※本ページ内の情報は2026年1月時点のものです。

大阪・梅田に店舗を構え、屋号「カメラの大林」を展開する株式会社大林。カメラやレンズに加え、双眼鏡などの光学機器全般を扱う専門店として、実店舗のみならず自社ECサイトやAmazon、yahoo!ショッピング、楽天市場等のモールでも多くのファンを獲得している企業だ。

同社を率いるのは、代表取締役社長の梅林富士夫氏。実は2019年の春まで株式会社ニコンに勤めており、あと数年で定年を迎える予定だった。コロナ禍の危機を経て、同社の売上を7年で倍以上に成長させ、次世代へのバトンタッチを目前に控える梅林社長に顧客ファーストの経営哲学や人財への投資といった、今後の成長のカギとなる取り組みについてお話をうかがった。

ゼロからのスタートに見えた企業の課題と就任への決意

ーー長い間株式会社ニコンに勤務されていましたが、どのような経緯で社長に就任されたのでしょうか。

梅林富士夫:
新卒で日本光学工業株式会社(現ニコン)に入社してから、40年弱勤めてきました。弊社の社長就任の話をいただいたのは、7年前のことです。当時、私は61歳でしたが、ニコンの定年は65歳なので、そこまで勤めたら退職しようと考えていました。しかし、当時の弊社の社長が、がんで亡くなってしまいました。その上の会長(当時)にはお子様がいなかったため、跡継ぎがいなかったのです。そこで、海外現地法人社長、工場責任者、人材派遣会社社長など、経営の経験があった私に、社長になってほしいと話がきました。

3回ほど断りましたが、わざわざ90歳を超える高齢の会長が大阪から東京まできていただいて「なんとか頼む」とお願いされました。当時、弊社の社員には若手が多く、経営知識を持った人が在籍しておらず、経営を任せられない状況だったのです。そこで「ショートリリーフ(短期間)なら」ということで引き受けました。

もともとは社員の中から経営できる人材を育てて、3年間くらいで辞める予定で2019年4月に社長に就任しました。しかし、1年後にはコロナの影響でお客様が来ない状況になり、経営基盤を立て直さなければならなくなったのです。そこからいろいろとやりはじめて上手くいくようになりましたが、結果的にロングリリーフになりました。

ーー就任当時、どのような点に課題を感じ、変革に着手されたのでしょうか。

梅林富士夫:
前職が転勤の多い会社だったこともあり、新しい職場では良いことも悪いことも含め必ず違和感をかんじます。お店自体は2026年で85周年を迎えますが、就任当時は組織が長く変わらなかったことで「自社の常識」と「世の中の常識」のズレが大きいと感じました。

トップがやるべきことは、その違和感の原因を徹底的に追究しより良き方向に変えていくことだと考えています。変革の基盤として、言行一致、つまり言っていることと行動が一致していることを最も大切にしています。例えば「挨拶をしましょう」と言えば自分から実行しますし、「社員の待遇を改善し働く環境を良くしよう」といえば、それを行動に移します。自分の力量の限界は理解していますが、その中でできることを一つひとつ実行することで変革を進めていこうと考えています。

専門知識と「寄り添い」が生むECサイトでの感動体験

ーーコロナの影響でお客様が来なくなったということですが、どのように立て直したのでしょうか。

梅林富士夫:
ECに力を入れました。コロナ前も行っていましたが、コロナ後に強化した形です。自社のECサイト・楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピングなどを徹底的に広げていきました。また、中古品の通信販売もはじめました。店舗の売上は落ちたものの、ECの売上を大きく伸ばせました。

最初に、自社を全国に知ってもらうためホームページを強化しました。その後SNSを積極的に利用し、YouTube、TikTokなど動画サイトを使った広報活動の強化にも取り組んでいます。

ーー改めて、貴社の事業内容や強みをお聞かせください。

梅林富士夫:
弊社は、カメラと映像関係全般を扱う小売業を営んでおり、中心となるデジタルカメラに加え、レンズや双眼鏡、ゴルフの距離計といった光学製品全般を大阪の実店舗とECで販売しています。

最大の強みは、専門知識を持つスタッフがお客様に徹底して寄り添う点です。特に通信販売では、メール対応が主流の他社と異なり、電話での即時対応を重視しています。例えば、商品同士の互換性に関するお問い合わせがあれば、スタッフがすぐに実機を手元に用意し、実際に操作しながらご説明します。マニュアルの読み上げではなく、現物を確認しながらその場で疑問を解決できる体制が、他社にはない大きな強みとなっています。

ーーお客様からはどのような反応や評価を得ていますか。

梅林富士夫:
つい最近、SNS上でお店を褒めてくださっている投稿を見つけました。その方はECサイトで購入されたのですが、「梱包が芸術的に美しく、サービス品のレンズ拭きまで入っていた。そのさりげない心遣いに商売の真髄を見た」と書いてくださったのです。

この投稿に「実店舗にも行くが、私もすごくいいお店だと思います」「よく相談に乗ってもらっています」といったコメントが多数寄せられており、とても嬉しかったですね。お客様が一番信用するのは口コミです。SNSやGoogle、各ECサイトでの評価も総じて高く、お客様に寄り添う姿勢が、店舗だけでなく通信販売も含めて伝わっていると感じています。

従業員への還元と、インバウンド需要の確かな手応え

ーーインバウンドに対しては、どのように対応されていますか。

梅林富士夫:
コロナ以降、実店舗ではインバウンドのお客様が急増しています。弊社では、翻訳ソフトを活用して丁寧に説明を行うほか、商品はすべて開梱して点検し、ストラップなども取り付け、一度試し撮りをしていただいてからお渡しするようにしています。

