
米国大使館や外資系金融機関という華々しい経歴を歩み、香川県にある鉄工所、株式会社サンテックの代表取締役社長に就任した青木大海氏。若き日は「国連で環境と経済の両立を目指す」という大きな夢を持っていた同氏が、なぜ日本の製造業に飛び込んだのか。そこには、現場を支える職人への深い敬意と、「社員はファミリー」と語る温かい人間観があった。多様な国籍の社員が活躍するグローバルな組織づくりや、AI時代を生き抜くための「利他の精神」、そしてすべての社員に向けた熱い思いを聞いた。
華々しいキャリアからの転身と現場の職人へのリスペクト
ーー社長の経歴について教えていただけますでしょうか。
青木大海:
私はもともと、国連環境計画で仕事をするのが夢でした。「環境と経済の両立」をテーマに掲げ、まずは政治や国際経済を実地で知る必要があると考え、アメリカ大使館やリーマン・ブラザーズ証券株式会社などの外資系企業で経験を積みました。とんでもないスピード感で動く環境に身を置き、「世の中にはとんでもない奴らがいる」と大きな刺激を受けたことを覚えています。
その後、経営コンサルタントとして東京に残る道も考えていました。しかし、親友から「コンサルタントはあくまで提案のみで、実行する権限はない。あなたにはすでに会社があるのだから、現場でリアルに経営を学ぶべきだ」と背中を押されたのです。その言葉がきっかけとなり、家業である弊社へ入ることを決意しました。
ーー実際に製造業の現場に入ってみていかがでしたか。
青木大海:
正直なところ、最初は戸惑いの連続でした。かつていた森ビルの29階とは全く違う、夏は非常に暑く、鉄やステンレスを扱う過酷な現場です。4トントラックでの納品中に客先のシャッターを壊してしまうなど失敗も重なり、「すぐにでも辞めてやろう」と思っていました。
華々しい世界にいた私は、どこか上から目線で現場の職人たちを軽視していた部分があったのだと思います。しかしあるとき、父から「お前の言う政策提言などは机上の空論だ」と一喝されました。さらに、「うちは熱をリサイクルしてCO2を削減し、水をろ過する機械をつくっている。お前が理想とする『環境と経済の両立』を、私たちは形にしているじゃないか」と言われたのです。
その言葉に鼻を折られました。彼らこそが社会を支えているのだと痛感し、自分の至らなさを恥じました。そこから「社員から学んでこそ社長だ」という姿勢に変わり、人の話を聞く大切さを学んだのです。
世界から優秀な人材が集まる多様性と「利他の精神」

ーー多くの外国籍社員が活躍されている理由を教えていただけますでしょうか。
青木大海:
今、人事にはマレーシア、営業にはタイ、調達には中国出身の社員がいます。彼らはトリリンガルで非常に優秀ですし、何より「自分の国とアジアの架け橋になりたい」という熱い思いを持っています。弊社がグローバルスタンダードな考え方を持ち、彼らが挑戦できる環境をつくっているからこそ、香川の地へ足を運んでくれるのだと感じています。
これからの日本経済は、人口減少に伴い「戦略的縮小」という道を歩むことになります。これは単なる衰退ではなく、限られた経営資源を自分たちにしかできない強みへと集中させ、生き残るための道筋を立てるということです。多くの仕事がAIに取って代わられる中で、よほど自分にしかできない「魅力」を持っておかないと、淘汰されてしまう厳しい時代が目の前まできています。
その魅力の核となるのが「利他の精神」です。自分のためだけでなく、公のために動ける人間は、どのような時代でも輝きを放ちます。私はそうした志を持つ仲間たちと共に、アジアを代表する企業を目指していきたいと考えています。
ーー多様な社員が安心して働くために、どのような環境づくりをされていますか。
青木大海:
私は、仕事を通じて仲間を家族のように思えるような会社にしたいと考えています。その一環として、社内にはイスラム教の社員のために礼拝室を設けていますし、夏休みなどの長期休暇には、子どもと一緒に会社へ来られる社内学童保育「サンテックキッズクラブ」も運営しています。これは単に預かる場所があるというだけでなく、お父さんやお母さんが実際に活躍している姿を、子どもたちに直接見せてあげたいという思いがあるからです。また、月に一度は社内のシェフが作った豪華なスペシャルランチをみんなで食べています。
私にとって社員もその家族も大切な「ファミリー」です。これからもみんなが働きやすい環境づくりを推進していくつもりです。
「生かされている」という感覚と必然の出会い
ーー仕事をする上で大切にしている考え方を教えていただけますでしょうか。
青木大海:
私はよく「飲水思源(いんすいしげん)」という言葉を使います。「水を飲むときは、その井戸を掘った人の恩を忘れてはならない」という教えです。
「自分が自分の力だけで生きている」などというのは、おこがましいことだと考えています。私たちは、自分で服をつくることもできなければ、食べるものすべてを自ら生み出しているわけでもありません。実際は、ただお金という紙を渡して、誰かがつくってくれたものを受け取っているだけなのです。
人は誰かに必要とされているからこそ、この世に存在しています。誰かに支えられ、「生かされているのだ」という謙虚な感覚を忘れてはなりません。私は、人との出会いはすべて偶然ではなく必然であり、必要にしてベストなタイミングで起こるものだと本気で信じています。
ーー最後にこれから働く若い世代へメッセージをお願いできますか。
青木大海:
皆さんの世代において、「失敗」という言葉はまずありません。ですから、自分がやりたいことはすべて挑戦してみてください。世の中には、さまざまな理論や理屈で皆さんの邪魔をするものがあるかもしれません。しかし、自分が感じたことや、やりたいと思ったことは8割方正しいものです。
自分の幸せは自分にしかわかりません。自分が幸せな瞬間は、自分自身が一番よくわかっているはずです。だからこそ、日々の生活の中で自分との対話を欠かさないようにしてください。世界の中で、あなたという存在は一人しかいません。自分を大切にし、人との出会いを大切にして、一度きりの人生を存分に楽しんでほしいと願っています。
編集後記
「国連で環境と経済の両立を目指す」という青木氏の志は、一見すると地方の鉄工所とは縁遠いものに思える。しかし、職人の確かな技術こそが地球環境を守る最前線であるという気づきが、同氏の経営者としての在り方をより確かなものへと変えたのだ。香川の地からグローバルな視点を持ち、国籍を問わず社員を「ファミリー」として本気で愛するその熱量。そこに多くの優秀な人材が惹きつけられるのは、もはや必然といえるだろう。「生かされている」という謙虚さと、「やりたいことをすべてやりなさい」という力強いエールは、すべてのビジネスパーソンの胸に深く響くはずだ。

青木大海/米国大使館、外資系証券会社勤務を経て、2008年にステンレス製熱交換器やタンク、圧力容器などを製造する株式会社サンテックに入社。2013年代表取締役社長就任。日本商工会議所青年部国際ビジネス委員長・副会長を歴任し、アジア商工会議所連合会青年部第三代会長(2025~2026)を務める。香川留学生支援会会長として海外人材活用に注力し、2023年に経済産業省ヤングASEANビジネスリーダーに選出。