
医療機器や産業用ロボット、電子機器の設計・製造を手がけるJOHNANグループから、製造機能の要として2024年4月に分社独立したJOHNAN DMS株式会社。同社が掲げるのは、高難度な実装技術への徹底的なこだわりだ。紙や伸縮素材への電子部品の実装など、材料選定や工法の確立が困難な領域で独自の提案力を発揮し、新領域へも挑戦している。エンジニアから経営者へ転身した代表取締役社長の紅林倫太郎氏に、技術戦略と組織づくりへの思いを聞いた。
入社直後にITバブル崩壊 「技術だけでは生き残れない」という原体験
ーーまずは、これまでの歩みについてお聞かせいただけますか。
紅林倫太郎:
静岡県出身で、新卒で日本電気株式会社(NEC)に入社し、海底ケーブル開発のエンジニアとしてキャリアをスタートしました。しかし、入社数年後にITバブル崩壊の余波を受け、仕事が激減し、事業規模を縮小せざるを得ない状況となりました。このとき、「技術があるだけでは事業は成り立たない」と強烈な危機感を覚え、利益を生む仕組みをつくる重要性を痛感しました。
この経験から、事業をつくる側への転身を決意し、MITスローン経営大学院へ留学。そこで経営と技術の融合を学んだあと、海外プロジェクトや米国駐在を経て、2010年にJOHNAN株式会社に入社しました。
ーー貴社へ入社された後はどのような業務を担当されたのでしょうか。
紅林倫太郎:
当時のJOHNANグループは、現在の親会社であるJOHNAN株式会社の社長交代の時期で、「これから会社を大きく変えていこう」という変革の気運が高まっていました。そこで私が担当することになったのが、新規事業の立ち上げや全社的なWebマーケティングの刷新です。
既存事業はどうしてもお客様との関係性が固定化しがちだったため、Webを活用して新しい顧客を開拓し、まだ見ぬニーズを拾い上げる仕組みづくりに奔走することになりました。多くの試行錯誤を繰り返しながら、「新しい価値をどう社会に届けるか」を模索し続けた日々だったと記憶しています。
紙や伸縮素材への実装 他社が断る難題こそが差別化のカギ

ーー事業内容と貴社の強みを教えてください。
紅林倫太郎:
弊社は、JOHNANグループのなかで最も歴史が古く、製造機能の要を担ってきた「製造受託」の事業を分身させて誕生しました。
この基盤を徹底的に強化するなかで、私たちの最大の強みとしているのが「難易度の高い実装」への対応力です。通常のプリント基板への部品実装であれば、できる企業は世の中に数多くあります。しかし、弊社は「他社ではできない」「断られてしまった」という案件こそを主戦場としています。
象徴的な取り組みの一つが、紙への電子部品の実装です。紙にLEDなどを実装するのですが、紙は熱に弱く、一般的なはんだ付けの工程が通用しません。私たちは、どのような材料を使ってどう固定するかといった工法から提案し、独自のノウハウを積み上げることで、こうした特殊な実装を実現しています。
ーー紙以外にはどのような素材への実装を行っているのですか。
紅林倫太郎:
伸縮素材への実装も注力している分野です。ゴムや特殊な布のように伸び縮みする素材の上に回路をつくり、衣服の一部や肌に直接貼れるデバイスなどに活用されています。これらは、伸ばした瞬間に回路が断線してしまうリスクがあるため、非常に高度な技術が求められます。
しかし、ウェアラブルデバイスやヘルスケア分野でのニーズは年々高まっており、Webサイトや展示会を通じて、実現可能性についての相談が寄せられるケースが増えています。顧客の漠然としたアイデアを、確かな技術で形にする。それが私たちの提供価値です。
ーー新たな挑戦として注力している分野はありますか。
紅林倫太郎:
現在は、グループ全体で培ってきた知見を活かし、医療機器分野への本格参入に向けた準備を進めています。
近年、日本でも医療機器の開発を目指すスタートアップや異業種からの参入が増えています。しかし、医療機器は人命に関わるため、法規制や品質管理のハードルが極めて高く、試作まではできても、量産化や市場投入の壁を超えられない企業が多いのが実情です。
