
飲食チェーンを経営する株式会社神戸ゴマルゴは、空港や駅、商業施設など人通りの多い立地を主戦場とし、うどん・そば・広島焼き・カフェ・吉野家FCの5業態を展開している。主力ブランドは「つくもうどん」「一の井」などである。2024年2月に二代目社長に就任した加藤大介氏は、創業の精神を継承しながらも、現場での経験に裏打ちされた独自の経営理念を掲げる。サントリー時代に培った「やってみなはれ」の精神と、徹底した現場管理能力は、同氏を支える揺るぎない強みだ。さらに、お客様の些細な変化も見逃さず、最適なサービスを提供する洞察力を磨いてきた。全責任を負う覚悟で経営に挑む加藤氏。その独自の経営戦略と今後の展望に迫る。
現場経験で磨かれた二代目の覚悟と責任
ーー社会人として最初のキャリアについてお聞かせください。
加藤大介:
幼少期から実家の家業である飲食業を手伝っており、接客やアパレルなどにも関心がありました。夏休みなどに実家の手伝いをする中で、店舗の店長を任せてもらう機会があり、店舗運営の大変さとやりがいを実感しました。大学では経営学を専攻し基礎を学びましたが、アルバイト先の個人経営の飲食店で社長と関わる中で、飲食業の面白さに惹かれていきました。卒業後はサントリー株式会社に入社し、約3年間、酒販店や飲食店を訪問する営業職として経験を積みました。
ーーサントリー時代には特にどのようなことを学ばれましたか。
加藤大介:
入社後、配属からわずか4カ月で担当を任されるというスピード感の中で、同期に追いつくため、「まずはお客様が何を求めているのか」を徹底して聞くことから始めました。その過程で、会社が掲げる「やってみなはれ」という精神のもと、失敗を恐れずに挑戦することの大切さを学びました。
また、先輩方からは、社内社外問わず人間関係の重要性を学びました。クレーム対応の際も、お客様の言葉を遮らず、まずはしっかりと受け止め、熟慮した上で返答するという姿勢を徹底しました。この経験は現在の経営にも大きく生きています。
ーー貴社に入社された当時は、どのような仕事から着手されたのでしょうか。
加藤大介:
弊社に入社して最初の約5年間は、羽田・神戸空港店の店舗で勤務しました。忙しい羽田空港店での経験を通じて、お客様の仕草からご要望を察知する力を身につけました。
その後のデベロッパー様との打ち合わせを重ねる中で、徹底した管理能力と文書作成力が鍛えられました。報告書を時系列でまとめ、原因分析から改善策までを報告するなど、書類の書き方について細やかな指導を受け、まさに「生きた学び」となりました。
ーー代表取締役に就任された際、最も重く感じられた責任についてお聞かせください。
加藤大介:
もともと会長からは4〜5年前から就任について打診を受けていたため、心構えはありました。しかし、実際に代表へ就任してみると、一番手と二番手では責任の重さが違うことを強く認識しました。特に銀行からの借入に関する判断など、会社の全責任がすべて私にあることを強く意識するようになりました。そして社員さん、パートさん、アルバイトさんとその家族を全て自分が守るという覚悟が必要だと感じました。
毎年、全社員に対し、自身の経営方針をまとめた「事業発展計画書」を作成・共有しています。それは、二代目である私は、創業者の魅力で引っ張る会長とは異なる方法で、会社の方向性を明確に示し続ける責任があると考えているからです。
五感を刺激し期待感を高める店舗設計とメディア戦略

