
株式会社ケーユーホールディングスは、国内外の多様なメーカーを扱うトータルディーラーだ。自動車販売業界のリーディングカンパニーを目指し、新車・中古車事業を幅広く展開している。同社の舵取りを担うのは、代表取締役社長の板東徹行氏。同氏は、いち早くDXに取り組み、さらに、シリコンバレーへの投資を通じて最新の技術トレンドをつかむなど、従来の枠にとどまらない経営手腕を発揮している。「現場を知らないからこそ、できる改革がある」。そう語る板東氏に、組織改革の道のりや独自の経営の考え、これからの自動車ビジネスの勝算について話を聞いた。
予測不能な変化を成長に変え、当たり前を徹底する組織
ーーまずは、貴社に入社された経緯をお聞かせください。
板東徹行:
もともと私は保険会社に勤務しており、自動車販売とは異なる業界でキャリアを歩んでいました。入社のきっかけは、創業者である義父からの誘いです。当時、弊社は国産の中古車販売を中心に急成長していました。その中で「会社をさらに大きくし、多角化を進めたい。力を貸してくれないか」と声をかけられました。その言葉を受け、私は入社を決意したのです。
しかし、大企業からオーナー系の中小企業へ移ったことで、最初は強烈なカルチャーショックを受けました。当時はすでに上場していましたが、実態はまだ家族経営的な側面が色濃く残っていたのです。トップのカリスマ性で引っ張る強さがある反面、組織としての仕組みや制度が整っていない部分に戸惑うことも多々ありました。
入社当時は輸入車ディーラーはまだ2店舗ほどでしたが、そこから無我夢中で事業拡大に取り組みました。まずは現場の運営体制を整え、個人に依存した商売から組織的なビジネスへと昇華させるための「設計図」を描く日々でした。
ーー経営において大切にされている価値観はありますか。
板東徹行:
私の一番好きな言葉は「人間万事塞翁が馬」です。ビジネスの世界では、どれほど緻密で素晴らしい戦略を立てて努力をしても、時代に合わなければうまくいかないことがあります。逆に、一見悪いと思えるトラブルや変化が、結果として良い方向につながることもある。
だからこそ、うまくいかないことがあっても「文句を言っても仕方がない」と割り切ることが重要です。予測不能な変化に一喜一憂して立ち止まるのではなく、与えられた環境の中でいかにベストを尽くすか。再現性を狙って努力し、結果は天命として受け入れる。それが、激動の時代を生き抜く経営者としてのスタンスだと考えています。
ーー社内にはどのようなカルチャーが醸成されていますか。
板東徹行:
私たちが扱うのは高額商品です。そのため、本質を見極める目を持ったお客様が多くいらっしゃいます。小手先のテクニックや、誠実でない対応は通用しません。だますような商売はすぐに見抜かれ、決して長続きしないのです。
だからといって、特別なパフォーマンスをする必要はありません。当たり前のことを、正直に、謙虚に、丁寧にやり続ける。社員一人ひとりが日々の業務でこの姿勢を体現し、お客様からの信頼を積み重ねてくれているからこそ、今の成長があると確信しています。
輸入車と国産車を網羅する独自の事業ポートフォリオ

ーー貴社の事業内容と、特徴についてお聞かせください。
板東徹行:
弊社はホールディングス体制のもと、大きく分けて4つの事業会社を展開しています。1つ目は、創業事業である国産車販売を展開する株式会社ケーユー。2つ目は、現在最大の事業規模を誇る「メルセデス・ベンツ」の正規ディーラー。3つ目は、「BMW」および「MINI」のディーラー。そして4つ目は、「ジープ」「キャデラック」などを扱うディーラーです。
私たちの最大の特徴であり強みは、身近な国産中古車から世界的なトップブランドの輸入車までを幅広く扱っている点にあります。特定のメーカーに依存せず、多角的なポートフォリオを組むことで、独自の「トータルディーラー」としての地位を確立しています。
ーーホールディングス体制を取ることで、どのような相乗効果が生まれているのでしょうか。
板東徹行:
