※本ページ内の情報は2026年4月時点のものです。

京都府京丹後市に拠点を置き、住宅設備や管工機材の卸売事業を核として、地域の暮らしを支える中山商事株式会社。同社は現在、飲食やWell-beingといった新たな領域にも挑戦し、事業の多角化を推進している。代表取締役に就任し、危機的状況にあった会社を再建し、「100億円企業」という明確なビジョンを掲げ、地域の安定雇用と活性化を目指す。予期せぬ形で家業を継いだ同氏が、いかにして会社を立て直し、未来を描いているのか。その軌跡と経営への思いに迫る。

予期せぬ事業承継 会社再建の使命を背負って

ーー社会人としてのキャリアはどのようにスタートされたのでしょうか。

中山良:
大学時代のアルバイトでイベントスタッフの派遣を経験したこと、自動車業界に関わりたいという思いが重なり、自動車メーカーを顧客に持つ技術系の人材派遣会社に営業として入社しました。人材派遣の営業は、クライアントへの人材提案だけでなく、派遣社員の労務管理も担います。派遣法や契約関連法規の知識も必要で、人事や総務の側面もあり、いわば事務方のオールマイティな仕事をしていた感覚です。この人材派遣会社の経験で、契約書を精査する力や労務管理に関する感覚が鋭くなりました。働き方改革が叫ばれる今の時代において、企業のリスクを感覚的に察知できるようになったのは、この頃の経験が大きく、経営者としての素地が形成された期間だったと感じています。

ーーどのような経緯で貴社へ入社されたのですか。

中山良:
2008年のお盆に帰省した際、父に転職を考えていることを伝えたところ、初めて会社の経営危機を知らされました。自宅も担保に入っており、会社がなくなれば全てを失う状況でした。すでに父がある程度、祖父が作った会社と新会社で吸収分割する再建計画に着手していたこともあり、私の返事次第で物事が進む空気感で、まさに“やらざるを得ない”という状況でした。いずれは家業に戻ることもおぼろげに考えてはいましたが、想定よりもかなり早いタイミングでの決断となりました。

経営の基盤を固めた理念と人事制度の改革

ーー代表取締役に就任された当時のお気持ちをお聞かせください。

中山良:
2012年に代表に就任しましたが、当時はとにかく必死でした。会社には10年間の再建計画があり、「これを完遂しないと会社がなくなる」という思いで、計画の達成に追われる毎日でした。ちょうどコンサルタントに入ってもらっていた時期でもありましたので、まずは経営理念の明確化に着手しました。その後、社長就任を機に人事評価制度や給与体系の整備も実行。社員一人ひとりの評価がはっきりと分かる仕組みを作り上げました。

ーー財務面ではどのようなことを意識されていましたか。

中山良:
会社に戻ってから、管理会計の重要性を痛感し、財務諸表をしっかり見るようになりました。特に印象に残っているのが、当時、定期的に実施されていたバンクミーティングの際に銀行の審査部の方から言われた言葉です。「ちゃんとメルクマール(目標や指標)を持ちなさい。いつ、どうなるのかを把握して経営してください」と。決算報告で銀行本店に行った際、厳しい指摘にうまく答えられなかった悔しい経験もあり、そこから財務指標に対する意識が格段に強くなりました。理想の状態をきちんと描き、そこへ向かう道筋を明確にすることの大切さを学びました。

暮らしを支える事業の変遷と新たな挑戦

ーー経営基盤の強化に取り組まれる一方で、事業面において新たに取り組まれたことはありますか。

中山良:
既存の卸売事業に加え、新たに「飲食」と「Well-being」という二つの事業を立ち上げました。飲食事業については、「土の中から家の中、家の中から食卓の上」といったイメージで、従来の社会インフラ事業だけでなく、より生活者に近い“食”の分野に可能性を感じ、2020年に開始しました。食材が豊富な京丹後市の魅力を発信する拠点を作りたいと考えたのです。もう一つのWell-being事業は、私が所属していた青年会議所での活動がきっかけで、2022年に開始しました。本事業では、生産性向上のための働きがいや、幸福度を向上させるための支援サービスを展開しています。これからの社会では、働く人の幸福度を高めることが企業の生産性向上に不可欠であると確信し、事業化を決断しました。

