
日本が世界に誇るアニメやキャラクター文化。その魅力を最大限に引き出し、ファンの心を掴むグッズを世に送り出しているのが株式会社ツインクルだ。「おそ松さん」や「鬼滅の刃」といった作品のライセンス商品を手がけ、圧倒的な支持を集めている。従業員わずか10名という少数精鋭ながら、驚異的な生産性とクオリティを誇る同社。異業種からキャラクター業界へ飛び込み、40代で起業を果たした代表取締役の山本謙司氏に、独自の組織論とものづくりへの情熱をうかがった。
40代での起業 原動力は「アニメ/キャラクターが好き」というブレない信念
ーーまずは、起業されるまでの歩みを教えていただけますか。
山本謙司:
私はホテルマンや旅行会社を経て、前職では同じ業界の雑貨メーカーに約18年勤めていました。営業として入社し、企画、デザイン、生産、ライセンス、総合管理と、絵を描くこと以外のあらゆる業務を経験しました。
起業のきっかけは、当時の会社と目指すべき商品づくりの方向性に違いが生じたことです。会社がノンキャラクター商品を主体にする方針へ舵を切ろうとしました。しかし私はずっとキャラクタービジネスに携わってきたため、「キャラクターで商売をしたい」という思いが強くあったのです。そこで退職を決意し、何の準備もしていない状態でしたが、2ヶ月後には自分の会社を立ち上げました。42、3歳の頃で、この業界での独立としては遅いスタートでしたね。
ーー何の準備もないままの起業だったとうかがいましたが、当時の状況をお聞かせください。
山本謙司:
最初の半年間は売上高がゼロで、当然赤字でした。会社と住まいを兼用にし、365日休みなく働き回り、寝ながらも仕事のことを考えているような状態でした。しかし、起業して2年目に大きなターニングポイントが訪れます。「おそ松さん」のアニメ放送を見て「これは売れる」と直感し、すぐに商品化の申請をして許諾を得ました。社会現象ともなったそのIPの大ヒットのおかげで、売上高を一気に伸ばすことができたのです。
親和性を最優先にファンの心を打つ「発売元」としてのプライド

ーー商品開発において大切にしていることは何ですか。
山本謙司:
第2のターニングポイントとなったのが、約6年前の「鬼滅の刃」です。アニメ化が決まった途端に商品化の申請を行い、東京スカイツリーや桔梗信玄餅とのコラボレーションのライセンスも弊社で取得に至りました。そして、斬新な企画の立案からデザインまで自社で完遂させています。
私たちが何よりも大切にしているのは、単なる受託業務にとどまらず、「自分たちが面白い、楽しいと思えるものをつくる」という思いです。お金儲けだけを第一とするのではなく、そのキャラクター(IP)への理解を深めることを重視してきました。こうしたファン目線での世界観との親和性は、商品開発における最優先事項です。たとえば桔梗信玄餅と「鬼滅の刃」のコラボも、ファンの方が違和感を抱かない自然な仕上がりを実現できました。これからも、メーカーとして自らが「発売元」であるという自負を持ち、納得のいく自社商品をつくることにこだわり抜きたいですね。
ーー品質やコストのバランスを保つための工夫はありますか。
山本謙司:
商品の約80%以上が国内生産で、残りが海外生産です。昨今の物価高騰の中でも品質を保ちながらコストを抑える工夫をしています。弊社では中間業者を一切挟まず、国内外問わずすべての工場を直接管理しています。缶バッジの鉄を製造している工場や印刷会社とも直接取引をして、自ら現場のハンドリングを行う。この徹底した管理体制のもと、品質とコストのバランスを追求し続ける「ものづくりへの姿勢」こそが、私たちの大きな武器です。
「社長以外は全員女性」ファン心理を熟知した自律型組織の強み
ーー社員10名という少数精鋭で、圧倒的な生産性を維持できる秘訣は何でしょうか。
山本謙司:
最大の理由は、無駄を徹底的に省いていることと、分業制にしていないことです。定例会議は行わず、必要な時に必要なメンバーだけで5分、10分で話し合って決めます。また、「よいものをつくれば売れる」という信念を持っています。企画からデザイン、生産スケジュール管理などを別の人が担当することは殆どありません。一人の担当者が責任を持って一貫して行います。これは、社員に自分のアイデアを形にする手応えを大事にしてもらうためでもあります。
そして、弊社は私以外の社員が全員女性です。キャラクタービジネスにおいて、女性の感性やファン目線は非常に優秀だと感じています。「このシーンのこのポーズがいい」といったファンの細かなツボを商品に落とし込めるのは、彼女たちが自らその作品を好きだからに他なりません。自発的に「これをやりたい」と手を挙げ、能動的に企画を動かしていく姿勢を大切にしています。
ーー社員の方々のマネジメントで意識されていることはありますか。
山本謙司:
「自分で調べ、自分で考える」を習慣づけ、自律した組織であることを大切にしています。すぐに人に聞く方が早いかもしれませんが、それでは自分の力にはなりません。まずは自分で調べ、それでも分からなければすぐに先輩に聞くという姿勢を徹底しています。弊社には未だ専属の営業マンもいません。「良い商品をつくっていれば、クライアントから要望を頂ける」そんな会社でありたいと考えています。
ーー最後に、今後のビジョンについてお話いただけますか。
山本謙司:
売上高規模を追って会社を大きくしたいという思いはあまりありません。100人で100億円売り上げるより、10人で10億円売り上げる方が効率的ですし、社員にもしっかり還元できますから。
私たちが目指すのは、他社よりもいち早く、よい商品をつくって世に出すことです。そのためには、「個」のレベルアップが欠かせません。年を重ねるごとに経験や情報を蓄積し、アンテナを高く張る努力が求められます。どこよりも早く感度の高い商品をファンの方々に届けていく。そんな集団でありたいですね。このシンプルな原理原則を、これからも追求し続けていくつもりです。
編集後記
「自分が楽しいと思えるものをつくる」。山本氏の言葉には、キャラクタービジネスの真髄が詰まっていた。10名という少数精鋭の組織でありながら、数々の大ヒット商品を生み出している。それは徹底した効率化と、女性スタッフたちの優れた感性によるものだ。何より作品への深いリスペクトがあるからこそ実現できるのである。規模の拡大をむやみに追わず、本質的なものづくりにこだわるツインクルの姿勢。これは多くの企業にとって大きなヒントになるはずだ。

山本謙司/1970年奈良県生まれ。奈良育英高校卒業後、渡豪し、ホテルマンとして勤務。帰国後は旅行会社にて添乗業務を主に行う。1996年にキャラクター業界に転職し、雑貨メーカーの株式会社ラナに入社。2014年に退職。その後、2014年9月に株式会社ツインクルを設立。