大きなメリットは2点あります。1点目は、情報の管理体制が明確になることです。正規ディーラー事業においては、ブランドごとにお客様のデータベースやシステムを厳格に管理し、完全に分ける必要があります。ホールディングス体制であれば、情報を完全に分けることができ、これにより各メーカー側からの信頼関係を維持しやすくなるのです。
2点目は、グループ内での在庫の有効活用です。たとえば、輸入車ディーラーで国産車の下取りが発生した場合、そのまま外部へ流すのではなく、グループ内の国産車部隊に声をかけます。グループ間で売買して自社の在庫とすれば、中間マージンをカットできます。結果として、グループ全体としての収益性を最大化することができるのです。
また、異なるブランドや事業ポートフォリオを持つことは、特定のメーカーの不振や市場環境の変化に対する強力なリスクヘッジにもなっています。
ーー事業拡大に向けて、直近で取り組まれていることはありますか。
板東徹行:
昨年、株式会社シュテルン西多摩と株式会社シュテルン中央の2社をM&Aしました。弊社の規模で1年に2社の買収というのは大きな決断でした。M&A後の統合プロセスにおいては、急激な変革は避けるようにしています。もちろん権限規定やコンプライアンス周りの整理はすぐに行いますが、基本的には既存のオペレーションや文化を尊重し、時間をかけて同化してもらうのが私の方針です。同じビジネスをしている仲間ですから、上から押し付けるようなやり方で感情的な対立を生んでしまっては意味がありません。お互いの良さを認め合いながら、少しずつ弊社の流儀と融合させていきます。将来的には、このM&Aをきっかけとして、規模の拡大と効率化を目指します。
仕組みの改善で無駄を省き、社員への還元を目指す
ーーコロナ禍において、貴社の経営状況はいかがでしたか。
板東徹行:
業務運営に支障は全くありませんでした。実は世の中でDXについて注目されるより前から、決裁システムの完全電子化を進めていたのです。取り組みのきっかけは、私自身の出張時の経験です。出張から帰社するたびにデスクに積まれた大量の書類を見て、承認作業の効率化が急務だと感じていました。早くから電子化を進めていたおかげで、コロナ禍で出社が制限された際も、滞りなく業務を行えたのです。現在、私の手元で印鑑を押す業務はほぼありません。
また、社外とのやり取りにもLINEなどのチャットツールを活用しています。経理部門でも、データの改ざん防止や業務の属人化を防ぐため、エクセルでのデータ管理を削減しました。計算機として使う分には良いですが、組織として正しいデータを残す仕組みを徹底しています。
ーーDXによってどのような組織を目指していますか。
板東徹行:
DXの真の目的は、単なるペーパーレス化ではありません。管理部門をスリム化し、効率を上げる最大の狙いは、社員の処遇を向上させることにあります。これからの時代、人口減少により労働力は貴重になります。「安く人を使う」という発想では、企業は生き残れません。
DXによって無駄な業務を削ぎ落とし、少人数で高い成果を上げる。そして、浮いたコストを利益として内部留保するだけではなく、成果を出した社員に給与として還元する。高い生産性に見合った高い報酬を支払えるビジネスモデルを構築することが目標です。
国籍を問わない組織づくりと現場を任せる権限委譲
ーー人材の採用、幹部の育成についてのお考えを聞かせてください。
板東徹行:
現在、日本の整備士学校では生徒の約6割が留学生という現状があります。弊社でもメカニックに関しては、新卒の多くが外国籍の方です。彼らと接していて面白いのは、非常にハングリー精神があり、かつ裕福な家庭出身の方も多いという点です。母国に帰って自動車関連の事業を興したいという夢を持つ人もいれば、母国の政情不安から資産を安全な日本に移したいと考えている人もいます。
彼らは単なる労働力の不足を補うための人材ではなく、多様なバックグラウンドと野心を持つ優秀なパートナーです。そうした方々の受け皿となり、国籍を問わず共に働ける環境をつくることが、これからの組織には不可欠です。