ーー貴社の主力ブランドについて、それぞれのコンセプトや特徴をおうかがいできますか。
加藤大介:
弊社は蕎麦・うどん店を中心に展開しています。特に今後伸ばしていきたいのは「一の井」ブランドで、乱切り蕎麦とオリジナルのつゆが特徴の肉そばがメインです。店名の「一の井」は、一番だしの「一」と、水から湧き出すというイメージを込めた「井」(湧き出す「糸」の意)に由来し、店頭には常に蕎麦を茹でる水が湧き出す湯釜を設置しています。
また、「つくもうどん」は、鰹だしが多いとされるうどんの中で、長崎・九十九島産など産地を特定したいりこだしで差別化を図っています。吉野家のFC店舗でも、国際線ターミナルに合わせて国産和牛の牛丼やソフトクリームを販売するなど、立地特性に合わせた商品アレンジを本部と交渉し、実施しています。
ーー特に注力されている取り組みについてお聞かせください。
加藤大介:
やはり最も大事なのは、「わざわざ食べに行きたい」と思っていただけるように、商品力を磨くことです。その上で、五感に訴える店舗設計として、客席に向かう動線上で必ず厨房が視認できる設計を採用しています。これは、お客様が視覚、嗅覚、聴覚で料理への期待感を高めるための工夫です。
また、新規オープン時には、オープン前にメディア向けのリリースを新聞社やニュースサイトへ一斉に配信するメディア戦略に積極的に取り組んでいます。さらに、若手クリエイターとのコラボレーションや、高校生との商品開発など、ユニークな企画を仕掛け、メディアの方に注目してもらえるような話題づくりにも注力しています。
ーー提供スピードを求められる立地において、品質との両立で工夫されている点はありますか。
加藤大介:
まず第一に、「食の安全」を徹底しています。毎月、社内で環境整備として衛生管理を点数化し、現場へフィードバックすることで定量的に評価する仕組みを導入しています。そして、空港や駅の店舗はリピーターのお客様が多いからこそ、「美味しいものを提供する」という品質追求も欠かせません。社員に対し、盛り付けやご飯・蕎麦の量の確認、そして熱いものは熱く、冷たいものは冷たく提供するといった基本を徹底し、常に一定以上の品質を保つよう伝えています。

従業員の価値観共有と能動的な育成計画
ーー経営における最も重要な課題についてお聞かせください。
加藤大介:
現在の課題は従業員の育成です。価値観の共有や、接客マインドの浸透に注力しており、外部研修や個別面談を重視して、社員のキャリアパスや成長度合いをフィードバックしています。最終的に目指すのは、閉店間際に並ぶお客様を「全員ご案内したい」といった判断を自ら行えるスタッフ、つまり、お客様に喜んで頂くために能動的に動ける人材の育成です。
また、クレームが発生した際は謙虚な姿勢で対応することを徹底しています。まずお客様の言葉を遮らずに最後まで聞き、何に対してお怒りやご不満を抱いているのかを正確に把握することを心がけています。
ーー今後の事業の展望について、どのようにお考えでしょうか。
加藤大介:
5年後の売上目標は30億円を目指し、東京や関西を中心とした国内での新規店舗の展開を計画しています。また、労働力不足や世界の潮流を学ぶ場として、東南アジアへの海外展開も視野に入れ、現地の企業と協力しての出店を計画中です。
弊社は、国籍、性別、学歴を問わず、成果を上げれば昇進できる環境があります。現専務は元パート出身、常務は外国籍という経緯があり、努力次第でキャリアを築ける会社です。ぜひ、弊社のこだわりが詰まった店舗に足を運んでいただければ幸いです。
編集後記
サントリー時代の「やってみなはれ」精神と、現場での徹底した経験に裏打ちされた加藤氏の経営の信念は、一つひとつの言葉に確かな説得力があった。特に、お客様の五感に訴える店舗設計や、高校生との商品開発といった、ユニークな視点からの集客戦略には、常に新しい挑戦を続ける社長の姿勢が表れている。創業の精神を軸としつつも、二代目としての責任を深く自覚し、社員一人ひとりの能動的な成長を促す同社の取り組みは、今後の外食産業における一つのモデルケースとなるだろう。

加藤大介/1977年大阪府生まれ。青山学院大学卒業。2002年サントリー株式会社に入社。酒販店や飲食店を訪問する営業を担当。2005年より株式会社ミュープランニングアンドオペレーターズへ出向し、現場での店舗運営や数値管理、デベロッパーとの折衝経験を積む。2007年に株式会社神戸ゴマルゴに入社。2012年常務取締役、2017年専務取締役を歴任し、2024年2月より代表取締役社長に就任。