※本ページ内の情報は2026年4月時点のものです。

「新しい産業の波に乗り、挑戦できる環境に身を置きたい」。そう語る伊藤正氏は、2025年にGMOインターネット株式会社の代表取締役に就任した。同氏は新卒入社した証券会社を半年で退職し、パートナー30名程度のベンチャー企業へ飛び込んだ。その企業こそ、現在のGMOインターネットグループの源流である。インフラ事業の責任者として圧倒的な「ナンバー1商材」をつくり上げ、組織の窮地を救ってきた同氏に、組織づくりの本質と次世代のAIインフラにかける思いをうかがった。

昭和の証券会社からパートナー30名のベンチャーへ熊谷代表との出会い

ーーまずは、貴社へ入社された経緯から教えてください。

伊藤正:
大学卒業後、最初は証券会社に新卒で入社しました。とてもやりがいはあったのですが、当時はまだ昔ながらの伝統的な社風が色濃く残る環境でした。23歳だった私は、もっとスピード感があり、これから大きく成長していく新しい産業に挑戦したいという思いが強くなり、半年で次の道へ進む決断をしたのです。真逆の世界に行きたいと考え、当時新しい産業だったインターネット業界を探す中で、弊社の前身であるインターキュー株式会社に出合いました。当時はまだ、事前の会員登録や面倒な手続きなしに、電話料金と一緒に通信料を支払う仕組みの「ダイヤルQ2」を利用したプロバイダー事業しかやっていない時期でしたが、そのアプローチが非常にユニークで惹きつけられました。入社した当時のパートナー数は、まだ30人ほどの規模でしたね。

ーーご自身の成長に大きく影響を与えたターニングポイントはありましたか。

伊藤正:
最初のターニングポイントは、入社後に光通信とのアライアンスプロジェクトの主担当になったことです。社長直轄のプロジェクトで、毎日先方に通いながら自主的にさまざまな提案を行いました。ここから、現GMOインターネットグループ代表の熊谷と直接仕事をするようになったのです。熊谷は、まだインターネットが一部の限られた人のものだった時代から事業を急拡大させる先見の明がありました。事業構想から決断、そして実行に移すまでの常識を超えた圧倒的なスピード感はもちろん、「できない理由ではなく、できる方法を考える」という何事にも前向きに取り組むポジティブな姿勢には、非常に大きな影響を受けました。その後は社長室に配属され、30歳頃まで代表の熊谷のもとで、事業の中身を詰めていく役割を担いました。熊谷の思考や行動の延長線上で仕事ができたことは、私にとって非常に大きな財産です。

事業責任者としての覚悟 比較負けしない「ナンバー1」を目指す

ーー現在の根幹であるインフラ事業の責任者に就任された際のエピソードをお聞かせください。

伊藤正:
35歳頃にドメイン登録サービス「お名前.com」やプロバイダーといったインフラ事業の担当責任者になり、社長室時代の10人規模の仕事から、いきなり数百人単位の組織を率いることになりました。実は当時、グループ内のローンクレジット事業などが上手くいかず、組織に少し「負け癖」がついてしまっているような状況でした。

ーーその状況を、どのように打開していきましたか。

伊藤正:
本業を立て直すため、スペックや顧客満足度、価格などあらゆる面でお客様に選ばれる「ナンバー1商材」をつくることを一番に心がけ、徹底して取り組みました。インターネットサービスはお客様が簡単に比較できるため、比較負けしない、絶対的なサービスをつくればシェアは確実に上がります。この戦略が功を奏し、売上や件数が伸びてお客様にも喜んでいただけるようになると、組織の状況も劇的に変わり、パートナーのやる気も大きく上がりました。この「ナンバー1」を目指すという姿勢は、弊社の魂とも言える「スピリットベンチャー宣言」の中にも入れ込み、組織全体で徹底しています。「スピリットベンチャー宣言」とは、私たちが最も大切にしている共通の価値基盤である「GMOイズム」の中核をなすもので、創業以来受け継がれてきた「夢」や「ビジョン」を明文化したものです。判断に迷ったときの基準として、全パートナーに深く浸透しています。

