
調理道具の街、東京・合羽橋で、日本の食文化を支え続けてきた株式会社TAKASO。老舗企業ながら、現在はAIなどのデジタルツールを駆使した大胆な業務改革を進めている。新卒で東芝に入社し、人事・労務のキャリアを積んだ髙橋亮氏は、2006年に同社へ入社し、現場経験を経て、2025年に代表取締役社長に就任した。「人間にしかできない価値のためにこそデジタルを活用すべきだ」と説く同氏は、かき氷機ビジネスでのシェア獲得や和食文化の海外発信など、挑戦を続けている。今回、組織変革の本質と、同社が描く未来の展望をうかがった。
大手電機メーカーから家業へ「他責」を排した組織づくり
ーーまずは、キャリアのスタートについてお聞かせください。
髙橋亮:
新卒で入社した株式会社東芝では、人事や労務として6年間勤務しました。工場での数千人規模の給与計算から、労働組合への対応、さらには新会社立ち上げのサポートなど、組織運営の根幹に関わる多種多様な業務を経験しました。
その後、2006年に家業である弊社へ入社したのですが、正直なところ、当初は大手企業と中小企業のギャップに戸惑いました。パソコンスキル一つとっても、当時はエクセルすら十分に活用されていない状況だったのです。しかし、そこで「前の会社ではこうだった」と自分にとっての当たり前を押し付けたところで、未経験の自分に誰もついてきてくれるはずがありません。まずは現実・現場・現物(人物)を理解した上で、今の環境で何ができるかを考え、今の自分にできることをまずやってみるところからスタートしました。
ーー組織運営において、特に大切にされている考え方はありますか。
髙橋亮:
「すべての責任は自分にある」という当事者意識です。専務時代に経営を学ぶ中で出会った、「郵便ポストが赤いのも、電信柱が高いのもすべて社長の責任」という言葉が、私の根幹にあります。景気が悪い、政治が悪い、スタッフが動かない。そうやって外部環境や他人のせいにする「他責」の思考でいても、状況が好転することは決してありません。
失敗したときに「環境が悪かった」と嘆くのではなく、「自分のやり方・考え方が悪かったのではないか」と自省し、「次はこうやってみよう」と自ら改善できる人間こそが、失敗を糧にして成長できる人財だと信じています。この自律の精神は、弊社の社員教育においても最も重視している部分です。なので、私は常々「初めてのことは誰でも失敗する」「失敗=経験」「失敗を評価する」と社員に伝えています。
そしてもう一つ、私が大切にしていきたいのは、働く「人」の成長です。今は終身雇用の時代ではありません。もし将来、弊社を離れて別の道へ進むときが来たとしても、「TAKASOでの経験が今に活きている」と胸を張れるような、確かなキャリアを築ける場所でありたい。社員一人ひとりが、自らの成長を通じて「TAKASOで働いてよかった」と実感できる会社を目指し、これからも変化を恐れず勇気をもって、みんなで挑戦し、前に進んでいこうと社員スタッフに伝えています。
「こと売り」で顧客を繁盛店へ導くトータル支援体制

ーー競合他社と比較した際、貴社ならではの強みはどこにあるとお考えですか。
髙橋亮:
単なる「もの売り」で終わらず、商品に付随する価値や体験を提供する「こと売り」を追求している点です。たとえば、お皿一枚を販売するにしても、ただ商品スペックを伝えるだけではありません。「この器はこういう料理に使われている事例がある」「このサイズならこういった演出が可能だ」というように、プロとしての情報や提案をセットで提供します。
飲食店様が真に求めているのは、道具そのものではなく、その先にある「お店の繁盛」や「お客様の喜び」です。そこに貢献できる提案力こそが、私たちの最大の強みだと自負しています。
ーー数ある取り扱い商品の中で、現在特に注力されている事業はありますか。
髙橋亮:
