
株式会社ざくろホールディングスは、1955年創業の老舗日本料理店「ざくろ」の運営会社だ。黒毛和牛のしゃぶしゃぶとすき焼きを提供する「ざくろ」以外に、1人鍋スタイルのしゃぶしゃぶ専門店「しゃぶせん」や、イタリアンレストランの「LA GRANATA(グラナータ)」も展開している。
コロナ禍の経営危機の最中、自ら社長に名乗り出たときの思いや、従業員ファーストの社内改革などについて、代表取締役社長の伊久間哲氏にうかがった。
会社存続のため、自らの意思で経営者になることを決意
ーーまず、入社から社長就任までの経緯をお聞かせください。
伊久間哲:
飲食関係の専門学校に通っていた際、この会社の採用面接を受けました。するとその場で、「すぐにうちで働けないか」と言われたのです。ざくろは名の知れた有名店でしたし、若いうちからチャンスをいただける点に魅力を感じていたため、「明日から働けます」とその場で即答しました。
すぐに入社できるように、専門学校も退学しました。入社してからは営業として店に立ち、様々な店舗で多くの経験を積む中、主任、副支配人、支配人と経歴を重ね、取締役に昇格しました。その間、多くの危機や困難にも直面しました。牛肉のBSE問題(※)やリーマンショックの時は特に大変でしたね。そして、銀座店で取締役支配人として勤めていた時、あの東日本大震災が起きたのです。真っ暗な夜の銀座を初めて見て、これからどうなるのかと不安が募りました。
そうした中、2020年4月には、新型コロナウイルスの影響で休業や営業時間の短縮要請などがあり、会社の経営が危機的状況に陥ります。
すると次第に「何とか会社を存続させたい」という気持ちが募り、自ら社長就任を志願したのです。このときはとにかく、長年お世話になった恩返しをしたいという気持ちが強かったですね。
(※)BSE問題:BSE(牛海綿状脳症)にかかった牛の脳や脊髄などを食べることで人への感染が懸念され、牛肉を買い控える動きが起きるなど社会問題となった。
ーー社長就任後はどのような改革を行ってきたのですか。
伊久間哲:
それまでの典型的なトップダウン型の経営スタイルから脱却し、現場の意見を積極的に取り入れる方針に転換しました。現在は従業員の声に耳を傾け、現場から挙がった意見は基本的にそのまま採用するようにしています。
さらに、従業員の待遇改善にも注力しました。たとえば、会社が全店舗を休業した際、労働基準法では休業補償は給与の60%を支給すると定められています。しかし、弊社はコロナ禍の休業中も従業員全員に給与を全額支給しました。このように、従業員のことを第一に考える姿勢を貫いています。さらに老朽化した設備を改修するため、苦渋の決断ではありましたが、一時、店の営業を止めて店舗の環境改善に着手しました。
常連客が通い続ける店の魅力について

ーー改めて貴社の事業内容についてお聞かせください。
伊久間哲:
弊社は3つの業態のレストランを経営しております。1つ目が創業当初から続く弊社のメイン事業である、黒毛和牛を使ったしゃぶしゃぶとすき焼きなどのお肉料理と日本料理を提供している「ざくろ」です。関西で誕生した牛肉のしゃぶしゃぶを、関東で提供を始めたのがこの店の起源です。
2つ目が、1人鍋スタイルのしゃぶしゃぶ専門店「しゃぶせん」です。現在の1人鍋が流行る前からお客様のニーズを見据え、五十数年前から新たな鍋の食べ方を提案してきました。そして3つ目が、イタリアンレストランの「グラナータ」です。
弊社のこだわりは、長年お付き合いのある業者さんから仕入れた、厳選した肉・魚・野菜などの食材を使用している点です。そして、上質な食材を活かすため、料理も最高の味を追求しています。そのため「ざくろの料理なら間違いない」と、多くのお客様から高い評価をいただいていますね。
また、ご家庭で弊店の味をお楽しみいただけるようECサイトの運営も行っています。お客様から好評の「しゃぶしゃぶのごまだれ」も販売しており、多くの方にお求めいただいています。
ーーその他に飲食店を経営する上で意識していることを教えてください。
伊久間哲:
お客様からの信頼を得るため、接客サービスにも力を入れています。必ず笑顔でお声がけし、お一人おひとりに合わせたおもてなしを提供しています。たとえば、スタッフと会話を楽しみたい方、家族やお仲間のみなさんとゆっくり過ごしたい方など、お客様によって楽しみ方はそれぞれです。
そのため、こちらからお客様がどのようなサービスを求めているのかを汲み取り、心地良いと思っていただける接客を心がけています。また、メニューにない料理のご要望にも可能な限り対応しています。こうした姿勢が評価され、弊店を長くご利用いただいているお客様が多いのだと思いますね。
週休3日制の導入など働きやすさを意識した職場づくり
ーー貴社で働く魅力についてお聞かせください。
伊久間哲:
弊社では労働環境や福利厚生の拡充に力を入れています。調理スタッフは1日の労働時間を10時間までとし、完全週休3日制を導入しています。特に、35歳以上の従業員には人間ドックの費用全てを会社負担にしています。さらに病気で入院した場合には、自己負担分を会社が契約した保険でまかなえるようにしています。
ーー人材育成について教えていただけますか。
伊久間哲:
人材育成に関しては、現場での先輩から後輩への指導を基本としています。マニュアルで基本的なことを学んだ後は、豊富な経験を持つベテランスタッフから実践的なノウハウを学ぶ現場主義です。いわば、オン・ザ・ジョブ・トレーニングです。私自身も現場に足を運びますが、あえて指示は控えめにし、実際に働く従業員に指導を任せています。
ECに注力して、実店舗への誘導を図る
ーー今後の展望についてお聞かせください。
伊久間哲:
これからもお客様から信頼をいただける店であるために、サービスと料理の質を向上し続けたいですね。そのために従業員一人ひとりが自ら考え、行動できる環境づくりを進めていきます。
また、今後はEC事業にもさらに注力していく予定です。現在も地方百貨店を中心に、グラナータで提供しているラザニアの冷凍商品の注文が増えています。これをきっかけに、お客様に店舗へ足を運んでいただけたらと思っています。
ーー最後に求職者の方々に向けてメッセージをお願いします。
伊久間哲:
弊社は飲食業界では珍しい完全週休3日制を一部職域に導入しており、働きやすい環境を整えています。また、女性社員が副支配人として活躍している店舗もありますので、性別に関係なく活躍できる職場です。
弊社の従業員は能動的に動ける人が多く、お客様に最高の味と感じの良いサービスを提供しようと、日々仕事に打ち込んでいます。こうした志の高い仲間と切磋琢磨し合うことで、ご自身の成長につながるでしょう。お客様と接することが好きな方、自ら考え行動できる方のご応募をお待ちしております。
編集後記
お話をうかがう中で従業員に対する深い愛情と、プロとしての接客へのこだわりなどがしっかりと伝わってきた。また、週休3日制の導入や、長時間労働の抑制など、従業員への配慮が行き届いている企業だと感じた。株式会社ざくろホールディングスは、これからも従業員が働きやすい環境づくりを進め、お客様に最高のサービスを提供していくことだろう。

伊久間哲/1961年、群馬県生まれ。1982年、株式会社ざくろホールディングスに入社。1999年、取締役に就任し、2021年代表取締役社長に就任。