※本ページ内の情報は2026年3月時点のものです。

茨城県に生まれ、活発な少年時代を過ごした代表取締役の軽部治氏は、大学卒業後、大手ゼネコンの大林組へ入社し、過酷な現場で建設業のリアルを学んだ。その後、父親が創業した三栄工業株式会社へと籍を移した。当時は数名の水道工事会社だったが、同氏の牽引により、管工事から電気・建築工事まで幅広く手がける企業へと成長を遂げている。現在は、建設業界の深刻な人材不足とインフラ老朽化という課題に対し、教育プラットフォーム「建-CUBE」の立ち上げや海外連携などに挑戦中だ。新たな価値を創造し続ける同氏に、これまでの歩みと未来への展望をうかがった。

大手ゼネコンの過酷なトンネル現場で学んだ「建設業の使命」

ーー幼少期から、将来はご実家を継ごうとお考えだったのでしょうか。

軽部治:
当時はそこまで深く考えていませんでした。外で活発に遊ぶ子どもで、高校まではずっと野球に打ち込む毎日。ただ、父親が建設会社を営んでいたこともあり、次第に建築分野への興味が芽生え、大学は自然と建設系の学部を選びました。就職活動では、つくばエクスプレスの工事現場へのインターンに参加し、その経験から、よりダイナミックな環境に身を置きたいと考え、大手ゼネコンを中心に就職活動を行ったのです。そして最初に内定をいただいた株式会社大林組に入社を決めました。

ーー大林組では、どのような現場をご経験されたのでしょうか。

軽部治:
入社後は名古屋支店に配属され、愛知県の山奥で行われるトンネル工事の現場監督に就きました。職人の方々と一緒にプレハブの飯場に住み込む生活。そこは過酷な労働環境であり、大事故と隣り合わせの危険な場所でもありました。しかし当時の所長から「さまざまな境遇にある人たちも雇用し、生活基盤となる社会インフラをつくり上げている。それが建設業の重要な役割なんだ」と教わり、深く感銘を受けました。建設業が担う真の使命を、肌で学んだ体験です。

億単位の現場を待つより小さな組織で「ゼロからつくる」面白さを

ーー実家の貴社へ戻る決断をされたきっかけはありますか。

軽部治:
大林組での仕事は非常にやりがいがありました。しかし、現場のすべてを任され、自分で億単位のプロジェクトを動かせるようになるのは、おそらく50歳を迎える頃。それまでの25年間を待つよりも、規模は小さくとも1から10まで自ら手がけ、経営の全体像を早く学びたいと考えたのです。時を同じくして、実家の会社も人手を必要とする状況にあったため、家業へ入る決意を固めました。

ーー大手から移り、ギャップを感じることはありましたか。

軽部治:
相当なギャップがありました。ゼネコンという発注側の立場から下請けへと変わったことで、厳しい要求を突きつけられる場面も多々ありました。しかし、私はゼロから仕組みをつくり上げていく過程にこそ面白みを感じるタイプで、大手の組織体制を参考にしながら、自分たちに合った制度を整えていく日々は充実していました。何より、大手にいた頃は重圧でいつ笑ったか忘れるほど張り詰めていましたが、実家の会社には、毎日現場や事務所で笑い合い、その日の出来事を語り合える温かさがありました。これが中小企業ならではの良さであり、可能性だと感じています。

ーー現在は、どのくらい事業の幅を広げていらっしゃるのでしょうか。

軽部治:
私が戻った当時は、特定のお客様からの水道工事が売上の大半を占める状態でした。そこから新規開拓に奔走し、JRの関連企業や上場ゼネコン、大手デベロッパーなど多様な取引先を開拓。事業領域も、管工事だけでなく電気工事や建築工事へと拡大しました。単なる下請けではなく、自社で設計図を引き直し、よりよい施工方法を提案する技術力が私たちの強みです。現在は管工事が7割、電気工事が2割、建築工事が1割という構成比に成長し、病院や学校の元請け工事も担うまでに至っています。

業界の未来を救う「建-CUBE」とグローバルな人材育成

ーー「建-CUBE」の構想や狙いについて教えていただけますか。

軽部治:
建設業界では長らく「職人の技術は見て盗むもの」という徒弟的な文化が根強く、若手の人材育成が追いついていない深刻な課題があります。このままでは水道管などのインフラ老朽化に対応できず、日本の社会基盤を維持できません。そこで、誰もが動画で体系的に技術を学べるプラットフォーム「建-CUBE」を立ち上げました。来年には廃校を活用し、職人が実地研修を行える施設もオープンする予定です。自社の社員だけでなく、他社の職人や未経験者も広く受け入れ、業界全体の技術力底上げに貢献したいと考えています。

ーー将来的には海外展開も見据えていらっしゃるのでしょうか。

軽部治:
はい。建設業界の人材不足は、日本だけの問題に留まりません。近々、ベトナムにある現地の教育機関へ赴き、日本の確かな技術を学べる動画コンテンツを無償提供する予定です。また、アメリカからのインターン生受け入れも計画しています。多様な国籍の人々と連携し、グローバルな視点から建設業の課題解決に挑んでいきます。

壮大な夢を共有し共に社会課題に挑む仲間を

ーー最後に、これからどんな人材と一緒に働きたいとお考えですか。

軽部治:
大きな夢を持っている人ですね。「社会課題を解決したい」「経済的に豊かになりたい」など、入り口の動機は何でも構いません。重要なのは、自分一人の利益に留まらず、周囲を巻き込んで幸せの輪を広げていけること。そんな影響力を持った人物へと成長したい方を求めています。最近では、こうした私たちの姿勢に共感し、意欲的な大卒者も入社してくれるようになりました。現在のスキルの有無よりも、熱い思いを胸に、私たちと共に挑戦を楽しめる方をお待ちしています。

編集後記

大企業での大規模プロジェクトから、泥臭い現場の最前線までを知る軽部治の言葉には、確かな説得力と温かみがあった。特に印象深いのは、厳しい環境下でも「笑い合える環境」を重んじ、自社の利益を超えて業界全体、ひいては日本のインフラを守ろうとする圧倒的な当事者意識である。オンラインでの動画教育にとどまらず、今後は廃校を活用する「建-CUBE」の展開や海外連携など、次々と新たな一手を打つ同社。変革期にある建設業界において、同社がどのような新風を巻き起こすのか、今後の飛躍が楽しみだ。

軽部治/1984年茨城県生まれ。宇都宮大学卒業。2007年に株式会社大林組に入社し、3年の修業期間を経て、2009年に家業の三栄工業株式会社に入社。2012年に同社代表取締役に就任。建設業界の教育・AIの普及の活動にも注力している。