※本ページ内の情報は2025年3月時点のものです。

熾烈な競争が続くラーメン業界で、創業以来「革新的で上質なラーメン」を追求してきた株式会社麺屋武蔵。その挑戦はラーメンの可能性を広げ、業界に新たな価値を生み出している。都内14店舗に加え世界8か国で展開し、店舗ごとに異なる味わいを提供することで、独自のブランドを確立する同社。今回は代表取締役社長の矢都木二郎氏に、ラーメン業界での挑戦や経営哲学、今後の展望についてお話をうかがった。

つけ麺との出会いが決めた人生の選択

ーー起業のきっかけと社長になるまでの経緯を教えてください。

矢都木二郎:
大学時代に初めてつけ麺を食べた時の感動が、ラーメン業界を目指すきっかけになりました。当時、私は年間100回以上通うほどお気に入りのつけ麺店があり、その魅力にどっぷりとハマったのです。

「つけ麺は可能性を秘めた商品だ」と感じていたものの、学生である自分にはその可能性を追求する手段はありませんでした。親の期待もあり、大学卒業後は一般企業に就職したのですが、どうしてもラーメン店を経営したいという思いは消えず、2年弱で退職して修行の道へ進む決意をしたのです。

ーー麺屋武蔵での修行はいかがでしたか?

矢都木二郎:
修行は想像以上に厳しいものでしたが、当然のことだと思っていました。辛いと感じることも多かったですが、「自分の店を持つ」という目標に向け、必死に学びましたね。特に印象的だったのは、麺屋武蔵が「味だけでなく、接客や店内環境にも重きを置く」という考え方を大切にしていたことです。単なる商品至上主義ではなく、「お客様に喜んでいただける総合的な体験を提供する姿勢」が、私の経営哲学の基盤となっています。

ーー社長に就任されてからのエピソードをお聞かせください。

矢都木二郎:
就任初年度に店舗が火災に見舞われたことは忘れられません。当初は混乱と不安でいっぱいでしたが、保険補償を活用して店舗を再建しました。結果的に店内を刷新でき、さらに良い形で営業を再開できたのですが、当時は本当に苦労しましたね。

選挙制度が支える信頼の経営

ーー貴社の事業の強みについて教えてください。

矢都木二郎:
麺屋武蔵の最大の特徴は、「全店舗で異なる味を提供する」ことです。このスタイルは、修行時代に私自身が店主として挑戦したことが原点となっています。初めて任された店舗で、商品やメニューを自由に決めさせてもらい、自分なりのブランドを展開できた経験が非常に大きな財産になりました。現在では、それぞれの店主が個性を発揮しながら、オリジナリティの強いラーメンを提供しています。

ーー貴社の店舗運営にはどのような特徴がありますか?

矢都木二郎:
大きな特徴は、「店主の選挙制度」です。店舗運営の要となる責任者や店主の選定は、弊社独自の方法で行っています。弊社では、新店舗の責任者選定や既存店舗での店主交代が必要な場合、スタッフやアルバイトが投票で店主を選ぶという方法をとっているのです。この仕組みは、現場で築かれた信頼関係を反映したものです。単なる上意下達の人事とは一線を画しているため、選ばれた店主は、納得感と責任感を持って店舗運営にあたることができます。

ラーメン屋の枠を超える新たな挑戦

ーー採用やスタッフ育成で力を入れていることは何ですか?

矢都木二郎:
私たちは、高校新卒採用を特に重視しています。なぜなら、高校生の時点からラーメン業界の魅力を直接伝え、長期的に成長を見守る体制を築けると考えているからです。また、調理科のある高校と連携し、学生にラーメンづくりを体験してもらう授業も実施しています。この取り組みの結果、卒業生が後輩を紹介してくれるようになり、良い循環が生まれていますね。また、社員紹介制度も活用し、社内の信頼関係を基盤にした人材確保を進めています。

働き方についても、スタッフ一人ひとりが自分のペースで成長できるように選択肢を広げています。たとえば、「ワンオペレーション」で運営できる小規模店舗の開発を進めることで、マネジメントに苦手意識を持つスタッフでも、自分の強みを活かせる環境を提供したいと考えているのです。

ーー今後の展望について教えてください。

矢都木二郎:
店舗運営の柔軟性と多様性をさらに追求するため、少人数で運営可能なモデルや、ラーメン以外の新たな飲食業態への挑戦も視野に入れています。また、ブランドとしての認知度をさらに高めることで、国内は都内限定の14店舗にとどめながらも、全国的な知名度を持つ存在を目指します。「東京に行ったら麺屋武蔵」というブランドイメージを確立することが目標です。

また、店舗拡大についても慎重に進めています。現在は14店舗を運営していますが、数の追求ではなく、ブランド価値の維持と成長の両立を重視しています。「ここでしか食べられない」という特別感を守り、都内に限定した展開を続ける方針です。

さらに、スタッフがそれぞれの個性と能力を最大限に活かせる職場環境を整えることも重要だと考えています。選挙制度を活用した公平な評価体制や、風通しの良い職場づくりを通じて、業界全体の地位向上にも貢献していきたいですね。

ーー最後に、これからの業界を担う読者の皆様にメッセージをお願いします。

矢都木二郎:
ラーメン業界は、飲食業界の中でも特に多様なスキルが求められる業態です。商品開発、接客、店舗運営、すべての工程に大切な要素が詰まっています。そのため、この業界で得られる経験は、他のどんな業界でも活かせる貴重な財産になるでしょう。

「興味はあるけれど不安だ」という方も、ぜひ一歩踏み出してみてください。ラーメンを通じて、たくさんの学びと挑戦が待っています。私たちと一緒に、新しい価値を生み出していきましょう。

編集後記

麺屋武蔵が「革新」と「上質」を追求する姿勢の背景には、常にお客様やスタッフの声に真摯に耳を傾ける経営哲学が息づいていると感じた。特に、全店舗が異なる味を提供し、店主の個性を尊重する運営方針や、次世代の成長を支える人材育成の仕組みには、矢都木社長の信念が反映されている。ラーメンの枠を超えた未来のビジョンや、業界全体の発展を視野に入れた挑戦を続ける麺屋武蔵。多くのファンを魅了し続けるその歩みにこれからも注目していきたい。

矢都木二郎/1976年生まれ。創業者・山田雄のイズムを継承し「革新的で上質」なラーメン店づくりを目指す。業界の新しい取り組みとして、コラボレーション商品を数多く提案。大手企業から自治体や生産者まで、幅広くコラボレートして多くの革新的なラーメンを生み出す。ラーメンの創作活動の傍ら、経営者として業界の職種的地位向上に尽力。職場環境、待遇の積極的改善を積極的に行っている。