
北海道を拠点に、建築板金や断熱工事、鉄骨加工などを手広く手掛ける株式会社イザナ。同社を率いる代表取締役の川原悟氏は、元プロバイクレーサーを目指していたという経歴を持つ。現在は「北海道No.1の施工店」を目指してM&A(※)を推し進める一方、北海道の大自然に自生する「クマイ笹」から抽出した健康茶「笹茶」を手掛けるなど、その活動は多岐に渡る。「屋根で家を守り、食で体を守る」。一見無関係に見える事業をつなぐのは、川原氏独自の「守り」の理念と、自身が理想とする「仙人」としての在り方だった。これまでの歩みと、独自の経営哲学についてお話をうかがった。
(※)M&A:Mergers and Acquisitionsの略。企業の合併・買収のこと。
レーサーの夢から職人へ 「縁」で会社を継ぐ人助けのM&A論
ーーまずは、起業に至る経緯をお聞かせください。
川原悟:
19歳からバイクレースを始め、本気で世界を目指していました。当時は就職氷河期で「自分には何もない」という焦りもあり、必死に打ち込んでいたのです。しかし23歳頃、年齢制限という現実に直面し、世界選手権への道が断たれました。「世界に行けないなら意味がない」と、24歳で引退を決意しました。それまでレース資金を稼ぐためにアルバイトをしていた板金店で、そのまま生きていこうと腹を括ったのです。当時は未練や孤独感、やり場のない悔しさなど、多くの葛藤がありました。しかし、そうした逆境をすべてバネにし、「のし上がってやろう」というハングリー精神こそが、私の原動力となりました。
ーーどのようにして、ここまで事業を広げられたのでしょうか。
川原悟:
実は、最初から戦略的にM&Aを進めたわけではありません。事業拡大のために中古工場を探していた際、廃業予定の会社から建物を譲り受ける話が持ち上がりました。その際「会社ごと引き取ってくれないか」と打診されたことが、結果的に1社目のM&Aとなりました。私はこれを一般的な買収ではなく、縁(En)を大切にするという意味を込め、「縁&縁」と呼んでいます。
ーーその「縁&縁」を実践される中で、特に印象に残っているエピソードはありますか。
川原悟:
印象深いのは2社目の断熱工事会社です。機械の修理を相談しに社長を訪ねた際、突然「余命宣告を受けており、あと1週間で会社を畳まなければならない。従業員と技術を守るために引き取ってほしい」と託されました。地域に一社しかない貴重な技術を絶やしてはならないという使命感、そして頼られたからには応えたいという思いで、その場で引き受けました。私のM&Aは、戦略的な買収というより、人助けや技術保護の側面が強いのです。
屋根で家を 食で体を守る 北海道No.1を目指す職人の挑戦

ーー建設業における今後の展望を教えてください。
川原悟:
目指しているのは「北海道No.1の施工店」です。板金、屋根、塗装、断熱、鉄骨など、それぞれの専門職人を束ね、多才な職人集団を構築したいと考えています。建設業界において職人の地位はまだ十分ではありません。だからこそ、私が「ブルーワーカーのトップ」となり、技術者が輝ける場所を作りたいのです。屋根には「葺く(ふく)」という言葉があり、家を守る重要な役割があります。この「守る」という概念は、健康事業にも通じています。
ーーその他に、注力されている事業はございますか。
川原悟:
「ササ活」という健康事業をスタートさせました。きっかけは、私自身が職人時代に多忙を極め、食生活の乱れから体調を崩したことでした。日本は「食品添加物大国」とも言われる現状があり、添加物を排除し、日本人が本来持っていた健康な体を取り戻したいと考えました。具体的には、自社でクマイ笹を用いた「笹茶」などの製品を開発・提供しており、食の面から皆様の健康をサポートしたいと考えています。
究極の目標は「仙人」 家・体・故郷を守り抜く独自の経営哲学

ーー「ササ活」を通じて、どのような社会を実現したいとお考えですか。
川原悟:
掲げているのは「脱・食品添加物大国ニッポン」という理念です。建設業で「家」という外側を守り、食を通じて「体」という内側を守る。私の中では、どちらも同じ「守り」の仕事なのです。そして、その先にある最終的な目標は、現代の「仙人」になることです。昔話の仙人のように、山に住み、訪ねてきた人に「これを飲むといいよ」と知恵を授けて元気にさせる。ビジネスを通じて、そんな存在を体現したいと考えています。
ーー最後に、今後のビジョンと読者へのメッセージをお願いします。
川原悟:
組織としては「天皇即位制」のような仕組みを目指しています。私がトップに居座るのではなく、次世代へタスキを繋ぎ、永続する仕組みを作りたい。私は故郷である岩見沢に住み続けていますが、それは地方を元気にしたいからです。産業を創出し、雇用を守り、地域に貢献する。過去の逆境も、すべて今のエネルギーになっています。これからも「現代の仙人」として、古き良き日本の精神を守りながら、新しい価値を創造していきます。
編集後記
「スーパーサイヤ人のように、逆境が自分を強くした」。そう語る川原氏の言葉には、数々の困難を乗り越えてきた経営者の凄みが宿っていた。一方で、「仙人になりたい」と語る笑顔には、純粋な志が感じられる。M&Aで地場産業を、食で人々の健康を。一見異なる活動は「故郷と人を守る」という一本の芯で繋がっている。「北海道No.1」と「現代の仙人」。二つの夢を追う川原氏の挑戦を注視したい。

川原悟/1979年生まれ、北海道岩見沢市在住。株式会社イザナ代表取締役。「屋根のナミキ」創業者。地元の高校を卒業後、MotoGPライダーを目指し上京。全日本ロードレース選手権への出場を経て引退。2006年に「屋根のナミキ」を創業。以来、3社のM&A(合併・買収)を成功させ、地元・岩見沢で売上高100億円企業を目指し事業を拡大中。現在は、新ブランド「笹茶」を立ち上げ、「日本を『腸』元気に!」をテーマにヘルスケア分野へも進出。元アスリートの情熱を経営に注ぎ、社会貢献と地域活性化に尽力している。