※本ページ内の情報は2026年1月時点のものです。

北海道富良野エリアを中心に、複数のホテルや旅館を運営する北海道ホテル&リゾート株式会社。「田舎の親戚の家」をコンセプトに、マニュアルのない温かなもてなしで顧客の心をつかんでいる。代表取締役を務める小林英樹氏は、父親が経営していたホテルの盛衰を目の当たりにした後、再生事業の面白さに魅了され、31歳で独立。業界の旧弊な体質を壊したいという強い思いを原動力に、仲間と共に成長を続けてきた。同氏の軌跡と未来への展望を聞いた。

業界の常識を壊すために選んだ独立の道

ーー仕事の原点となった当時の環境や転機は何でしたか。

小林英樹:
もともとは父がホテルを経営していたのですが、バブル崩壊や北海道拓殖銀行の破綻といった時代の波を受け、最終的には手放すことになりました。当時25歳だった私は、父の会社の再建に携わった後、買収先の企業の社員として働き始めました。これが、この業界における本格的なキャリアのスタートです。

その企業が次々と他のホテルの買収・再生を手がけていた環境に身を置いたことが、大きな転機となりました。さまざまな案件に関わる中で、ホテル業は宿泊だけでなく飲食など多岐にわたる展開が可能で、非常に奥が深いことに気づいたのです。飽きっぽい性格の私にとって、その幅広さはとても魅力的に映りました。

また、学歴などに関係なく、自分たちが提供するサービスで目の前のお客様が喜んでくださることに純粋なやりがいを感じ、この仕事にのめり込んでいきました。

ーー自ら起業を決意した背景や当時の心境を教えてください。

小林英樹:
独立のきっかけは、業界全体にまん延していた、新しいものを受け入れない体制に強い違和感を抱いたことでした。たとえば、富良野のホテルであるにもかかわらず、スキーで疲れたお客様に窮屈なフレンチを提供したり、スリッパでの移動を禁止したりといったルールがありました。もっとお客様に寄り添い、その土地らしい表現をすべきだと考えましたが、会社はなかなか変化を受け入れてくれません。「このままでは自分が腐ってしまう」と感じ、自分で事業を行ったほうが若手を輝かせられ、お客様にも寄り添えると考えたのです。

そうして31歳でホテルを買収するにあたり、まずは私をよく知る同級生たちを集めてチームを作りました。経営者として、できない理由を挙げる人間を仲間として受け入れたくなかったからです。

資金調達には非常に苦労しました。個人投資家を十数件回り続け、最終的に2億円を金利10%で調達しました。31歳の未熟な私に大金を預けてくれた方々の思いに応えるためにも、絶対に上を目指さなければいけないと強く心に誓ったのを覚えています。

地域に根差し多角的に展開する独自戦略

ーー現在の事業体制の強みについて、どのようにお考えでしょうか。

小林英樹:
弊社は富良野エリアを中心に、宿泊・温浴・飲食の3つの軸で事業を展開しています。ブランディングの核に据えているのは「第二の我が家」というコンセプトです。特定のターゲットに縛られず、田舎の親戚の家を訪れた時のような温かさを提供し、地域で最も親しまれる存在を目指しています。

また、行政から受託している指定管理事業も弊社の大きな強みです。他社が敬遠するような赤字施設であっても、その土地独自の歴史や潜在価値を掘り起こし、再生させるノウハウを持っています。こうした困難な再生を支えているのは、現場で情熱を持って取り組む最高の仲間たちです。マニュアルを超えた真心のこもったもてなしは、メンバーとの揺るぎない信頼関係があってこそ成立します。この「人」の力こそが、弊社の最大の強みだと自負しています。

ーーサービスの質や意欲を高めるために、どのような組織運営をされていますか。

小林英樹:
関わるすべての方々の声を形にするという姿勢を、何より大切にしています。お客様はもちろん、従業員、パートナー企業、そして地域住民の皆様からいただく言葉が、弊社の進化の源です。そのため、組織運営はあえて施設ごとに委ねています。ホテル支配人の権限や個性を尊重し、評価制度や手法も現場に合わせて柔軟に変更して構わない、というスタンスです。

その代わり、各施設の責任者が集まる「道場」という場を設け、経営思考を共有し、成功事例を互いに学び、取り入れ合っています。属人的な経営に陥らず、事例が循環する環境をつくることで、組織全体の底上げを図っています。

最高水準の待遇を目指す抜本的な改革

ーー今後の展望と、実現したい組織の在り方をお聞かせください。

小林英樹:
これからも、関わるすべての方々と本音で対話できる関係を築くことが私の理想です。時には、耳の痛いご指摘をいただくこともあるでしょう。しかし、そうした「生の声」こそが、私たちが進化するためのヒントになります。いただいた言葉を真摯に受け止め、即座に改善を繰り返すこと。この積み重ねこそが、私たちが地域で選ばれ続ける理由になると信じています。

また、従業員の待遇改善にも注力します。具体的には、休日数の増加と、業界ナンバーワンの所得水準の実現を掲げました。そのために生産性を高め、やるべきことをやる集団へと成長しなければなりません。経営陣が明確な道筋を示し、メンバーと一丸となって改革を進めていきます。

個人的には、あと8年ほどで引退することを一つの目標にしています。それまでの期間、私が経営者として挑戦し続ける姿を見せることで、次世代を担う若い経営者たちに野心や希望を抱いてもらいたい。それが、この業界や地域の未来を明るくすることにつながると信じています。

ーー理想を具現化するための体制整備や求める姿勢をうかがえますか。

小林英樹:
組織運営においては、マルチタスク化とDXの推進が鍵になります。具体的には、フロントとレストラン業務の兼任体制や、事務業務のデジタル化による効率化などが挙げられます。また、調理工程をセントラルキッチンに集約することも計画中です。こうした施策により、現場の従業員が目の前のお客様へのパフォーマンス最大化に集中できる環境を整えていきます。

一方、社員のマインド面については、掲げている企業理念を判断基準にしてほしいと考えています。企業理念は3つ掲げていますが、その根底にあるのは「人に温かい企業をつくる」ということです。お客様はもちろん、取引先や仲間に対しても温かい心で接してほしい。
何でも話せる風通しの良い環境をつくり、一人ひとりの声が反映される会社であり続けること。それが、個々の成長と会社の成長を直結させると信じています。

編集後記

父親の事業の失敗という逆境から始まった小林氏の挑戦。その原動力は、業界の常識を疑い、進化を止めない強い意志と「人」を何よりも大切にする温かさにある。「できない理由はいらない」という厳しさと、「第二の我が家」を目指す優しさが同居する独自の経営スタイルは、閉塞感が漂う現代において、多くの若手経営者やリーダーにとって大きな示唆となるだろう。8年後の引退を見据え、次世代の育成に情熱を燃やす同氏の挑戦は、これからも続く。

小林英樹/1974年北海道富良野市生まれ。ホテルや旅館の再生事業に従事した後、2003年に有限会社北倶楽部を設立し、本格的にホテル経営に携わる。2009年に北海道ホテル&リゾート株式会社へと社名を変更し、事業を拡大。その後、2019年に株式会社アスクゲート、アンビックス株式会社との3社共同で株式会社AAHグループを設立し、同社社長に就任。