中国のお客様などは、現地のSNSを見て来店されることが多いのですが、そこに「フレンドリーでとても良い対応」といった口コミや写真を投稿してくださっています。お客様ご自身が宣伝してくださることでさらに来店が増え、ECの成長と合わせて、売上はこの7年間で倍以上に拡大しました。

ーー従業員との接し方で大事にしていることはありますか。

梅林富士夫:
最も大切にしているのは「しっかりとした待遇で報いること」です。扱う商品は他店と同じですから、差を生むのはやはり社員にかかっていると考えています。

社員の質とやる気を高めるには、やはり給与が一番重要です。そこで、ここ数年は労働分配率を高めて賃上げを行い、大手企業以上に還元できるような体制を目指しています。また、就業規則や介護規定、退職金規定なども改定し、大手企業に勤めているのと同等のプライドを持って働けるような環境づくりに、特に力を入れています。

ーー社員のモチベーションや働きやすさについて、注力されていることはありますか。

梅林富士夫:
できる限り社員にストレスをかけない環境づくりです。無理に高い売上目標を設定したり、数字のために取引先やお客様に無理を言ったりすることはさせていません。特に、カスタマーハラスメントのような事案に対しては、社員を守ることを最優先し、「断っても構わない」と毅然と対応するよう指示しています。

また、私自身も毎日店頭に行き、従業員一人ひとりに声をかけるようにしています。健康第一ですので、体調を崩したらすぐに休むよう伝えていますし、有給休暇の取得も積極的に勧めています。

ーー専門知識の育成はどのように行っていますか。

梅林富士夫:
弊社にはベテラン社員が多く、彼らが日々の業務の中で若い世代の指導役を担ってくれています。定年は65歳ですが、本人が希望すれば年齢に関係なく働ける制度にしているため、70代や80代のスタッフも活躍しています。さらに、メーカー出身のOBも多数受け入れているため、社内には極めて専門性の高い人材が揃っています。若い社員たちは、こうした知識豊富な先輩たちと共に働くことで、安心して専門知識を磨くことができるのです。

リスクを理解して覚悟を持って引き受けてくれる人に、経営を教育したい

ーーもともとは3年で辞める予定だったとのことですが、今後は後任を育てるのでしょうか。

梅林富士夫:
すでに社内から後継者は決めています。しかし、まだ経営のノウハウは持っていません。通常の担当業務なら1ヶ月もあれば引き継げますが、経営者としての引き継ぎには年単位の時間が必要です。そのため、ここから1、2年かけてOJTでじっくりとバトンタッチしていこうと考えています。

経営とは、万が一の苦境の際、取引先様や社員のために自分の財産を投げ売ってでも会社を存続させる覚悟が必要です。それを理解して引き受けてくれる人物に対し、人事や財務などのOJTをしっかりやっていくつもりです。

ーー今後の成長を見据えて、特に注力している課題はありますか。

梅林富士夫:
一番の課題は「人材確保」です。この7年で売上は倍以上に伸びましたが、正社員の人数はほぼ増えていません。中小企業にとって採用は容易ではありませんが、事業承継を行うこの期間中に、できる限り能力の高い方を正社員として採用し、体制を整えることが私自身の重要なミッションだと考えています。

具体的には、30歳前後の若手層を増やしたいですね。経験がなくても、人と接することが苦でなければ業務にはすぐに慣れます。転勤もなく、休暇も取りやすい環境ですので、ここで腰を据えて専門性を磨き、それに見合った報酬を得たいと考える方と、良いマッチングができればと願っています。

ーー事業継承までに、この会社をどのような状態にしていきたいですか。

梅林富士夫:
まずは、従業員に「最後まで大林で働きたい」と思ってもらえるような労働環境の基礎を完成させたいと考えています。また、社員への金融教育を行うなど、将来設計までしっかりサポートできる体制を構築し、人が育ち、長く定着する組織にしたいですね。

もう一つは、ハイブランドを扱う企業としての格式をさらに高めることです。ライカやハッセルブラッドのような高級機の正規代理店として、商品に見合う売り場と社員のレベルを維持し、お客様から「フレンドリーだけど格式のある店」と憧れられるような状態でバトンタッチしたいと考えています。

チャンスは無限にある。意志あるところに道は開ける

ーー最後に、若者に向けてメッセージをお願いします。

梅林富士夫:
チャンスは無限にあります。意志があって示していければ、道は開けていくものです。常識の中で考えず、思い込みは捨てましょう。また、自分の専門性や得意な部分を突き詰めていくことが大切です。弱いところを強化するのは困難です。他人から見ておかしなことだったとしても、自分を信じてください。弱いところは誰かに助けてもらいましょう。

編集後記

あと数年で定年退職を迎える予定が、別会社の社長に就任するという大きな決断をした梅林富士夫氏。コロナ禍という危機に直面しながらも、専門知識に基づく顧客への「寄り添い」をECとSNSなどの広報活動強化で、売上を倍以上に伸ばす成長へと繋げた。その根底には、社員の待遇改善と働きやすい環境づくりという、人財への揺るぎない投資がある。後継者の選定と教育に着手し、社員が最後まで働きたいと思える企業基盤を築こうと力を込める同社の、今後の事業承継とさらなる飛躍に注目である。

梅林富士夫/1956年福岡県生まれ 1979年3月早稲田大学商学部卒、同年日本光学工業(現ニコン)入社、国内販売会社常務、韓国現地法人社長、水戸製作所長、ニコンスタッフサービス社長を歴任し2019年4月から株式会社大林社長となる。