「かき氷」に関するビジネスです。かつては取り扱い商品のひとつに過ぎませんでしたが、今では和食器と並ぶ弊社の大きな柱に成長しています。弊社は、機械を売るだけでなく、かき氷ビジネスを成功させるための工程をすべて自社でサポートできる体制を整えています。具体的には、機械の販売はもちろん、専用シロップや食材の提供、ふわふわの氷を削るための技術セミナーの開催、さらにはレンタルサービスから不要になった機械の買い取りまでをワンストップで行っています。現在は自社キッチンでのかき氷食材のレシピ開発などにも取り組んでいます。
こうした「かき氷に関することなら、TAKASOに任せればすべて解決する」というトータルな支援体制があるからこそ、多くの支持をいただいているのだと考えています。
小売業の価値を高める「メリハリ」の極意
ーー業務改革や効率化の面では、どのような取り組みをされていますか。
髙橋亮:
現在は、AIやデジタルツールの活用に力を注いでいます。ただし、単にデジタル化することが目的ではありません。最大の狙いは、人間が「人間にしかできない仕事」に集中できる環境をつくることです。お客様から「直径10センチくらいの緑色の小鉢が欲しい」と要望があったとき、これまでは膨大なカタログを一枚一枚めくって探していました。しかし、これは単なる作業であり、付加価値を生みません。そこで現在は、生成AIなどのツールを活用し、条件を入力すれば一瞬で候補の商品と掲載ページが特定できる仕組みを整えています。
ーー効率化によって生まれた時間は、何に使われているのですか。
髙橋亮:
お客様との対話や提案です。当社では「お客様の声」を大切にしており、年間2000件以上の報告が上がってきます。これらは、現場の商品導入やサービス改善から、経営の方針変更や意思決定まで幅広く活用されています。AIが作業を代行してくれる分、スタッフはお客様と向き合い、「どのようなお困りごとがありますか?」「実機を使って仕上がりを体験しませんか?」といった、お客様との生の会話や、プロとしての価値提供に時間を使えます。
バックヤードは徹底的にデジタル化し、お客様との接点は徹底的にアナログで人間味を持たせる。このメリハリこそが、これからの小売業における付加価値の源泉になると考えています。
ーー最後に、今後の展望をお聞かせください。
髙橋亮:
和食文化を世界へ発信することに、さらに注力していきたいと考えています。日本の食器や調理道具には、作り手の魂や使い手への細やかな配慮が宿っているからです。たとえば、日本製のステンレスボウルを例に挙げると、その差は歴然としています。日本の製品は、縁(ふち)を丸く巻き込むように加工されており、指を切らないような安全性や、重ねたときに外れやすくする工夫が当たり前のように施されています。一方、海外製品では、縁が鋭利なままのものや、重ねが悪いものも少なくありません。
こうした、使う人の立場にたった「機能美」や「安全への配慮」こそ、日本が誇るべき文化だといえるでしょう。単に「もの」を輸出するのではなく、その背景にある精神性やストーリーごと海外へ届けていきたいです。
編集後記
老舗企業が伝統を守るということは、単に形を維持することではない。時代に合わせて仕組みを整え、顧客が真に求める価値を研ぎ澄ましていくプロセスそのものなのだと感じた。業務の効率化で生み出された時間は、相手の繁盛を願う深い対話へと投じられている。この合理性と温かみの両立こそが、日本の精神性を世界へ届ける土台となることだろう。次世代のキャリアにまで責任を持つ誠実な姿勢を武器に、挑戦を続ける同社の飛躍が楽しみだ。

髙橋亮/東京都出身。学習院大学文学部卒業後、株式会社東芝に入社。人事担当として6年間の勤務を経て、株式会社高橋総本店(現:株式会社TAKASO)に入社。入社以来、飲食店向け食器道具の店頭販売という枠を超え、営業・EC・輸出・教育など多角的な事業拡大を主導。2020年、代表取締役社長に就任。特に国内トップシェアを誇る機械販売を中心とした「かき氷BtoB事業」においては、「商品だけでなく体験を」「日本のかき氷を世界に届ける」というビジョンを掲げ、新たな日本食文化の輸出に取り組んでいる。現在は、日本の食文化を支える道具・うつわを国内外に広く届けるべく、挑戦を続けている。