新生GMOインターネットの代表就任とフラットな組織づくり

ーー新会社の代表に就任された経緯と、トップとしての覚悟をお聞かせください。

伊藤正:
もともとGMOインターネットグループ株式会社は、事業会社と持株会社の両方の側面を持っていました。しかし、熊谷が「100年単位で続く会社・仕組みをつくりたい」という思いを強め、グループ全体のマネジメントに集中することになったんです。そこで、一つの独立した事業体としてスピード感を持って意思決定を行うため、私が見ていたインフラ事業部門と、広告メディア事業を展開していたGMOアドパートナーズ株式会社が一緒になり、新たな事業会社として独立しました。インフラ事業の規模が大きかったこともあり、私が社長に就任することになりました。

これまでは最終的に熊谷という存在がいましたが、今は自分が最終責任者です。継続的に会社を成長させ、お客様、パートナー、そしてメンバー全員を笑顔にするという大きな責任を感じていますし、同時に大きなやりがいにつながっています。

ーー経営者として、組織運営や個人として大事にしていることは何ですか。

伊藤正:
組織としては、先ほどお話しした「GMOイズム」や「スピリットベンチャー宣言」を社内に徹底して浸透させることが非常に重要だと考えています。私自身がグループ本社の出身だからこそ、自ら実践し、それを事業運営の軸として意識しています。

個人としては、上下関係なくフラットに話せる雰囲気づくりを心がけています。「社長には言いたいことも言えない」という組織では、本当に重要で大事な情報が自分の耳に入ってこなくなってしまいますからね。新卒でもベテランでも好きなことが言える風通しの良さを大切にしています。

圧倒的なインフラ基盤とそれを支える人財力とシナジー

ーー改めて、貴社の事業内容と独自性についてお聞かせください。

伊藤正:
ドメイン事業、レンタルサーバー事業、そしてインターネット接続サービス事業といった、世の中になくてはならないインターネットのインフラ事業を展開しています。弊社の独自性は、やはり「ナンバー1商材を目指す」という文化が徹底されている点にあります。競合がより良いものを出せば弊社も開発し、「コストがかかるからやめる」といった妥協はしません。これをやり続けることでお客様に選ばれ続け、ストック収益が安定して伸びていく構造が最大の強みです。

ーーそれらを生み出すベースには、やはり従業員の皆様の人材力があるのですか。

伊藤正:
弊社は、入社時に「スピリットベンチャー宣言」を読み、その理念に共感・賛同してくれたメンバーだけが集まっているという強みがあります。基本的なマインドや目標が一致しているため、仕事が非常に進めやすいのです。また、最近ではAIを使いこなせる人財や、人間ならではのクリエイティビティを発揮できる優秀な若手の採用にも力を入れており、「新卒年収710万プログラム」なども実施しています。価値観の合うメンバーが明るく楽しく働いている、とてもよい雰囲気の会社だと自負しています。

ーー広告メディア事業との相乗効果の可能性についてお聞かせください。

伊藤正:
せっかく一緒になったので、この相乗効果をもっと発揮していきたいと考えています。インフラ事業はインターネット上での集客が前提となるため、マーケティング力の強化は大きな成長の鍵です。広告メディア事業のプロフェッショナルな知見を取り入れることで、マーケティング力を底上げしていきたいと考えています。さらに、インフラサービスをご利用いただく1000万人以上という強固な顧客基盤に対して、広告メディア事業の専門知見をかけ合わせることで、単なる売り切りにとどまらない独自のクロスセルや新しいアプローチが可能になります。

中長期ビジョンと次世代を担うGPUクラウド事業

ーー今後の中長期的なビジョンについてお聞かせください。

伊藤正:
大きく4つのテーマを掲げています。1つ目は既存事業を伸ばしていくこと。2つ目は先ほどお話した相乗効果の最大化。3つ目は新規事業への挑戦。そして4つ目がM&A等による仲間づくりです。新しい仲間を迎え入れることで、既存事業のシェア拡大や新しいストック商材の取り込みを加速させていきたいと考えています。

