※本ページ内の情報は2026年1月時点のものです。

中古車販売大手「ガリバー」を運営する株式会社IDOMからスピンオフし、カーライフとフィンテック(※1)を融合させた事業を展開する株式会社IDOM CaaS Technology。AIを活用した独自の与信モデルや残価予測システムにより、従来の審査基準ではローンが通らなかった層にもカーライフを提供している。「信頼資本経営」を掲げ、過去の「信用」ではなく未来への「信頼」に投資する同社。その革新的なビジネスモデルと組織づくりについて、代表取締役社長の山畑直樹氏に話を聞いた。

(※1)フィンテック:IT技術を組み合わせた金融サービス。

車好きから始まったキャリアと分社化の決意

ーーこれまでのキャリアと、現在の事業を立ち上げるに至った経緯を教えてください。

山畑直樹:
私はもともと車が好きで、学生時代から漠然と自動車に関わる仕事がしたいと考えていました。メーカーでものづくりをするよりも、お客様に届ける流通の分野に面白さを感じ、2006年に株式会社IDOM(旧・株式会社ガリバーインターナショナル)に新卒で入社。入社後は、内部統制の整備やブランドの変更、デジタルマーケティングなど、本社の管理部門や新規事業の立ち上げに携わりました。

転機となったのは2018年、「NOREL(ノレル)」という事業を引き継いだことです。当時、この事業はIDOMの一事業部でしたが、小売業であるガリバー事業の「在庫を回転させて利益を生む」モデルと、NOREL事業の「車という資産を持ち続け、貸し出すことで収益を上げる」モデルには、財務的な思想の矛盾が生じていました。そこで、この事業をより成長させるためには、金融とテクノロジーのテーマを主軸に、独立した企業体として運営する方が成功確率は高いと判断し、2020年に分社化しています。

従来の審査基準を変える未来志向の与信システム

ーー現在展開されている事業の強みや、独自性についてどうお考えですか。

山畑直樹:
弊社は、クルマの利用価値を最大化するための革新的なプラットフォームを提供しています。カーライフとフィンテックを掛け合わせることで、より良いカーライフの提供とドライバー経済の発展を目指します。

最大の特徴は、販売機能と金融機能を一貫して持っている点にあります。通常、販売店と金融機関は別々ですが、私たちは自社で両方の機能を持ち、リスクをコントロールしながらサービスを提供しています。

特に注力しているのが、独自の与信モデルです。世の中には、過去の債務整理や病気などの事情で、通常のオートローンが通らない方が約4分の1います。私たちは、そうした方々の過去の「信用」情報だけで判断するのではなく、これからの「信頼」に重きを置いた審査を行っています。

たとえば、GPSによる走行データや、日々のコミュニケーションから得られる感情データなどをAIで解析し、その人の未来の支払い能力や信用度を可視化しています。これにより、他社では断られてしまうようなお客様にも、カーライフを提供できるようになりました。

ーー具体的に、お客様にはどのようなメリットがあるのでしょうか。

山畑直樹:
最大のメリットは、他では購入できない方が車を持てるようになることです。そしてもう一つは、リーズナブルに利用できることです。私たちは、AIを用いて車の数年後の価値(将来価値)を非常に高い精度で予測しています。一般的な金融機関の設定よりも精緻に予測できるため、車両価格から将来の価値を差し引いた分だけを支払う仕組みを、より安価に提供できるのです。

高性能な自動運転車などが普及し、車両価格が高騰していく未来においても、「買わずに利用する」という選択肢を提供します。これにより、誰もが移動の自由を享受できる社会を目指しています。

多国籍チームで挑む「信頼資本経営」の実践

ーーどのような経営スタイルを取られているのでしょうか。

山畑直樹:
「信頼資本経営」という、根拠が不十分でも、まずは相手を信じてリスクを引き受けることから始める経営スタイルを重視しています。金融の世界における「信用」は過去の実績に基づきますが、「信頼」は未来への期待や可能性に対するものです。一度の失敗で社会的信用を失い、再挑戦の機会が閉ざされてしまうのは、あまりにも惜しいことだと考えています。

お客様に対しても、また社員に対しても、過去の傷や失敗を見るのではなく、その人の可能性を信じて機会を提供する。もし失敗しても、私たちがリスクを吸収し、また次のチャンスを作る。そうやって「信頼」を積み重ねていくことが、結果として大きな資本になると信じています。

ーー組織づくりにおいて大切にしていることや、活躍しているメンバーの特徴について教えてください。

山畑直樹:
採用においては、履歴書上のスペックや過去の実績よりも、その人の人柄や動機を重視しており、そのため、弊社には真面目で素直で、一生懸命なメンバーが集まっています。また、エンジニアチームには多様な国籍のメンバーが在籍しており、組織として異質性を取り込むことを大切にしています。自分とは異なる背景を持つ仲間を受け入れ、互いに刺激し合うことで、組織はより強く成長します。

私が社員に求めているのは主体性です。そのためにたとえば、「ポストイット会議」を導入しています。この手法は意見を共有しやすく、スピーディに結論を出すための仕組みです。発言が得意ではない人も、話しすぎる人も、ポストイットになら端的に意見を書き出せます。これにより、メンバー自身が経営課題を分解し、解決策を考えて意思決定できる権限を委譲しています。自分たちで決め、実行するからこそ、仕事に対する熱量が生まれるのです。

ーー最後に、今後の展望についてお聞かせください。

山畑直樹:
将来的には、弊社のビジネスモデルを自社だけで完結させるのではなく、業界全体でエコシステム(※2)として広げていきたいと考えています。現在、私たちが蓄積している独自の与信データや残価予測の技術を、他の自動車販売店、あるいは不動産など異なる業界の企業にも提供し、活用していただきたいのです。

「信頼データ」を共通通貨のように使えるようにすることで、社会全体で機会の格差をなくし、より多くの人が豊かな生活を送れる基盤を作っていく。それが、弊社の目指す未来です。

(※2)エコシステム:複数の企業が連携して共存共栄する仕組み。

編集後記

「過去の失敗で未来が閉ざされることがないように」。山畑氏の言葉からは、テクノロジーを駆使しながらも、その根底にある深い人間愛と社会課題への誠実な向き合い方が伝わってきた。金融とモビリティという巨大産業に対し、独自の「信頼資本」という概念で切り込む同社。多様なバックグラウンドを持つメンバーと共に、既存のモノサシでは測れない価値を創造し続けるその挑戦は、多くの人々の人生を豊かに広げていくだろう。

山畑直樹/1984年北海道生まれ。2006年青山学院大学卒業後、株式会社IDOM(旧・株式会社ガリバーインターナショナル)に入社し、営業・内部統制・リブランディング・デジタル戦略を担当。中古車事業の中核構築に貢献。2018年に「NOREL(ノレル)」責任者、2020年、株式会社IDOMからスピンオフした株式会社IDOM CaaS Technologyの代表取締役社長に就任。残価予測AIと与信システムを核にカーライフ×フィンテック事業を展開している。