
建築設備事業を基盤としながら、東京大学との産学連携による最先端の研究開発で環境課題に挑む、株式会社シンコーホールディングス。土壌汚染対策や資源リサイクルなど、建設業界の枠を超えた研究開発をし続けている。この急成長を牽引するのが、代表取締役社長の吉田香太郎氏だ。一介の現場職人からキャリアをスタートさせ、一代でグループを築き上げた同氏の信条は「挑戦と失敗の奨励」だ。社員一人ひとりの可能性を信じ、権限を委譲することで、組織全体の熱量を高めている。同氏に、独自の組織論と、その先に見据える壮大なビジョンについて話を聞いた。
現場職人から経営者へ すべてを自ら手がけたキャリアの原点
ーーこれまでのキャリアについてお聞かせください。
吉田香太郎:
この業界に入ったきっかけは、妻の実家が配管工事の会社を営んでいたことです。当時はまだ汲み取り式トイレから公共下水道への切り替え工事が盛んな時代で、そこで配管の基礎を叩き込まれました。その後、独立して個人事業主となり、約20年間は現場の職人として泥臭くキャリアを積み重ねてきました。この時の現場感覚こそが、今の私の経営判断の根幹となっています。
ーー現場経験の中で、特に大切にされていたことは何でしょうか。
吉田香太郎:
お客様が何を求めているのかを常に考え、確かな技術でそれに応えることです。エンドユーザー様はもちろん、ゼネコンやサブコンなど、仕事にかかわる立場によって求められる正解は異なります。それぞれのニーズを的確に汲み取り、期待を上回る仕事をすることを常に意識してきました。それが信頼となり、次の仕事へつながっていくと信じています。
ーー職人として経験を重ねる中で、仕事への意識はどのように変わっていきましたか。
吉田香太郎:
現場を知るにつれ、「もっと全体を手がけたい」という思いが強くなっていきました。配管工事は、ダクト、保温、電気制御など、様々な専門業者がかかわる建築設備全体の一部分でしかありません。私は、それらの流れをすべて自分たちでコントロールしたいと考えるようになったのです。その結果、施工管理の分野へと事業を拡大し、設備全体をワンストップで請け負える体制を整えていきました。
東京大学と連携した資源リサイクル技術の研究
ーー現在、特に力を入れている分野についてお聞かせください。
吉田香太郎:
最も力を入れているのが研究開発で、特に「環境」を最重要テーマに掲げています。現在、東京大学と連携して、土壌汚染や水質汚染の浄化、資源リサイクル技術の研究を推進中です。具体的には、汚染された土壌や廃棄物から有用な物質を抽出し、新たな資源として再生する技術を研究しています。
この技術が実用化されれば、これまで輸入に頼っていた資源を国内で創出できます。資源の乏しい日本にとって、産業構造に革新をもたらし、国益にかかわる重要な取り組みとなるでしょう。私たちは、日本発の画期的な技術として、世界に発信できるレベルを目指しています。
ーー業界の課題である人手不足や高齢化に対し、どのように取り組まれますか。
吉田香太郎:
まずは、現場作業のユニット化です。これは、現場作業の一部を可能な限り工場で製作してから現場に持ち込む方法です。これにより、現場での作業負担を低減し、工期の短縮を図っています。
さらにその先に見据えているのが、ベテラン職人の「匠の技」のデータ化です。カメラやAI技術を活用して技術を記録し、遠隔地からでも若手へ指導できるシステムを構築中です。年齢や場所にかかわらず、誰もが高いパフォーマンスを発揮できる環境を整える。それが、私たちが目指す建設業の新しい姿です。
失敗を成長の糧にする組織文化の構築

ーー組織を率いる上で大切にされている信条はありますか。
吉田香太郎:
「自分でやってみせる」ということです。東京へ進出し組織が急拡大していた当初は、現場の施工管理だけでなく、総務、経理、労務管理といったバックオフィス業務もすべて私自身で手がけました。トップがあらゆる業務を理解し、その背中を見せているからこそ、社員に基準を示すことができると考えています。
ーー社員の挑戦をどのように後押ししていますか。
吉田香太郎:
「挑戦して失敗しなければ、人は成長しない」というのが私の持論です。ですので、グループ内の各事業会社の役員やリーダーに権限を委譲し、自由な発想でチャレンジさせています。特に若いうちは、小さくまとまらずにどんどん失敗してほしいと願っています。
もちろん、各事業会社で起きる問題の最終的な責任はすべて私にあります。何があってもトップである私がリカバリーする。その覚悟があるからこそ、社員に「思い切りやってこい」と言えるのです。万が一失敗しても、責めることはありません。失敗を隠すほうが後々大きなリスクになるため、本人がそこから学び、すぐに報告できる環境づくりを何より大切にしています。
長期的な活躍を可能にする役職定年の撤廃
ーー働き方や、人事制度について取り組まれていることをお聞かせください。
吉田香太郎:
建設業界の古い常識を一つひとつ見直し、現代に合った働き方を検討しています。たとえばフレックスタイム制の導入もその一つです。現場は朝8時から朝礼があるなど時間的な拘束が厳しいのに対し、内勤者との間で不公平が生じやすいという問題がありました。そこで、現場と内勤の垣根を超え、誰もが納得感を持って働ける公平な環境づくりを進めていくことを目標に、この制度を導入しています。
また、弊社には「役職定年」がありません。弊社は社員の「生涯報酬」での活用を重視しています。意欲と能力があれば、80歳を超えても年俸を下げずに現役で活躍できます。
評価制度も、各事業会社の責任者に裁量を委ねています。画一的な物差しでは、部署ごとの特殊性やメンバー個人の貢献度を正確に測れないからです。そのため、画一的な物差しではなく、個々の成果と努力を正当に評価する仕組みを整えています。
ーー最後に、これからキャリアを考える若者へメッセージをお願いします。
吉田香太郎:
弊社グループは今、急成長の真っ只中にあります。会社が成長しているということは、それだけ新しいポストやチャンスが生まれ続けているということです。
私たちは、単なる建設業ではなく、日本が世界で一目置かれるような、技術や資源を創出することを目指しています。スキルアップしたい、新規事業を立ち上げたい、あるいは世界を変えるような研究に携わりたい。弊社グループには、どんな野心にも応えられる環境があります。
この環境こそが、私たちの強みですが、私たちの挑戦はまだ始まったばかりです。皆さんの活躍の場は無限に広がっています。失敗を恐れず、自らの手で未来を切り拓きたいと願う方にこそ、ぜひ一緒に働きましょう。
編集後記
現場職人としてキャリアをスタートさせ、自らの手でグループを築き上げた吉田氏。その言葉には、実体験に裏打ちされた重みと温かさが宿っている。トップ自らが「失敗の責任は私が取る」と公言することで、グループ社員の挑戦心を解き放ち、組織全体の熱量を高めている。既存の建設業の常識を覆し、東京大学との連携による環境研究という地球規模のテーマに挑むその姿勢は、まさに未来志向そのものだ。その急成長の先には、日本、そして世界の未来を変えるイノベーションが待っているに違いない。

吉田香太郎/1972年3月26日生まれ。1990年4月に有限会社新光設備に入社。1995年5月にシンコー設備を個人事業主として創業し、富山で配管屋としてスタート。自身も配管工として施工にあたる。2014年6月にシンコー・克明工業株式会社の代表取締役社長に就任し、東京に進出。2016年5月に子会社管理を目的とした株式会社シンコーホールディングスを設立し、代表取締役社長に就任。2025年1月、TOKYO PRO Market上場。