ーー新規事業として、特に注力されている領域はありますか。

伊藤正:
ChatGPTの登場以降、AIがこれからの世の中を確実に変えていきます。弊社がこれまでインターネットインフラで成長してきたように、これからの時代はAIのインフラを提供することが使命だと考えました。

一昨年の11月からスタートした国内最速レベルの商用クラウドサービス「GMO GPUクラウド」事業に集中的に投資しています。これは、生成AIや大規模言語モデル(LLM)の開発・機械学習などに不可欠な超高性能な計算基盤(GPU)を、クラウド経由で提供するAIインフラ事業です。NVIDIAの高性能チップ「H200」を約800個購入し、初期として約100台のサーバーを導入しました。現在、稼働率はほぼ100%に近い状態です。また、昨年末には最新の「B300」を追加導入しています。

ーー「GMO GPUクラウド」は、現在どのような領域で活用されているのでしょうか。

伊藤正:
主に4つのカテゴリーのお客様にご利用いただいています。政府機関、AIロボット協会(AIRoA)をはじめとする学術研究機関、NEC様や自動車・創薬関連のエンタープライズ企業、そして自動運転やAIエンジンそのものを開発しているAIベンチャーの方々です。

AIを使って世の中を良くしようとチャレンジされている皆様に弊社のインフラを使っていただくことで、研究や製品開発のスピードを劇的に高めていただいています。初期的にも非常にご好評をいただいており、今後さらに集中して伸ばしていく確かな自信を持っています。

AIファーストの時代を生き抜く読者へのメッセージ

ーーマーケティングやブランディングについて、今後の展望をお話しいただけますか。

伊藤正:
前提として、ナンバー1のサービスを提供してお客様に満足していただくことの積み重ねが、最大のブランディングになると考えています。看板を出せばブランドが上がるというものではありません。その上で、GMOインターネットグループではスポーツのスポンサー活動なども通じて複合的なブランド向上につなげています。また、新体制になってまだ1年余りですので、「GMOインターネット」という事業会社の存在と、「GMO GPUクラウド」のような新しいチャレンジをしていることを皆様に正しく認知していただく活動には、今後も力を入れていきます。

ーー最後に、これからビジネスに挑む読者に向けてメッセージをお願いします。

伊藤正:
これから起業される方やスタートアップの皆様には、「AIファースト(AIありき)」の考え方を徹底していただきたいと強く思います。業務フロー、組織づくり、そして商品開発のすべてにおいてAIを前提とした考え方ができることは、これからの時代における決定的な強みになりますし、逆にそうしなければ生き残れない部分もあるでしょう。世の中がこの数年でガラッと変わっていることを理解した上で、我々の「GPUクラウド事業」のようなインフラも大いに活用していただき、その変化を皆さんの強みに変えていってほしいと願っています。

編集後記

「ナンバー1」への圧倒的な執着と、それを実現するための妥協なき姿勢。伊藤氏の言葉の端々からは、長年インフラ事業を牽引してきた経営者としての強い覚悟が感じられた。フラットな組織文化を自ら体現し、価値観を共有するメンバーと共に相乗効果を生み出していく手腕は見事だ。インターネットの基盤を支えてきた老舗企業が、今度はAI時代のインフラ構築という新たなフロンティアへ果敢に挑む。「GMOイズム」を継承しつつ進化を続ける同社の飛躍から、今後も目が離せない。

伊藤正/1974年兵庫県生まれ、大阪経済大学卒業。1997年インターキュー株式会社(現・GMOインターネットグループ株式会社)に入社。2004年の取締役就任後、常務取締役、専務取締役、取締役副社長を歴任。2025年1月、GMOインターネットグループのインターネットインフラ事業部門をGMOアドパートナーズ株式会社に統合・承継し、新生GMOインターネット株式会社の代表取締役に就任。