また、マネジメントに関しては、現場の延長線上ではないというのが私の持論です。だからこそ、早い段階から権限委譲を進めています。私自身、車を一台も自分で売ったことはありません。現場を知りすぎると、かえってお客様目線や全体最適の視点からずれてしまうことがあるからです。「どう売るか」という戦術は現場のプロに任せ、私は「どういう仕組みをつくれば人が育ち、組織が回るか」という戦略と設計図を描くことに注力してきました。失敗も見越した上で任せ、自分で判断し意思決定させる。この経験こそが、次世代のリーダーを育てると信じています。
シリコンバレーへの投資と未来への展望

ーー今後のビジョンについてお聞かせください。
板東徹行:
自動車販売ビジネスを核としつつ、新たなビジネス領域にも積極的に挑戦していきたいと考えています。その具体的な取り組みの一つが、コーポレートベンチャーキャピタル(※1)としての活動です。
現在、シリコンバレーのベンチャーファンドへ出資しています。私自身も定期的に現地へ足を運び、投資の判断を行っています。最大の目的は、一次情報を得ることです。雑誌やニュースなどの二次情報に頼るのではなく、自ら源流に触れることを重視しています。どのような技術にお金が集まり、産業がどこへ向かうのかを肌で感じるためです。
弊社のリソースとマッチする機会があれば、自動車販売以外のビジネスであっても、M&Aなどを通じて参入する計画です。常に世の中の動きを敏感に察知し、次なる成長の種をまき続けます。
(※1)コーポレートベンチャーキャピタル:事業会社が自社の自己資金を用いて、主に未上場のスタートアップ企業へ出資・支援する投資活動。
ーー自動車業界のトレンドをどのように捉えていますか。
板東徹行:
先日、世界最大級の家電・テクノロジー見本市である「CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)」へ視察に行きましたが、トレンドはEV一辺倒から、AIやロボティクスへと移り変わっています。私が確信しているのは、規制で押し付けられたイノベーションではなく、ユーザーにとって真にメリットのあるユーザーフレンドリーな技術だけが市場に残るということです。たとえば、自動運転技術による「事故の減少」や「運転ストレスの軽減」は、間違いなく求められる進化です。しかし、使い勝手の悪い技術や、単なる規制対応のための商品は淘汰されるでしょう。
国内市場は縮小傾向にありますが、移動手段としての車の優位性と利便性は変わりません。変化を恐れず、しかし流行に流されすぎず、お客様に選ばれるサービスを追求していきます。
ーー最後に若い人に向けてメッセージをお願いします。
板東徹行:
今の若い人については、僕らの世代よりもはるかに優秀だと思っています。テクノロジーは進化し、生産性も上がっていますから、自信を持ってチャレンジしてほしいですね。
時代は常に変わります。今は下積みのように感じるかもしれませんが、自分たちがいつか主役になれる時は必ず来ます。その時を見据えてベーシックな知識を蓄えるための勉強をし、自信を持って進んでほしい。弊社も、業界再編が進む中でその核となるべく、成長を続けていきます。変化の激しい時代を楽しみながら、共に挑戦できる方との出会いを楽しみにしています。
編集後記
創業者の義父から誘いを受け、異業界から同社へ入社した板東氏。「現場を知らない」という声を逆手に取り、客観的な視点で組織改革を実行してきた。「人間万事塞翁が馬」という言葉の通り、予期せぬ変化も受け入れながら、着実に前進する姿勢が印象的だった。シリコンバレーへの投資で未来の種をまきつつ、足元では「謙虚に、丁寧に」という商売の原点を徹底する。そのバランス感覚こそが、同社の強さの源泉なのだろう。高級車マーケットへの注力と、生産性の向上を通じて社員への還元を目指す同社の、これからの飛躍が楽しみだ。

板東徹行/1962年徳島県生まれ。慶応義塾大学商学部卒、アメリカン大学経営大学院修了。株式会社ジャックス、興亜火災海上保険株式会社(現・損害保険ジャパン株式会社)を経て、2003年1月株式会社ケーユー(現・株式会社ケーユーホールディングス)に入社し、専務執行役員、2004年6月副社長執行役員、2021年12月代表取締役社長に就任。