ーー異業種への挑戦で、特に難しさを感じるのはどのような点ですか。

中山良:
飲食事業では、職人の世界ならではの常識や働き方の違いに直面しました。研究開発的な要素もあり、長時間労働になりがちで、私たちの労務管理の考え方とのすり合わせが難しい点です。また、Well-being事業も、サービスをどう売っていくかという点で、業界特有の難しさがあると感じています。

100億円企業へ 組織とブランドを育てる未来戦略

ーー経営において最も大切にされている考え方をお聞かせください。

中山良:
地方の会社として、地域を盛り上げるベースは雇用にあると考えています。安定して働ける場所があり、それなりの収入が得られれば生活は安定します。そうした会社が増えれば、地域にお金が循環し、サービスも充実していく。自社が強くなることで雇用を生み出し、地域にプラスの循環をもたらす企業でありたいと思っています。

ーー今後の展望や目標についてお聞かせください。

中山良:
明確なビジョンとして「100億円企業」を目指しています。その実現に向けた戦略として、事業の多角化を進めるとともに、安売りではなく、世の中に求められるサービスを提供することで利益率を上げていく考えです。今後はM&A(※)も視野に入れつつ、既存の卸売だけでなく、暮らしにかかわる自社製品・サービスの比率を高めていきたいです。

また、事業拡大には組織の成長が不可欠です。社員が働きやすい環境作りとしてオフィスの新築などに投資しているのもそのためです。弊社は自社製品を持たない商社ですので、会社そのものの魅力で勝負するしかありません。目指しているのは、“中山商事=中山良”ではなく、社員一人ひとりが世の中に影響力を持てるような組織です。ホームページなどで公開している非財務指標も含め、上辺だけでなく実を伴った、客観的に“すごい”と思ってもらえるような会社に育てていきます。

(※)M&A:Mergers(合併)and Acquisitions(買収)の略。企業の合併や買収を行い、経営権を取得すること。

若き才能と共に描く未来 求めるのは「何かを成し遂げたい人」

ーー次世代のリーダー育成や、若手が活躍できる環境づくりについてお聞かせください。

中山良:
私が入社した頃に採用した社員たちが30代になり、今、20代の層に穴が開いている点が組織上の課題です。「100億円企業」を目指す上では組織的な動きが不可欠であり、会社の方向性を理解しつつ、柔軟な発想で新しい事業を生み出せる人材の育成が急務だと考えています。

そのため、若手が主体的に挑戦できる環境づくりに注力しています。たとえばDX推進の一環で導入した業務効率化ツール「kintone(キントーン)」では、社員自らが「こんな機能があったらいいのに」と考え、アプリを開発・実装する動きが生まれています。また、年に二度、全社員が私と直接話す機会も設けており、「こんなことをやりたい」という提案があれば、「じゃあ任せる」と背中を押すようにしています。このように、意欲ある社員に裁量を持たせて任せる風土こそが、弊社の強みだと自負しています。

ーー最後に、この記事の読者である若手の方々へメッセージをお願いします。

中山良:
「こんなサービスがあったらいいのに」を実現したい人、何かを成し遂げたいという思いを持った人を歓迎します。将来的に独立したいという人も支援します。本社は地方にありますが、熱意のある方ならどこにいても活躍できるはずです。ぜひ一緒に未来を作りましょう。

編集後記

突然の経営危機により、家業の再建を託された中山氏。その経験は、財務への強い意識と、会社を未来へ繋ぐという固い決意を育んだ。同氏の視線は、自社の成長だけに留まらない。「安定雇用こそが地域活性化の基盤」という言葉には、企業が地域社会で果たすべき役割への深い洞察が込められている。掲げた壮大なビジョンに向け、異業種にも果敢に挑戦する姿は、変化を恐れず未来を切り拓こうとする全てのビジネスパーソン、特に地方で働く若者にとって大きな刺激となるだろう。

中山良/1983年に京都府中郡峰山町(現・京丹後市)に生まれる。京都産業大学の経済学部を卒業後、技術系の人材派遣の会社で4年間就業。経営危機に直面し、再建計画の条件として先代社長の父から経営を引き継ぐため中山商事株式会社に入社。2012年に代表取締役就任。変化の早い時代の中でいつまでも必要とされる企業として、雇用を生み出す新しい事業を模索中。