※本ページ内の情報は2026年4月時点のものです。

「ドローンショーは日本の伝統文化になり得る」。そう語るのは、国内最大級のドローンショー運営企業、株式会社レッドクリフを率いる佐々木孔明氏だ。かつてバックパッカーとして世界を旅し、建築家を目指していた青年は、なぜドローンという未知のテクノロジーに人生を賭けたのか。その背景には、独自の原体験と鋭いビジネス嗅覚に裏打ちされた決断があった。夜空に数千の光を操り、世界規模のエンターテインメントを目指す佐々木氏の軌跡と未来への展望に迫る。

ポスター貼りで旅費をゼロに「仕組み」をハックした学生時代

ーーまずは、キャリアのスタートについてお聞かせください。

佐々木孔明:
大学生の頃、自分ならではの旅がしたいと思い立ち、世界一周に出ました。最初はピースボートを利用したのですが、ここには「ポスターを貼ると旅費が割引になる」という制度がありました。3枚貼ると1000円割引といった具合です。私は成果報酬型の仕組みをハックしようと考え、毎日ひたすらポスターを貼り続けました。結果、通常なら100万円以上かかる旅費の全額割引を勝ち取り、実質ゼロ円で世界一周しました。

ーーそこから、どのようにして現在の事業へとつながっていくのでしょうか。

佐々木孔明:
実は、ドローンを手にしたのは2周目の旅のときです。1周目はピースボートで世界を見て回りましたが、次は自分ならではの旅をしたいと考えていました。もともとガジェット好きだったこともあり、当時まだ珍しかったカメラ付きのドローンを購入したんです。バックパッカーとして旅をしながら、世界各地の観光地でドローンを飛ばして撮影していたのですが、当時はまだ規制も緩く、どこへ行っても注目の的でした。特に中国などでは、街中で普通にドローンが飛んでいて、その技術の進化と普及スピードに衝撃を受けたのを覚えています。

建築は待ってくれるが「ドローン」の波は待ってくれない

ーー帰国後、現在のドローン事業へ進むことになったきっかけはなんですか。

佐々木孔明:
大学では建築学部で学び、建築家を志していました。しかし、旅を終えたあと、「一度は建築以外の世界も経験してみたい」と、自らドローンの求人を検索したんです。そこで運命的に出会ったのが、愛用していたドローンメーカー「DJI」の日本1号店。オープニングスタッフの募集を見つけ、まずはアルバイトとして働き始めました。そこで空撮だけでなく、農業、物流、測量、人命救助まで対応できるドローンが持つ可能性に触れ、「これは間違いなく時代が変わる」と確信したんです。

そこで私は大学を中退し、その店の正社員になる決断をしました。周囲からは反対されましたが、私の考えはシンプルでした。「建築の勉強は5年後、10年後でも戻ってこられる。でも、ドローン産業が爆発的に成長しようとしている『今の波』だけは、今を逃せば二度と乗ることはできない」。その直感に従い、学業よりもビジネスの最前線を選びました。

ーーその鋭いビジネス感覚は、どこで養われたのでしょうか。

佐々木孔明:
実は中学生の頃、アイドルオタクだった経験が生きているかもしれません。当時、人気チケットの入手難易度や限定グッズの市場価値を読み解き、ファンの熱量がどうお金に変わるのかを肌で感じていました。価値あるものが、それを欲しがる人のところでどうお金に変わるのか。ビジネスの本質を遊びの中で体得していたのだと思います。私にとってエンターテインメントは単に消費するものではなく、ビジネスの学び舎でもありました。

空撮から世界の舞台へ ドローンで描く日本発の「空の劇場」

ーーその後、独立されてからは順調でしたか。

佐々木孔明:
そうですね、最初は空撮の会社としてスタートしました。映画やドラマの撮影などで実績は積んでいたのですが、さらに事業を拡大させる大きなきっかけがありました。それが2021年、ドバイを訪れたときのことです。現地の商業施設では毎日のようにドローンショーが行われており、夜空に「TikTok」などの企業ロゴが浮かび上がっていました。それを見て、集まった大勢の観客がスマートフォンを向け、SNSに投稿している。「これは単なるショーではなく、最強の広告媒体だ」と衝撃を受けました。エンターテインメントと広告を掛け合わせれば、ビジネスとして成立する。そう確信して帰国し、資金調達に走りました。

ーー前例のない中、日本での理解や資金はすぐに得られましたか。

佐々木孔明:
当時はまだ「ドローン=危ないもの」というイメージも強く、広告としての実績も日本にはありませんでした。しかし、追い風となったのが、東京2020 夏季オリンピックの開会式です。あの演出によって、日本中で一気に「ドローンショーはすごい」という認知が広まり、そこから資金調達もスムーズになっていきました。

ーー資金調達を経て、事業はどのように拡大していったのでしょうか。

佐々木孔明:
現在では弊社の高いアニメーション技術を評価していただき、大規模なショーを多数担当するようになりました。直近の実績としては、2025年に開催された大阪・関西万博のプロジェクトが挙げられます。

万博では、プラチナパートナーとして会期中に連夜1000機規模のドローンショーを実施しました。開幕日には1749機のドローンを用いて巨大な木を描き、「マルチローター/ドローンによる最大の木の空中ディスプレイ」としてギネス世界記録™を達成しています。さらに閉幕日には国内最多となる3000機を飛行させ、公式キャラクターの「ミャクミャク」を夜空に描写したほか、会期中の累計飛行数140194機でもギネス世界記録™を樹立することができました。

日本のアニメと融合し「空の劇場」を世界へ

ーー最後に、今後の展望をお聞かせいただけますでしょうか。

佐々木孔明:
今後は、クライアントワークだけでなく、「レッドクリフ・スカイシアター」というドローンショーを見るための劇場をつくって、自主興行に力を入れていきます。ショーのイメージは、空のシルク・ドゥ・ソレイユやチームラボのような感じです。専用の劇場や特定のエリアで、チケットを買っていただく価値のあるショーを提供する。具体的には、日本が誇るアニメなどのIPコンテンツとドローンショーを融合させ、世界中に発信していきたいと考えています。インバウンドの観光客が「これを見るために日本に来た」と言ってくれるような、日本の新たな観光資源となるエンターテインメントをつくり上げることが目標です。空というキャンバスには、まだまだ無限の可能性がありますから。

編集後記

「建築は待てるが、ドローンの波は待てない」。佐々木氏の言葉には、時代の潮流を読む卓越したセンスと、リスクを恐れず飛び込む行動力が凝縮されていた。中学生時代の原体験から続く「価値を見極める目」は、ドローンという最先端技術と出会い、夜空を巨大なメディアへと変貌させた。大阪・関西万博でのギネス世界記録™樹立など、大舞台での圧倒的な実績も糧として、日本のコンテンツを武器に世界という舞台でどのような「空の芸術」を見せてくれるのか。同社の挑戦は、まだ始まったばかりだ。

佐々木孔明/1994年12月、秋田県秋田市生まれ。大学在学中にドローンと共に世界一周の旅へ。帰国後、世界最大手ドローンメーカー「DJI」の日本1号店オープニングスタッフとして販売・講習・空撮を担当。2019年に株式会社レッドクリフを起業し、2021年より国内最大規模のドローンショーを企画・運営。2024年「Forbes JAPAN 30 UNDER 30 2024」に選出。