
日本初のドッグフードメーカーとして創業し、長年にわたり業界を牽引してきた日本ペットフード株式会社。日本の気候やペットの特性に合わせた研究開発と、自社工場での一貫した製造体制を強みに、高品質な製品を提供し続けている。営業一筋のキャリアを経て代表取締役社長に就任した片山俊次氏は、「会社は社員全員のもの」という信念のもと、ボトムアップによる企業文化醸成や、ペットと暮らす社員を支える独自の福利厚生制度を次々と実現。大阪支店立て直しの経験から得た組織論、そしてペットとその家族、社員、社会の「三方よし」を目指す経営の核心を紐解く。
営業一筋から社長へ 最大の挫折が導いた「組織で戦う」信念
ーーこれまでのキャリアで、特に印象に残っているエピソードをお聞かせください。
片山俊次:
1986年に営業として入社後、名古屋での下積みを経て、1995年の阪神大震災の年に大阪支店へ異動しました。当時まだ震災の影響があり、担当した企業も本部が仮設の状態でしたが、その中でも皆さん真剣に営業されていたのが印象的でした。私自身も、競合メーカーと競り合う中で、企業規模の差はどうにもできない壁でしたが、個人としての評価だけは絶対に負けたくないと、必死に提案を重ねる日々を過ごしました。
2003年に東京支店へ異動し、その後課長代理となった時、大きな壁にぶつかりました。ブランドを守るための安売り禁止という会社の方針を、上司として背中で見せようと愚直に貫いた結果、大規模店舗の売り場から全商品が撤去されるという最大の挫折にぶつかりました。1年粘っても改善できず、自ら担当を降りるという苦渋の決断をしましたが、その後の修復に尽力してくれたのは後輩たちでした。彼らが1年かけて関係を戻してくれた姿を見て、仕事とは個人ではなく「組織」で動かすものなのだと痛感したのです。当時私を助けてくれた2人が、今では部長職として私を支えてくれており、この経験が現在の組織運営の原点となっています。
ーー社長就任に至るまでの経緯についてお聞かせください。
片山俊次:
大きな転機となったのは、2015年に大阪支店の支店長を命じられたことでした。当時の大阪支店は、業績不振が続く厳しい状況でしたが、私に期待して任せていただきました。
私自身が対外的に何か特別な行動をしたという意識は全くありません。意識したのは、当時の部下たちに「成功体験」をいかに積ませるか、という1点でした。支店長になる際に読んだ本に、「できない社員を叱責することは、できる社員の士気まで下げてしまう」と書かれていたのが心に残っていたのです。
そこで、とにかく部下たちの小さな成功を見つけ、それを次につなげることを繰り返しました。すると1年ほどで、社員たちが「こうすればうまくいく」「こうすれば利益が出る」という感覚を掴み、自発的に動くようになりました。彼らが成功体験を糧に積極的に動いてくれた結果、任期3年のうち後半の2年間で黒字化を達成し、社内で優秀賞を2度もいただくことができました。その実績が評価され、2018年に本社の営業本部長となり、その1年後には副社長、さらに3カ月後には社長に就任するという、非常にスピーディーな展開でした。
社員全員が主役 ボトムアップで築く企業文化と3つの使命

ーー社長就任にあたり、どのような組織を目指し、まず何に着手されたのでしょうか。
片山俊次:
私はオーナー家ではなく、ずっと営業一筋でやってきました。だからこそ、自分なりのやり方で何か新しいことができるのではないかと信じ、社長の職を引き受けました。就任が決まったときに「この会社を、社員のための会社にしよう」と強く決意したのです。
そのためにまず取り組んだのが、社員に立候補を募り、日々の業務における判断基準や行動指針となる「クレド」をみんなで作ることでした。ボトムアップで物事を決めることに対して、当時、先輩方からは「本当にまとまるのか」という声もありましたが、「社員のための会社」にするにはボトムアップしかないと信じていました。
すると、当時の社員の約半数が「やりたい」と手を挙げてくれたのです。そうして出来上がったクレドは、「新しいことは宝物」「スピード」「楽しさ」など6つのキーワードで構成され、今でも会議などの場で各々が意識する指針として活用されています。
ーーそうした指針を浸透させるための人材育成や、組織づくりにおいては何を大切にされていますか。
片山俊次:
あらゆる課題を「自分ごと」として捉え、部署の垣根を越えて連携できる意識づくりを重視しています。そのために、営業、工場、本社など異なる部署の同世代が一緒に学ぶ研修制度を整えました。普段の業務では生まれない横のつながりができ、部署を超えた交流も活発になっています。
また、風通しのよい社風の醸成も欠かせません。キャリア採用の社員には「外から見た改善点」を積極的に提案してもらい、経営層と社員が気軽に話せるオフィス環境も整備しました。私自身、足りない部分を社員みんなが助けてくれるのですが、そうした互いに補い合える関係性が、組織の良い雰囲気を作っているのだと思います。
ーー現場での行動指針である「クレド」とは別に、会社全体の方向性を示すビジョンなどはあるのでしょうか。
片山俊次:
クレドが社員の行動指針であるのに対し、企業理念を実践するための羅針盤として、3つの「企業使命」を定めました。これについては、私の考えを率直に伝えたかったので、トップダウンで策定しています。
1つ目は「ペットとその家族の幸せを実現すること」、2つ目は「社員の幸せを実現すること」、そして3つ目が「社会の発展に貢献すること」です。お客様であるペットと飼い主様を幸せにし、その活動を支える社員も幸せになる。そしてその幸せの輪が広がることで、社会全体にも貢献できる。この3つの使命が良い循環を生み出すことが最も大切だと考えており、この実現を経営の柱に据えています。
日本のペットに最適なフードを 創業以来変わらぬものづくりへのこだわり
ーー貴社の事業内容と、業界における独自の強みについてお聞かせください。
片山俊次:
弊社は、日本で初めてドッグフードを製造・販売した会社で、最も長い歴史と研究実績を持っています。創業者が、人間の残飯をペットが食べていた時代に、海外の事例を参考に犬専用フードの必要性に着目したのが始まりです。以来、60年以上にわたってペットフード事業だけに特化し、ペットのことだけを考えて事業を展開してきました。これが私たちの最大の強みだと自負しています。
ーー海外の大手メーカーも多い中で、どのような点で差別化を図っていますか。
片山俊次:
ペットフードの先進国はアメリカですが、乾燥した気候のアメリカと、近年亜熱帯化している日本では、ペットフードに求められる品質が異なります。ペットフードは保存食の一面も持っているため、日本の高温多湿な環境に適した商品開発が不可欠です。私たちは、日本のペットが日本の環境で健やかに暮らせるように、最適な栄養バランスや成分を研究し、商品づくりに活かしています。日本にある会社として、日本に住むペットたちに合った商品を提供し続けたいという思いが強くあります。
ーー研究開発から製造まで、自社で一貫して行っている理由は何でしょうか。
片山俊次:
新規参入の企業の中には自社で研究所を持たないところも多いですが、私たちは創業以来、自社での研究開発にこだわり続けています。近年はペットの室内飼育が主流になり、運動量が減るなど、ライフスタイルも大きく変化しました。そうした時代の変化に対応し、カロリー計算なども含めて細やかに研究を重ね、その時代に合った製品を提供するためには、自社での研究開発が不可欠です。また、製品の9割以上を自社工場で生産しており、研究から製造まで一貫して品質を管理できる体制も強みの一つです。
人とペットが共に幸せな社会へ 独自の福利厚生と社会貢献活動

