
かつて、業界内で品質の炎上が全国的にも知られたほどの困難なプロジェクトがあった。そんな誰もが避ける過酷な現場で、逃げずに踏みとどまった若者がいた。「ここで投げ出して終わらせてはいけない」。その執念が、後に「隙間産業の個人商店」と自称する独自の強み、そして現場品質管理で培った事例をテーマにした論文執筆での受賞や、全国各地のイベント登壇での複数の最優秀講師受賞を受けるなど、卓越した知見へと昇華した。現在、埼玉県川越市に拠点を置く株式会社タカインフォテクノを率いる代表取締役社長の阿部将永氏は、現場で培った「泥臭い」課題解決力を武器に、地方企業の枠を超えた挑戦を続けている。その原点と、未来への展望をうかがった。
「炎上案件」と呼ばれた現場で芽生えた責任と覚悟
ーーまずは、キャリアのスタートについてお聞かせください。
阿部将永:
正直に言うと、最初からITに対して高い志を持っていたわけではありません。ご縁があってICT業界に飛び込んだことが、私の等身大のスタートとなりました。転機となったのは、あるプロジェクトで「監視オペレーションチーム」のリーダーを任された時です。そこは全国的にも炎上案件と揶揄されるほど困難な現場でした。前任者たちが次々と去っていく過酷な環境でしたが、不思議と辞めようとは思いませんでした。むしろ「ここで投げ出して終わらせてはいけない」という、責任感のような熱いものが腹の底から湧いてきたんです。
ーーそこからどのようにして状況を打開されたのですか。
阿部将永:
とにかくがむしゃらに学ぶことから始めました。マニュアルの用語がわからなければ用語辞典を引き、英語が読めなければイチから学び直す。そうして一つひとつ知識を埋めていきました。並行して、業務改善にも着手し、年間400本もの手順書を作成して標準化を図り、自動化や機械化による効率化を徹底したのです。現場の課題と向き合い続けるうちに、システムエンジニアやコンサルタントの領域にも携わるようになり、気がつけばオペレーターから上流工程まで、ICT業界のあらゆる職種を経験するに至りました。
ーーその経験が、論文の受賞につながったのでしょうか。
阿部将永:
ひたすら現場を立て直していく中で、自分のやっている改善活動を体系化しようと学び始めたのが「ITIL(ITサービスマネジメントの世界標準的な指標)」でした。システムを安定稼働させるための理想的なプロセスを研究し、現場の実践例を論文としてまとめ、学会などで発表するようになったのです。
その結果、品質管理を起点にした論文執筆での受賞や、大規模イベント登壇での複数の優秀講師賞をいただくことができました。現場で泥臭く活路を見出した経験が、図らずも世界標準の理論として認められたことは、大きな自信になりました。
技術より「納得解」 現場を知るリーダーが挑む管理部門の改革
ーー多様な経験は、その後のキャリアにどう活かされましたか。
阿部将永:
私は自分をスペシャリストではなく、「隙間産業の個人商店」のようなジェネラリストだと捉えています。たとえば、システム障害が発生した際、優秀なエンジニアは即座に修正パッチを当てようとします。それは技術的な正解ですが、それだけではお客様の不安は解消されません。お客様が求めているのは、「なぜ防げなかったのか」「再発防止のために何をするのか」という安心感、つまり納得感です。私は現場で数多くの謝罪や交渉を経験してきました。だからこそ、技術的な正解に留まらず、相手の感情や背景まで汲み取った「納得解」を提示できる。それが、私の最大の強みだと考えています。
ーー自社の経営に携わるようになった転機についてお聞かせください。
阿部将永:
現場の最前線で「サービス品質全国トップレベルのチーム」という一つの頂点を極め、やり切ったと感じた時、ふと自社を振り返ってある違和感を抱いたことが転機でした。当時、私たちのチームは困難な現場で成果を出し続けていましたが、ふと「自分たちは現場で血を流して戦っているのに、会社からの補給物資(組織的なサポート)が届いていないのではないか」と感じたのです。
「現場が稼ぎ、管理部門はコストである」という考え方もありますが、現場を知るからこそ私は逆だと確信しました。組織が健全に成長するためには、心臓部である管理機能が強くなければ、現場という筋肉に血液が行き渡りません。そこで2014年頃、私は現場から本社へと役割を移し、まずは先行投資としてバックオフィスの強化に着手しました。プロフェッショナルな人材を採用し、現場が迷いなく戦える強固な組織基盤を作る。それが経営者としての私の最初の挑戦でした。
川越発のスマートシティ構想 夢を「面白い」と信じ共に走る仲間へ

ーー社長として、現在はどのようなビジョンを掲げていますか。
阿部将永:
一つは、これまでの知見を活かし、地元・川越を舞台にした「スマートシティ」の実現です。単にITを導入するだけでなく、行政や商工会議所、観光協会、そして地元のスポーツチームとも連携し、街全体の利便性と幸福度を高めるエコシステムを作りたい。地方都市が抱える課題に対し、ICTを駆使して「川越モデル」という成功例を確立する。それを全国へ、さらにはグローバルへと展開していく。これが、私が描く「川越から世界へ」というビジョンです。
もう一つは、「仲間の幸福」です。若手のエンジニアだけでなく、たとえば引退後のアスリートがICT業界で活躍する「セカンドキャリア」の仕組み作りなど、多様な人材が仕事を通じて人生を豊かにできる土壌を整えたい。現場を誰よりも知る私だからこそ作れる「隙間産業の個人商店」ならではの強固な組織を、次の世代に繋いでいきたいと考えています。
ーー最後に、求める人物像について教えてください。
阿部将永:
単に従業員数を増やしたいわけではありません。求めているのは、同じベクトルを向いて共に走ってくれる「仲間」です。私の掲げるビジョンを面白いと感じ、仕事を通じて自らの人生も豊かにしていきたいと願う方。技術力もさることながら、誠実さと責任感を持って仕事に向き合える方と共に、まだ誰も見たことがない景色をこのタカインフォテクノで見に行きたいと思っています。
編集後記
「投げ出して終わらせてはいけない」。阿部氏の言葉からは、困難な状況でも決して逃げず、泥臭く活路を見出してきた強烈な自負が感じられた。オペレーターから叩き上げで培った現場感覚と、世界を見据えた経営視点。この二つを併せ持つリーダーが率いる同社は、川越という地から日本の地方創生、そして世界のITシーンに新たな風を吹き込む存在になるだろう。

阿部将永/1977年東京都生まれ。1998年よりICT業界にてキャリアをスタート。数多くのプロジェクトにおいて品質改善に従事し、大規模情報システム開発の現場で深い知見を蓄積する。その経験を活かし、近年は地方創生事業にも積極的に参画。論文執筆や全国規模のイベント・企業向けセミナーへの登壇など、情報発信にも力を入れている。2025年、株式会社タカホールディングスおよび株式会社タカインフォテクノの代表取締役社長に就任。