
リアルタイム映像解析AIと交通制御AIを駆使し、交通誘導警備のDXを推進するKB-eye株式会社。同社は、警備業界が直面する深刻な人手不足や労働災害といった社会課題に対し、テクノロジーで解決策を提示する先駆者である。警備現場を20年間知り尽くす秋山一也氏と、IT・AI領域で豊富な経営経験を持つ橘田孝一氏。異なる強みを持つ二人の共同創業者が、二人三脚で業界の常識を覆し、未来のインフラを支える新たなスタンダードを創造しようとしている。彼らが見据える「スマートトラフィックネットワーク社会」とは何か。その原点と経営理念に迫った。
警備業を「憧れの仕事」へ AI交通誘導が拓くインフラの未来
ーー創業の背景には、どのような経緯があったのでしょうか。
秋山一也:
創業の原点には、警備業界が抱える深刻な課題がありました。開発を始めた2017年頃から人材不足が顕著になる一方で、インフラ整備や災害復旧などの需要はなくなりません。この需給ギャップに加え、現場は常に危険と隣り合わせでありながら、その社会的価値が正当に評価されていないという悔しさもありました。「そろそろちゃんとした仕事に就きたい」と言って辞めていく社員もいたほどです。
この状況を打破し、持続可能なインフラ社会を実現するためには、人の力だけに頼るのではなく、テクノロジーの活用が不可欠だと考えました。AIシステムを導入することで、過酷な労働環境を改善し、交通誘導を誰もが「かっこいい」と憧れる専門性の高い仕事へと変革したいのです。そうして、働く人々が誇りを持てる環境をつくり出すことが、私たちの使命だと考えています。
ーー貴社のAIシステムは、社会にどのような価値を提供していますか。
秋山一也:
弊社のシステムは、人をAIに置き換えることで、まず物理的な安全を確保することを目指しています。車両が作業帯に進入するような事故のリスクそのものをなくせると考えているのです。また、誘導員不足によって工事が開始できない事態は、すでに全国で起き始めています。たとえ国が予算を計上しても、現場が動かなければ意味をなしません。
弊社の技術は、この「担い手不足」というボトルネックを解消し、社会インフラの維持に直接的な貢献を果たすことが可能です。国土交通省もテクノロジーで人手不足を補う方針を掲げており、弊社の取り組みは国の課題解決にも合致するといえるでしょう。将来的にはすべての道の工事をAIで担える世界を見据え、安全で持続可能な社会の実現へ向けて邁進します。
机上の空論を排し現場で7年磨き上げた警備システムの全貌

ーー共同創業者である橘田氏との出会いの経緯を教えてください。
秋山一也:
橘田とは、地元の経営者が集まる勉強会で知り合いました。同じ山梨にこんなに優秀な人間がいるのかと驚いたのが第一印象です。当時、私が抱えていた業界の課題を解決できないかと相談したところ、「私がやりましょうか」と二つ返事で引き受けてくれました。橘田の人間性はもちろん、開発能力が非常に高く、彼をこの業界に引き込めたのは幸運だったと思っています。二人で最新技術の展示会に足を運び、「これなら自分ならもっとすごいものがつくれる」という橘田の言葉を聞いて、共に開発を始めることを決意しました。
ーーどのような経緯で、この事業に本格的に参画されたのでしょうか。
橘田孝一:
最初は秋山に誘われたという外発的な動機からでした。しかし、事業を進めるには現場を知り、業界を学ばなければなりません。実際に現場に入ってみると、課題の多さや根深さを痛感し、これは自分が解決すべき課題なのだと内発的な動機へと変わっていきました。
もともとAIを用いたWebマーケティングなど、デスクワーク中心の仕事をしていましたから、外で働くことに抵抗がなかったわけではありません。ですが、改めて「世の中の価値をつくる原点は現場にある」と気づかされました。あらゆる経済活動や課題解決の起点には必ず現場が存在します。この経験は、私にとって非常に大きな学びとなりました。
ーー貴社のシステムならではの強みはどこにあるとお考えですか。
秋山一也:
最大の強みは、ITベンダーとしてではなく、警備業側の視点から、徹底的に現場でシステムをつくり込んだことです。開発担当者も400件以上の現場に入り、7年という歳月をかけて開発を進めてきました。常に現場の声を反映させ、実際に働く人々が本当に必要とする機能は何かを追求したからこそ、他社には真似できない、ニーズを的確に捉えたシステムが完成したのです。机上の空論ではない、現場主義で蓄積したデータと、それに基づく独自のアルゴリズム、そして特許技術が私たちの優位性の源泉となっています。
自己実現とAI警備の力でスマートトラフィック社会を築く