ーー貴社ならではの福利厚生や、働きやすい環境づくりのための取り組みについてお聞かせください。
片山俊次:
やはりペットフードメーカーとして、ペットと暮らす社員を支える制度には特に力を入れています。たとえば、毎月支給される「ペット扶養手当」や、新たにペットを迎え入れる際に一時金を支給する制度があります。特に保護犬や保護猫を迎える際には、準備金という形で手厚くサポートしています。また、大切なペットが亡くなった際には、有給休暇とは別に「ペット忌引休暇」を取得できる制度も整えました。
加えて、「休み方改革」にも着手しています。2022年時点では6割に満たなかった有給休暇の取得率が、2023年末には77%まで向上しました。また、男性の育児休暇取得率は100%を達成しています。私たちが若いころは育休を取れる時代ではありませんでしたが、今の社員には積極的に取ってほしいと考えています。育休取得が当たり前の世代が将来管理職になれば、さらに休みやすい社風が醸成されていくでしょう。
ーー「企業使命」の3つ目に掲げた社会貢献活動においては、具体的にどのような活動をされていますか。
片山俊次:
ペットと暮らす幸せをより多くの人に実感してもらうため、これからペットを迎える人たちへのアプローチも重要だと考えています。その一環として、2025年11月、弊社の工場がある静岡県に新設された動物愛護センターのネーミングライツ(施設内エリア命名権)を取得しました。保護犬や保護猫が新しい飼い主様と出会う大切な場所を、明るく気持ちの良い空間にするためのお手伝いをさせていただいています。
「食べ継がれる信頼」を未来へ 日本ペットフードが目指す姿
ーー最後に、今後のビジョンと読者の皆様へのメッセージをお願いします。
片山俊次:
将来について壮大なビジョンを掲げるというよりは、先ほどお話しした3つの企業使命、「ペットと家族の幸せ」「社員の幸せ」「社会への貢献」の循環を、地道に、そして着実に回し続けていくことが最も重要だと考えています。どれか一つが達成されても、どこかが疲弊していては意味がありません。この地道な活動を継続していくことで、会社は自ずと成長していくと信じています。
私たちが考えるペットフードの最大の価値は、「おいしく食べ続けて、元気で長生きすること」です。この非常にシンプルな理念のもと、これからもペットたちの生活環境やライフスタイルの変化に合わせて最適な栄養バランスを追求し続けます。そして、ペットとそのご家族の幸せのために、私たちの約束である「食べ継がれる信頼」をお届けしていく所存です。
編集後記
「会社は社員全員のもの」。取材中、片山氏が何度も口にしたこの言葉を、まさに体現しているような社員への深い信頼と愛情が印象的だった。自身の失敗談や弱さも率直に語り、「周りの助けがあってこそ」と繰り返す。その謙虚さと温かさこそが、社員が「この人のために」と自発的に動き、互いに支え合う強い組織の原動力なのだろう。ペットへの愛情はもちろん、働く人々への愛情に満ちた同社の未来が一層期待される取材であった。

片山俊次/1963年京都府京都市生まれ、東京農業大学卒。1986年に日本ペットフード株式会社へ入社以来、営業分野を中心に豊富な経験を積み、2018年3月に常務執行役員営業本部長に就任。2019年3月には取締役副社長、同年5月に代表取締役 社長執行役員へ就任し、現在に至る。