうか。
飯田記章:
入社後一貫して、営業職として働いていました。特別な役職のステップアップがあったわけではなく、一営業担当として業務に励んでいたのですが、ある日、突然先代から「やってみるか」という打診を受けたのです。当然、不安もありましたが、「経営」にも興味を持っていたので挑戦してみたいという気持ちも同時に湧き上がりました。最終的には、「やるかやらないかは自分次第だ」と腹を括り、お引き受けすることにしました。
ーー社長就任後、特に注力されたのはどんな点でしょうか。
飯田記章:
営業スタイルの変革です。これまでは既存のルートセールスに頼る側面がありましたが、私が前職で得た個人向け営業の経験を生かし、お客様とより密なコミュニケーションを図り、強固な関係性を築くことを重視しました。
お客様からの製品における問題点や要望を注意深くヒヤリングし、課題や問題解決に時間と労力を注ぐことで、より強い信頼関係を構築し、当方からの提案を聞いていただける環境が出来ていると自負しています。その結果として、環境負荷の低減に向けた取り組みにもご協力いただいております。
JIS基準を超える独創的な技術力
ーー貴社の事業内容と主力商品について教えていただけますでしょうか。
飯田記章:
社名の通り、鉄道車両を走行させるための線路(軌道)を構成する資材の設計・開発、および販売が主な事業です。自社工場を持たないファブレスメーカーとして、協力工場と連携しながら製品を世に送り出しています。
弊社の主力商品は「レール締結装置」と「PCまくらぎ」(※)のコンビネーション製品です。従来の木製枕木は経年劣化で腐食しやすく、レールの固定部分がずれて脱線事故につながるリスクがありました。対してコンクリート製の枕木は耐久性が非常に高く、長期間にわたり安全を維持できるのが最大の特長です。
一方で、普及に関しては課題もあります。特に地方鉄道では、主にコスト面での制約によって木製からの交換が難航しているのが現状です。安全確保のために不可欠なメンテナンスですので、自治体の補助金などを活用しながら、少しずつ交換を進めているところです。
(※)PCまくらぎ:線路の下に間隔をおいて敷き並べて線路を支えるコンクリート製の棒。
ーー主力製品の強みについてお聞かせください。
飯田記章:
強みとしては、単に日本産業規格(JIS)などの基準を満たすだけでなく、付加価値を加えられる技術力にあります。たとえば、同じ機能を持つ製品でも、調整幅を広くしたり、軽量化やメンテナンス作業の軽減を実現したりと、お客様の使い勝手を向上させる独創的な工夫を凝らしています。また、近年では環境負荷の低減にも積極的に取り組み、軌道材料としては初のエコマークアワード優秀賞をグループ会社で受賞し、製品の普及活動に勤しんでいます。
労働人口の未来を見据えたさらなる挑戦

ーー貴社の今後の注力テーマを教えていただけますか。
飯田記章:
最大のテーマは、労働人口の減少を見据えた鉄道保守の省力化です。そのために、現場での取り扱いやすさを追求した、軽量で施工が簡単な製品を開発し、点検業務を効率化する新技術の研究にも力を入れています。特に現在は、目視で行っているボルトの点検をセンサーで代替し、緩みの予兆を検知できるシステムの開発に挑戦しています。
ーー事業をさらに発展させていく上で、どのような人材を求めていますか。
飯田記章:
最も求めているのは、一つの物事を深く追求できる探究心をお持ちの方です。表面的な理解で満足せず、「なぜそうなるのか」を突き詰められる姿勢を大切にしたいと考えています。職種別には、営業職ならお客様との信頼を築ける誠実さ、技術職なら機械工学などの専門知識がある方を歓迎します。
また、弊社には従業員からの提案は、まず聞いて検討するという文化があります。たとえその提案が採用されなかったとしても、なぜ難しいのかという理由まで含めて、きちんと回答するように努めています。経営層との距離も近く風通しの良い環境ですので、自らのアイデアで新しいことへの挑戦や新しいものを創造したいという意欲のある方には、ぜひ来ていただきたいです。
ーー最後に、今後の展望や目指す会社の姿についてお聞かせください。
飯田記章:
事業面では、製造の内製化を推進し、コスト競争力を高めることが急務です。日本の鉄道技術は世界でもトップレベルですが、コスト面が課題となり、海外展開が十分に進んでいない現状があります。そこで、今後はM&Aなども視野に入れて内製化を加速させ、海外にも進出できる強固な基盤をつくりたいと考えています。
また社会貢献の視点では、子どもたちが安全に暮らせる未来につなげることを目標としています。その一環として、業界初となるエコマーク認定の取得を手始めとして、環境負荷の低減に向けた取り組みも進めています。SDGsの観点からも、持続可能な社会の実現に貢献できる企業であり続けたいです。
編集後記
自動車販売の最前線で培われた「顧客の心を掴んで離さない」という信念は、鉄道インフラビジネスの世界で新たな価値を生み出している。業界は違えど、ビジネスの根幹にあるのは顧客との信頼関係であるという普遍的な真理がうかがえる。独創的な技術力という確固たる土台のうえに、顧客起点の視点を掛け合わせ、保守点検の省力化といった業界の課題解決を見据える同社。社会を支える誇りと挑戦を歓迎する風土は、次代を担う人材にとって大きな魅力に映るだろう。

飯田記章/1970年生まれ、千葉県出身。1992年中央学院大学法学部卒業後、株式会社ホンダベルノ新東京(現・株式会社ホンダカーズ東京中央)に入社、25年間営業として勤める。2017年8月に鉄道軌材工業株式会社に入社。2019年9月、同社代表取締役社長に就任。