
1年間でビジネス英語を習得する英語コーチングプログラム「TORAIZ(トライズ)」を運営する、トライズ株式会社。受講生一人ひとりの課題や目標に徹底的に寄り添う“個別最適化”を最大の強みとし、多忙なビジネスパーソンから本気で英語を話したいと願う多くの人々の支持を集めている。同社を率いる代表取締役社長の三木雄信氏は、かつてソフトバンク株式会社で孫正義氏の社長室長を務めた経歴の持ち主だ。その経験は、どのようにして現在の事業に結実したのか。AIの台頭で英語業界が激変する中、同社が目指す“本当に話せるようになる教育”の本質と、世界で戦う日本人を支えるインフラとしての未来像に迫る。
孫正義氏の側近としての原体験と独立への決断
ーーこれまでのご経歴についてお聞かせいただけますか。
三木雄信:
実家は九州で建設業を営んでおり、周囲に中小企業の経営者が多かったため、幼い頃から漠然と「将来は社長になりたい」と考えていました。ただ、家業を継ぐかどうかまでは定まっていなかったため、大学卒業後は建設業の上流工程を担うデベロッパーの仕事に魅力を感じ、三菱地所株式会社に入社しました。
当時はまだ、インターネット黎明期でした。私はデベロッパーとして街づくりにかかわりながら、社内で初めてパワーポイントを使ったプレゼンを行ったり、ウェブサイトの立ち上げを主導したりと、新しいテクノロジーの活用に没頭しました。歴史ある大企業でありながら、若手の挑戦を受け入れてくれる環境で経験を積めたことは、その後のキャリアにおける大きな財産となっています。
ーーその後、独立されるまではどのようなキャリアを歩まれたのですか。
三木雄信:
25歳の時にソフトバンクへの転職を決意しました。三菱地所は素晴らしい会社でしたが、取締役になるには30年かかる世界であり、私はもっと早く経営に携わりたかったのです。また、大学時代から孫正義氏の弟である孫泰蔵氏が設立したインディゴ株式会社で取締役を務め、「Yahoo! JAPAN」の立ち上げを手伝った経験から、インターネットの可能性を強く感じていたことも後押しとなりました。
ソフトバンク入社当初は、孫正義社長の「かばん持ち」のような業務から始まりました。どこへでも同行し、指示されたことは、どんなことでもやり切る姿勢で取り組んでいました。その後は社長室長として、当時はまだ小規模だった本社機能の採用統括や、二人三脚での資金繰り表の作成など、ベンチャーさながらの濃密な3年間を過ごしました。そうして、様々な経験をした後、2006年に独立したという経緯になります。
ーー独立後は、どのような事業からスタートされたのでしょうか。
三木雄信:
当初は現在のような英語コーチングではなく、学習ポータル事業を手掛けていました。しかし、いつでも安価に学習できるサービスは、明確な目標がないと学習が続かない日本人の特性に合わず、10年もの間、苦戦を強いられていました。
転機となったのは、3000ある講座の中でエクセルと英語が人気を博していたことです。特に英語は、多くの人が「勉強しても話せるようにならず困っている」という実情があったのです。私自身も、孫社長の海外出張に同行した際に英語が話せず大恥をかき、1年間本気で勉強して習得した経験があります。この原体験と事業での気づきから、2015年に英語コーチング事業へ集中することを決めました。
なぜ1年で話せるのか TORAIZが貫く個別最適化の本質

ーー「TORAIZ」の特徴やその強みについて、教えていただけますか。
三木雄信:
最大の特徴は、徹底した“個別最適化”ができる点にあります。多くのサービスが既存のアプリや決まった教材を画一的に提供する“吊るしのスーツ”だとすれば、私たちは受講生一人ひとりのレベルや目標、職業に合わせて教材を選び、学習計画を立てる“オーダーメイド”を提供しています。たとえば、獣医の方であれば、獣医学に特化した専門教材を提案するといった具合です。
また、コンサルタントとネイティブコーチで明確に役割を分けている点も大きな特徴です。学習計画の立案や進捗管理をネイティブコーチが行うには受講生に相応の英語力が求められますが、それでは初心者の方が参加できません。そこで、学習設計やメンタル面のサポートは、同じように苦労して英語を習得した日本人コンサルタントが担い、実践的な会話トレーニングはネイティブコーチが担当する。この最適な役割分担こそが、他社にはない私たちの提供価値です。