ーー経営において、どのような考えを大切にされていますか。
橘田孝一:
最も大切にしているのは「時間」に対する意識です。人生を「残された時間の」カウントダウンと捉えれば、仕事をしている時間は、まさに自分の人生そのものを費やしているといえます。だからこそ、その時間を無駄にする行為を排除することが、私の経営判断の基盤となっています。
また、単に「楽しい会社」ではなく、社員が「幸せを感じられる会社」にしたいと考えています。そのために重要となるのが、個人のビジョンと会社の目標を紐付けることに他なりません。合宿などを通じて、自らが「どうありたいか」を言語化し、会社の成長が自己実現につながる設計を共につくることで、真の幸せを追求できる組織を目指しています。
こうした環境の中で社員に期待しているのは、自分の才能を私物化しないという姿勢です。人が持つ能力や経験は周囲の環境があってこそ与えられたものです。与えられた才能は仲間や社会のために役立てるべきだと考えています。自分の力を人のために役立てるという思いを共有し、共に歩める組織でありたいと願っています。
ーー事業を通じて、どのような社会を実現したいとお考えですか。
秋山一也:
私たちの最終的な目標は、「スマートトラフィックネットワーク社会」の創造です。現在は個別の工事現場単位でシステムを提供していますが、将来的にはこれらがすべて連動し、街全体の交通量を最適化するような、安全をコントロールするプラットフォーマーになることを目指しています。個々の現場の安全を守ることから始め、いずれは都市全体の交通インフラを支える存在になりたいと考えています。
ーー今後の展望についてお聞かせください。
橘田孝一:
現在は全国展開を加速させており、将来的には海外への進出も視野に入れています。私たちが「KB-eye」と呼ぶ、AIを活用した安全な警備の概念そのものを業界のスタンダードとして浸透させたいと考えています。ユニフォームや誘導方法、機材の管理なども含めてパッケージ化し、業界全体の価値向上につなげるのが目的です。
こうしたビジョンを実現するためにも、自分の大切な人生の時間を投じるに値する仕事だと、価値を感じてくれる方と一緒に働きたいと考えています。私たちは社会の大きな課題解決に挑んでいます。ビジョンに共感し、自らが「どうありたいか」を明確に言語化できる人であれば、年齢や経験は問いません。会社の成長と自己実現を重ね合わせられる、エネルギッシュな仲間を求めています。
編集後記
警備業界という労働集約型産業の課題に対し、現場知見とテクノロジーの両輪で挑む同社。その取り組みは単なる業務効率化にとどまらない。働く人の安全と尊厳を守り、社会インフラを持続可能なものに変えようとする強い意志に貫かれている。橘田氏が語る「人生はカウントダウン」という考え方は、同社の経営の根幹をなしている。限られた時間で社会にどう貢献するのか。その問いから生まれる挑戦は、業界の未来だけでなく、個々の働き方にも示唆を与えるものである。

秋山一也/山梨県出身。城西大学卒。警備全般を扱うタスクマスターを約20年経営し、全国交通誘導DX推進協会代表理事ほか多数の要職を兼任。第一線の現場経験に基づく深い業界知見と大きな影響力を持ち、現場目線でのKB-eye開発と社会実装を主導している。
橘田孝一/山梨県出身。青山学院大学卒。予備校講師、マーケティング研究員を経て2003年にWeb企業を創業しM&Aで売却。その後印刷会社のCEOに就任するも解任を経験。2013年にAI企業ホワイトボードを創業。2018年、秋山とAI交通誘導のKB-eyeを共同設立。現場課題とAIの社会実装を推進している。