
グンゼ包装システム株式会社は、私たちの身近にあるシャンプーや洗剤、食品などの包装用フィルムを製造・加工する企業だ。同社の代表取締役社長である花岡裕史氏は、業界の大きな流れである環境対応や資源循環に本気で取り組む姿勢を見せている。プラスチック包装材を「ゴミ」ではなく「資源」として捉え直す取り組みを推進する同社の強みや、未来に向けた戦略、そして働く上で大切にする考え方についてうかがった。
これまでのキャリアと包装フィルム事業への想い
ーーはじめに、貴社に入社した経緯を教えてください。
花岡裕史:
大学では理系だったのですが、卒業後は研究職よりも営業職に就きたいと考えていました。グンゼはもともと繊維会社でしたが、時代の流れとともに合成繊維へシフトし、そこから派生してプラスチック包装用フィルムの事業部門が誕生しました。私はこの分野には将来性を感じており、入社前から関心を持っていました。当時の事業部長が原料メーカーの営業に理系出身者を求めていたこともあり、グンゼ株式会社に入社後、最初からプラスチック部門に配属されたのです。
ーー入社後のキャリアについてもお聞かせください。
花岡裕史:
私のキャリアは営業が4割、技術・生産が4割、海外が2割です。営業では食品やトイレタリー、化粧品メーカー様を担当し、包装や容器のニーズを聞きながら『こういうフィルムを作ったら広がるかな』とPDCAを回しました。お客様の声を聞き、どんなものをどんなコンセプトでつくるべきかを実践する経験ができました。
技術・生産側では、営業が考えたコンセプトを受けて、お客様が喜ぶ商品はどういうものか、どこを特徴とすべきかといった視点を持ちました。立ち上げに関わり、使用が広がっていく流れを経験できたことは大きいですね。
海外では、日系メーカーは質が良いのに価格で負けるという現実を肌で感じました。付加価値を付けても価格が合わない地域もあり「物はいいけど高すぎる」と言われたこともあります。この経験が、社会性と経済性を両立させる発想の基礎になっています。
「ゴミゼロ工場」の実現と資源循環への「本気」の取り組み

ーー資源循環に向けた取り組みについて詳しく教えてください。
花岡裕史:
まず、フィルムを製造する工場で生産作業における「ゴミゼロ」を実現しました。産業廃棄物をいかに綺麗に集めて資源として工場内に戻すかを積み上げ、必要な設備も導入しました。これを進める上で特に重要だったのは、従業員一人ひとりの理解と協力です。
面倒な分別や資源化について説明会を重ね、『捨てずに戻せばまたフィルムになる、効率も上がる』と丁寧に説明をしました。会社の方向性や社会性と経済性の両立というビジョンを共有しベクトルを合わせたことが大きいですね。
フィルム製造側ではゴミゼロを達成しましたが、印刷加工部門のゴミゼロ化は今後のテーマです。将来的には印刷加工時に出るゴミも戻し、最終的にお客様で出た使用済み包装材も回収・再利用するグループ循環モデルを構築したいと考えています。
ーー環境へ配慮した商品を製造する上で生じる課題への具体的な対策を教えてください。
花岡裕史:
環境に配慮したものをつくろうとすると、どうしてもコストが高くなるのが現実です。社会貢献だけを目指すにしても、経済性が伴わなければ広く普及することはできません。だからこそ、私たちは社会性と経済性の両立を基本方針としています。具体的には、フィルムを薄肉化することでプラスチック量を削減し、コストダウンを図っています。また、印刷加工などの工程では、省力化や無人化を進めることで製造原価の低減にも取り組んでいます。
一方で、資源を回収して再利用するリサイクルには、どうしてもコストがかかります。私達はその増分コストを生産側の効率化によって相殺する戦略を取っています。徹底した自動化を進める守山工場は、そのモデルケースです。競争力を維持しながら、着実に環境対応を推進しています。
包装フィルムの未来と求める人物像
ーーどのような人材を求めていますか?
花岡裕史:
ともに働く仲間には、高い目標を持ってほしいと考えています。私達は、社会貢献への思いと「共存共栄」の精神を大切にしており、サプライヤー様・お客様・社員と共に成長していくという考えに共感していただける方を求めています。中でも特に力を入れているのが、イノベーションを担う開発系技術者(化学系、電気系、機械系など)と、資源循環モデルを広める営業系人材の拡充です。「本気でやれば乗り越えられる」と共に挑戦していける方に来ていただきたいです。
ーー最後に、今後の展望についてお聞かせください。
花岡裕史:
グループ全体としては、2030年に向けて循環比率を高めることを目指しています。その実現に向けては、「商品開発のイノベーション」と「生産技術のイノベーション」の二本柱で取り組んでいきます。前者ではゴミゼロを目指した製品づくりやインキのリサイクル向上に取り組み、後者では省人化・自動化によって生産の効率を図っています。
将来的には、プラスチック包装材がネガティブに捉えられない社会を実現したいと考えています。現在、ペットボトルのリサイクルが一般的になっているように、最終的にはすべての包装材がリサイクルされる循環型社会を目指しています。この資源循環モデルを、日本国内にとどまらず、世界へと広げていきたいと考えています。
編集後記
花岡社長の言葉からは、困難な目標である環境対応と事業成長を両立させようとする「本気」の決意が強く感じられた。資源循環をグループ全体、さらには社会全体で推進していくという壮大なビジョン、そしてそれを実現するために社員一人ひとりのベクトルを合わせる取り組みは、まさに「共存共栄」の精神に基づいているのだろう。包装材のネガティブイメージを払拭し、持続可能な社会の実現に貢献しようとする同社の今後の挑戦に注目したい。

花岡裕史/1988年関西大学卒業。同年グンゼ株式会社に入社・プラスチック事業部に勤務。2017年営業統括部長就任、2019年技術部長および守山工場長に就任。2022年執行役員およびプラスチックカンパニー長に就任、現在に至る。