ーー受講生の継続率を高く保つためにどのようなことに注力されているのでしょうか。
三木雄信:
質の高いレッスンの提供と、挫折させないサポート体制を設けています。「TORAIZ」の受講生は学習意欲が高いため、コーチも熱意を持って指導にあたることができます。その結果、コーチの離職率が低く抑えられ、質の高いレッスンを安定して提供できるのです。また、万が一学習が滞ってもコンサルタントが時間管理や負荷調整を行い、目標達成まで伴走します。この両輪が、継続率の高さにつながっていると考えています。
AI時代に人間が教える価値 法人展開で描く未来
ーー英語学習におけるAI活用について、貴社の取り組みを教えてください。
三木雄信:
聞こえてくる英文を即座に復唱する「シャドーイング」のような反復練習は、隙間時間で手軽にできるAIアプリの方が向いている側面もあります。私たちはそうした技術を積極的に活用し、自社でもアプリを開発しています。しかし、その人に真にマッチした学習法を見極め、モチベーションを維持しながらゴールへと導く「伴走」という領域は、人間にしか担えません。AIと人間、それぞれの得意分野を融合させたハイブリッドな形こそが、これからの時代に最も効果を発揮する教育の在り方だと確信しています。
ーー今後の事業展望について教えてください。
三木雄信:
大きく分けて、法人事業の拡大と学習成果の可視化の2点に注力します。
まず法人事業については、すでに日立製作所様、AGC様、大阪ガス様といった日本を代表するグローバル企業に「TORAIZ」が導入されており、「英語を話せるコア人材」の育成において「TORAIZが一番いい」と高い評価をいただいています。今後はこの実績を基盤に、さらなるサービスの拡充を図る考えです。
具体的には、これまでのエグゼクティブ層向けに加え、若手社員向けに月額数千円から利用できるアプリ「TORAIZ bit(トライズビット)」の提供を開始しました。「TOEICの次はどうすればいいか」と考える層に対し、安価で効果的な学習機会を提供することで、企業の全階層に向けた英語力強化をサポートしていく狙いです。また、中小企業様向けには、Webサイト上で手軽に一括導入ができる仕組みも整備していく予定もあります。
もう一点の「学習成果の可視化」については、異業種やテスト機関との連携強化が挙げられます。例えば、日本経済新聞社やスピーキングテスト「VERSANT(バーサント)」と共同でスコアアップキャンペーンを実施し、成績上位者を紙面で発表するといった取り組みもその一つで、客観的な指標で成長を測るだけでなく、学習者のモチベーションを高める仕掛け作りも進めています。これらを通じて、AIなどのテクノロジーと人の力を融合させた“本当に話せるようになる教育”を追求し、世界で挑戦する日本人の志を支えるインフラとなる存在を目指していきます。
編集後記
ソフトバンクで孫正義氏の側近として事業の最前線を駆け抜けた経験は、一見すると英語教育とは無縁に思える。しかし、ゴールから逆算してタスクを細分化し、PDCA(※)を回すというプロジェクトマネジメントの本質は、トライズの学習メソッドに見事に昇華されている。AIが進化するほど、個人の目標に寄り添い、その人だけの道を照らす「人間」の価値は増していく。同社が目指すのは、世界で戦う日本人を支えるインフラである。三木氏が描く未来は、日本の国際競争力を高める大きな一歩となるだろう。
(※)PDCA:Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)の4段階を繰り返し、業務を継続的に改善する手法。

三木雄信/1972年生まれ。東京大学経済学部卒業後、三菱地所を経てソフトバンク入社。孫正義氏のもとでブロードバンド事業等のプロジェクトマネージャーとして活躍し、「時間術」の土台を構築。2006年に独立し、トライズ株式会社を設立。2015年より英語コーチングスクール「TORAIZ」を開始。著書に『孫社長のむちゃぶりをすべて解決してきた すごいPDCA―――終わらない仕事がすっきり片づく超スピード仕事術』など多数。
三木雄信プロフィール、YouTubeチャンネル『三木雄信 ビジネス塾「最速で人生を変えるビジネスチャンネル」』も運営。