※本ページ内の情報は2026年3月時点のものです。

大阪府吹田市に拠点を置く株式会社村尾興業。代表取締役の村尾拓也氏は、フィンランドへの留学経験や異業種でのキャリアを経て家業を継ぎ、業界の常識を覆す組織改革を決行した。「当たり前のことを、当たり前にやる」。そのシンプルな信念の先に見据えるのは、廃棄物だけでなく人のキャリアさえも循環させる、新たな社会の姿だった。北欧での原体験を胸に、古い慣習が残る業界へ新風を吹き込む村尾氏に、改革の全貌と未来のビジョンについて話をうかがった。

北欧の森で学んだ「人の手」が環境を守るという意味

ーーまずは、現在の仕事に影響を与えたご経験についておうかがいできますか。

村尾拓也:
大学在学中、1年ほどフィンランドへ交換留学をしており、その経験が大きなきっかけになっています。当時、環境先進国と言われる北欧の実情を知りたくて渡航したのですが、そこで最も衝撃を受けたのは、隣国ロシアとの国境沿いで見た森の姿でした。

観光バスで国境を越えるとき、フィンランド側の森は人の手が入っていて美しく整えられている一方、ロシア側に入った途端、木が腐って倒れ、先も見通せないような鬱蒼とした森に変わったのです。自然を守るということは、ただ放置することではなく、人の手で適切に管理し、整え、共存できる環境を整えることが重要なのだと痛感しました。

このとき感じた「人の手を入れる」という考え方は、現在の弊社の事業にもつながっています。

古い慣習を一掃し若手が定着する労働環境を実現

ーーその後、家業である弊社に入社された際の状況について教えてください。

村尾拓也:
東京の機械メーカーで働いた後、家業である弊社に戻りましたが、正直、組織としては危機的な状況でした。事業を回すために必要な人員が14名ほどであるにもかかわらず、実際に在籍していたのも14名ギリギリ。私が代表に就任して改革を始めると、変化についていけないベテラン社員が次々と辞めていき、一時はさらに人が減りました。しかし、私はそこで「まともな会社」にするという方針を曲げませんでした。

ーー社長が考える「まともな会社」とは、具体的にどのような組織でしょうか。

村尾拓也:
世間一般で言われる「当たり前」を実践できている会社です。働いた分だけ給与が出る、有給休暇が自由に取れる、サービス残業がない、明確な就業規則がある。多くの企業では当然のことかもしれませんが、私たちの業界ではそれが「普通」ではなかったのです。そこで私は、給与体系を見直し、就業規則を一からつくり変え、昇給の基準を明確にして一人ひとりに説明しました。

その結果、組織は劇的に変化しました。業界の平均年齢は40代後半といわれる中、弊社の平均年齢は今や30歳前後まで下がり、人数も当初の倍近い30名以上に増えています。古い慣習を一掃し、現代の若者が安心して働ける「普通」の環境を整えたことで、未経験の若い人材が集まり、定着するようになったのです。

効率化の逆を行きニッチな領域を制する「人の手」の戦略

ーー貴社の事業内容と、他社にはない強みについて教えてください。

村尾拓也:
弊社は、家庭や企業から出る一般廃棄物の回収に加え、事業者様から排出される産業廃棄物の回収・処分を主軸としています。吹田市や池田市などの行政から委託を受けて家庭ごみを回収する一方、産業廃棄物については関西一円を広くカバーしています。

私たちの強みは、あえて「人の手」を使っている点です。通常、廃棄物処理業は利益率を上げるために自動化・大規模化を目指しますが、私たちは「人の手」をかけることにこだわっています。廃棄物の分別は、実は非常に曖昧なものです。たとえば、ボールペン一本を捨てるにしても、自治体やルールによって判断が異なります。

このグレーゾーンの判断は、現状のAIには難しく、人間の柔軟な判断力が不可欠です。大手が見逃してしまうような、あえて「人の手」を使わなければならないニッチな処理を引き受ける。手間はかかりますが、そこに付加価値が生まれ、独自の利益構造をつくることができています。

「RPG」のように成長を楽しむ人材育成

ーー未経験の若手社員をどのように育成されているのでしょうか。

村尾拓也:
育成の仕組みは、テレビゲームのRPG(ロールプレイングゲーム)と同じです。このスキルを覚えたらレベルアップ、次の資格を取ったら給与アップというように、成長と報酬を完全に可視化しています。ゲームが楽しいのは、努力の結果がすぐに数値や報酬として返ってくるからです。

仕事も同じで、「これを頑張ればこうなる」という道筋が見えれば、人は自ら努力し始めます。最初は何も持っていなかった若者が、ドライバーの資格を取り、現場のスキルを身につけ、自信をつけていく。一つひとつの階段を上るように、自らの可能性を広げていける環境をつくること。それが、今の弊社の教育において最も大切にしていることです。

ーー最後に、今後の展望をお聞かせください。

村尾拓也:
大きく二つの循環をつくりたいと考えています。1つは「モノ」の循環です。現在、廃棄物から新たな製品を生み出すアップサイクル事業を構想しています。たとえば、繊維会社から出る端材や布切れなどの廃棄物を活用し、服のような新しい製品を生み出すといったことです。廃棄物は素材としての仕入れ値がゼロ、あるいは処理費をいただくことで原材料費をマイナスに抑えられます。それを素材として活用できれば、原価を抑えた競争力のある製品が作れます。リサイクル(再資源化)にとどまらず、より価値の高いものへ生まれ変わらせる挑戦です。

そしてもう1つが「人」の循環です。弊社で育った人材が、ここを卒業して起業したり、新しい事業を立ち上げたりして羽ばたいていく。そうして外の世界で活躍した彼らと、また弊社が新しい形で関わり合う。そんな「人が育ち、循環する社会」を、この廃棄物処理という現場からつくりたいと考えています。

また、業界の待遇改善も大きな使命です。エッセンシャルワーカーは社会に不可欠な存在であるにもかかわらず、現状では低賃金で報われないことが多いのが実情です。だからこそ、まずは弊社でしっかりと実力をつけ、将来的には年収1000万円を超えるプレイヤーになるような人材を、弊社から輩出していきたいのです。こうした「稼げるエッセンシャルワーカー」を増やすことで、業界全体の価値を高めていく。それが、私の見据える未来のビジョンです。

編集後記

北欧の豊かな森で村尾氏が実感したのは、放置ではなく人の手を入れることで維持される美しさだ。その原体験は、効率化や自動化に突き進む現代の廃棄物処理業界において、あえて手間をかける「人の手」の重要性を見出す根源となっている。当たり前の環境を整え、未経験の若者が自信を深めていく仕組みは、単なる教育の枠を超え、業界全体の価値を底上げしていくことだろう。変化を恐れず挑戦を続ける同社の歩みの先には、新たな社会の循環が広がっている。

村尾拓也/1984年、香川で生まれ大阪で育つ。京都の龍谷大学を卒業。在学中フィンランドでの交換留学により環境問題を意識する。東京の三笠産業株式会社に入社し、4年を経て株式会社村尾興業に入社。2023年に同社代表取締役に就任。現在は人材不足の解決に注力しつつアップサイクリングによる新規事業の構想を実証中。