親会社であるJOHNAN株式会社では既に開発支援の実績がありますが、私たちDMSも製造のプロフェッショナルとして、この領域に貢献できるポテンシャルがあると考えています。確かな製造基盤と品質管理体制を武器に、将来的には革新的な医療デバイスを世に送り出すインフラとしての役割を担っていきたいと考えています。
即戦力の知見注入と自ら考え抜くリーダーの育成
ーー人材戦略において重視していることはありますか。
紅林倫太郎:
新しい事業を推進していく上で、専門的な知見を持つプロフェッショナルな方の力は欠かせません。特に、医療機器のような厳しい品質管理が求められる分野では、一朝一夕では身につかない深い知見が必要です。そのため、大手企業などで実績を積んだ方に即戦力として入っていただき、そのノウハウを社内へ還元してもらうことを期待しています。
また、単にスキルがあるだけでなく、会社の足りないところを自ら良くしていこうと思える方に、ぜひ仲間になっていただきたいですね。弊社のような成長企業において、自身の経験を活かしながら一緒に組織をつくっていくことにやりがいを感じる方と、共により良い会社を目指していきたいと考えています。
ーー次世代のリーダー育成については、どのようにお考えでしょうか。
紅林倫太郎:
これからの経営幹部やリーダーには、逆境の中で自ら考え抜き、乗り越えていく経験が不可欠だと考えています。私自身、バブル崩壊後の苦境や新規事業での手探りの経験が大きな糧となっています。
今の若い世代にも、正解のない中で自ら考え、提案し、時には失敗しながらもチャレンジする機会を積極的に提供したいと考えています。単に上から言われたことをこなすのではなく、「お客様が本当に求めているものは何か」「どうすれば技術的な課題を突破できるか」を自分事として捉え、提案できる力を養ってほしい。そうした実戦的な経験を通じて、将来の弊社を支える中心人物へと育っていくことを期待しています。
組織的な技術力の確立とものづくりの喜びの継承
ーー今後の数年を見据えた短期的な展望についてお聞かせください。
紅林倫太郎:
直近の3〜5年は、分社化した新会社としての事業基盤を盤石にする期間と位置づけています。現在は特定の熟練者のスキルに依存している部分も少なからずありますが、今後はこうした高い技術を誰もが当たり前にできる組織にしていきたいと考えています。一部の属人的なスキルにとどめず、組織全体の共通の強みとすることで、誰が担当しても、難易度の高い実装をやり遂げ、お客様へ最適な提案ができる体制を整えることが目標です。
ーーさらにその先、未来にむけてどのような姿を目指していらっしゃいますか。
紅林倫太郎:
弊社はグループ全体で2050年に向けたビジョンを掲げており、コスト競争に巻き込まれる製造業ではなく、「ものづくりの喜びを感じられる会社」であり続けたいと考えています。
生成AIなどの普及で効率化が進む世の中ですが、人間には本能的に何かをつくり出す喜びがあるはずです。自分たちが関わった技術が、新しいデバイスとなり、誰かの健康を支えたり、社会課題を解決したりする。そんな実感を持てる仕事こそが、社員のやりがいにつながります。私たちは黒子のような存在かもしれませんが、私たちがいるからこそ、世の中に新しい価値が生まれる。そんな存在感を放つ企業へと成長していきたいですね。
編集後記
「技術だけでは事業にならない」という若き日の挫折から、経営視点を持ったエンジニアとして道を切り拓いてきた紅林氏。その言葉の端々からは、ものづくりへの深い愛情と、ビジネスとしての厳しさを見据える冷静な眼差しが感じられた。紙や伸縮素材への実装という、一見突飛にも思える技術を事業の柱に据える戦略は、まさに「他人がやらないことをやる」という生存戦略そのものだ。経験豊富なベテランの知見と、挑戦を恐れない若手のエネルギーが融合した同社から、次はどんな不可能を可能にする製品が生まれるのか、飛躍が楽しみだ。

紅林倫太郎/1973年静岡県生まれ。MITスローン経営大学院卒業。1998年日本電気株式会社(NEC)に入社し、光海底ケーブルの基盤技術開発や米国向け通信機器企画等に従事。2010年JOHNAN株式会社に入社後、コーポレート経営戦略、FA機器の設計・受託製造及び医療機器ODM/EMS事業等を歴任。2020年6月、JOHNAN株式会社の取締役常務執行役員に就任(現任)。2024年4月、JOHNAN DMS株式会社の代表取締役社長に就任。