
1960年以降の関連法制化において一役買い、ガス消火設備のパイオニアとして業界を牽引し続ける株式会社コーアツ。需要が急増する中、同社は今、盤石な体制づくりという新たなフェーズに突入している。管理部門出身という経歴を持ち、2021年のコロナ禍で代表取締役社長に就任した佐々木孝行氏は、「社員が安心して働き続けられる会社」を目指し、組織改革と人材投資を推し進めている。社会の安全を根底から支える同社の強みと、次世代を見据えたビジョンについて話を聞いた。
コロナ禍での社長就任 目指すは「社員が安心して働ける環境」
ーーまずは、これまでのキャリアについて教えてください。
佐々木孝行:
入社1年目こそ研究開発やものづくりに携わりましたが、その後は情報管理室や総務、人事、経理といった管理部門の仕事を長く経験してきました。そのため、営業や設計、製造といった現場の直接的な経験はありませんが、入社2年目から携わった社内システムの更新プロジェクトは、私のキャリアにおいて大きな転機となりました。日々苦労の連続でしたが、各部門の主要なメンバーと密にコミュニケーションをとる絶好の機会となり、その後の業務の円滑化やマネジメントスキルの向上につながったと感じています。
ーー管理部門出身で社長に就任されるのは珍しいケースなのでしょうか。
佐々木孝行:
IT化の推進など経営陣の意図を具体的な形にする役割を担ってきたため、常に経営の側で仕事をしてきました。社長就任前の3年間は、東京支社の支社長を務めましたが、そこで私に求められていたのは自ら数字をつくることではなく、組織をまとめ、その力を最大化することだと受け止めていました。現場経験がない私がトップに立ったことで、逆に周囲のメンバーが「力にならなければ」と奮起してくれたのは非常にありがたい経験です。管理部門に長く身を置き、社内で最も多くの社員と接する立場にあったからこそ、今の私があるのだと感じています。
ーーコロナ禍の真っ只中での社長就任でしたが、どのような思いで経営に臨まれましたか。
佐々木孝行:
当時、最も強く胸に抱いていたのは「社員が安心して働き続けられる会社にしたい」という思いです。コロナ禍で対面での営業活動が制限されるなど、先行きの見えない苦労は多々ありましたが、そうした困難な状況下だからこそ「コーアツに入ってよかった」と思ってもらえる環境を整えることが、私の最大の使命だと感じていました。
水で消せない火災を防ぐ パイオニアとしての誇りと揺るぎない社是

ーー事業内容と主力製品であるガス消火設備の強みについて教えてください。
佐々木孝行:
「火を消す」というと、水や一般的な消火器をイメージされる方が多いと思います。しかし、データセンターや電気室、美術館などで水を使ってしまうと、重要な通信設備や貴重な美術品が取り返しのつかないダメージを受けてしまいます。そういった場所で真価を発揮するのが、気体(ガス)を使って消火する「ガス消火設備」です。現在は、窒素ガスを消火剤とした設備が主力です。
火災が発生した際、空間に一気に窒素ガスを放出して酸素濃度を低下させることで消火します。仕組み自体はシンプルですが、消火剤による汚染がないため早期復旧が可能であり、消火剤も長期にわたって変質しないという極めて大きなメリットがあります。また、ガス自体の圧力で放出するため、外部の動力電源に頼らずに確実に作動させることができる点も強みです。
ーー他社と比べて貴社ならではの強みはどこにあるとお考えですか。
佐々木孝行:
「ガスで火を消す」という仕組みそのものは、他社も同様です。しかし、弊社には長年培ってきた圧倒的な技術力と、それに裏打ちされた品質、性能があり、それらがあらゆる製品の中にしっかりと組み込まれています。弊社は1960年以降の関連法制化の際にも、長年蓄積してきた知識や技術をもとにリーダーシップを発揮し、業界の土台づくりに一役買ってきたという誇り高い歴史があります。長年にわたる信頼の蓄積と、失敗が絶対に許されない環境下で確実な製品を提供し続けてきた実績こそが、弊社の安定した業績の基盤となっているのです。
ーー消火時のガス放出による環境への影響や活用現場についても教えてください。
佐々木孝行:
現在弊社が提供している消火設備のラインナップのうち、主力は窒素ガス消火設備です。窒素ガスは消火の際に大気中にガスを放出しても環境に対する悪影響は皆無であり、環境にとって最も優しい設計となっています。
また、弊社の消火設備が活躍する場はデータセンターや美術館などの閉鎖空間だけではありません。たとえば、大きなローラーで鉄板を薄く伸ばしていく大型圧延機などスパークが発生して出火しやすい設備がある工場では局所的な消火設備として導入されていますし、自動車エンジンの耐久試験を行う施設など、火災リスクが常につきまとう場所でも活用されており、お客様の多様なニーズに応えています。
ーー長年大切にされている「社是」についてもお聞かせください。
佐々木孝行:
弊社の社是は「消火設備のパイオニアとしての使命に徹し、人の生命、財産を守り、社会の安全に貢献する。」です。実は、入社するまで会社の深い部分まで理解しきれていなかったのですが、入社してこの社是と正面から向き合ったとき、素直に「すごくかっこいいな」と感銘を受けました。先人たちが築き上げた仕組みを受け継ぎ、常にリーディングカンパニーであり続けることこそが、これまで大事にしてきた先人への思いを引き継ぐことだと常に意識しています。火災から人命や財産を守るという、社会貢献度の非常に高い製品を供給し続けていることは、私たち社員全員の共通の誇りです。
爆発的な需要に応える「体制強化」と未来をつくる人材への投資
ーーデータセンターの増加等で事業環境も大きく変化しているのではないでしょうか。
佐々木孝行:
コロナ禍以降、データセンターの建設や都市の再開発が急速に進み、対象となる物件の規模がどんどん大型化しています。当分の間、この活況は続くと見ています。しかし、どれだけ仕事の引き合いが豊富にあっても、それを的確にこなすための体力が会社になければ、現場が疲弊し苦労するだけです。そのため、今期新たに策定した中期経営計画でも、「体制づくり」に注力していくことを明確なテーマとして打ち出しました。製造や施工など、あらゆる能力の増強を今後の最大の課題と捉え、製品の安定供給とサービスの質を維持・向上するための盤石な基盤構築を進めています。
ーー体制づくりにおいて人材の採用や育成にはどのように取り組まれていますか。
佐々木孝行:
体制強化には人材の確保が不可欠ですが、まだまだ不足しているのが現状です。そのため、新卒採用も中途採用も積極的に強化しています。特に新卒採用に関しては、組織内の世代間の凹凸をなくし、長期的な視点で組織を育成していくために、コンスタントに採用を続けていく計画です。新入社員に対しては、入社後3ヶ月にわたって手厚く充実した研修を設けています。座学で知識を詰め込むだけでなく、工場で実際の製品を見学し、保守点検や施工の現場にも同行する機会を用意しました。自社の製品が建物の中にどう据え付けられ、どのように機能しているのかを、しっかりと肌で感じてもらいたいからです。その後は、経験豊富な先輩社員とのOJTを通じて、現場でさまざまな実践的スキルを吸収していく仕組みを整えています。
弊社が求める人材像は、全員がリーダー気質であったり、同じタイプである必要はないと考えています。組織として多様性を持ちながらも、共通して元気で誠実であり、コミュニケーション能力とバイタリティにあふれる人材が集まってくれることは、弊社をさらに成長させる大きな力になると感じています。
ーー資格取得等のスキルアップ支援について教えてください。
佐々木孝行:
業務に直結する消防設備士の資格はもちろんのこと、電気工事士や1級管工事施工管理技士などの関連資格、さらにはネイティブ講師による英会話レッスンに至るまで、中長期的な視点で意欲的な社員の資格取得やスキルアップを全面的に支援しています。社員全体の約4分の1を占める入社5年未満の者や若手社員のスキルを底上げし、一日でも早く第一線の戦力になってもらうことが、強固な体制づくりには重要だと考えています。
若手が躍動し時代の変化に挑み続ける「新市場開拓」

ーー社員の皆様がやりがいを持って働けるよう工夫されていることはありますか。
佐々木孝行:
弊社の社員は、皆それぞれが社会的意義を感じ、強いやりがいを持って働いてくれていると思っています。施工管理の担当者が「大きな現場を無事に納めたときの達成感がたまらない」と語ってくれたり、製造現場の社員が「新製品を完成させたときに大きな喜びを感じる」と話してくれたりしています。そういった現場の生の声を聞くのは、経営者として本当に嬉しい瞬間ですね。
私たちは失敗を恐れずにチャレンジしてもらい、「まずはやってみなさい」と背中を押せる風土を何よりも大切にしています。特別なインセンティブ制度などを設けているわけではありませんが、若いうちから責任ある仕事を任せ、自らの力で活躍できる場を提供できる環境があると思っています。
ーー最後に、今後のビジョンをお聞かせください。
佐々木孝行:
ガス消火設備という専門事業の軸を変えるつもりは一切ありませんが、現在の主戦場である市場はニッチであり、いずれ成長の限界が来るかもしれません。そのため、商品力の強化とともに、新たな市場の開拓には積極的に取り組んでいかなければならないと考えています。
「火を消す」という根源的な仕組みそのものは変わりませんが、時代によって要求される性能や環境配慮の基準は常に変化してきました。二酸化炭素から始まり、ハロン、そして現在の窒素ガスへと、環境への負荷軽減や安全性のニーズに合わせて製品を進化させてきたのが弊社の歴史です。これからも、弊社ならではの高い技術力と独自性を追求し、その時代に求められる商品力の強化を続けることで、社会の安全に貢献し、力強く成長し続ける企業でありたいと思います。
編集後記
「いざというときには必ず動かないといけない。だからこそ、常に監視をし、動き続けているんです」。消火設備に対する佐々木氏のこの言葉が、非常に印象に残った。普段私たちの目につかない場所で、確実に作動するための準備を怠らない。その姿勢は、爆発的な需要拡大が続く中、浮足立つことなく着実に「体制づくり」を進める同社の経営スタンスそのものと重なる。社会インフラを支えるパイオニアとしての矜持と、若手の挑戦を後押しする温かな眼差し。今後、同社がどのような進化を遂げるのか、その飛躍が楽しみだ。

佐々木孝行/1965年大阪府生まれ。1987年大阪工業大学経営工学科卒業後、高圧瓦斯工業株式会社(現・株式会社コーアツ)に入社、取締役総務部門長、常務取締役東京支社長を経て、2021年同社代表取締役社長に就任。